正確なキックを蹴るには?を物理的観点から考える #3ボールの回転について
#1ではボールの構造を解説し、#2ではボールに対してどのように力を加えるべきかを解説してきました。
#3では、ボールの回転を含めたキックの解説をしていきたいと思います。
そもそもみなさんはなぜ回転のあるボールが曲がるかご存知でしょうか?
答えは「揚力が働くから」です。
初めて聞いた人も多いと思いますので説明しますと、
「物体は動いているとき、空気の流れが速い側の圧力は弱くなる。それによって生じる力。」です。
「ん?どういうこと?」
おそらくそう思われると思うので、もう少し深堀りして説明します。
左斜めに曲がるカーブボールを蹴るとボールの回転は次の図のようになります。
この場合の下の図の部分の空気の流れを見ていきましょう。
まず、ボールの進む向きと逆方向に空気は流れていきます。
この図に回転を加えるとこうなります。
ボールの回転により、上の空気が下に流れていきます。
すると、上の空気の流れが遅くなり下の空気の流れが速くなります。
すると動いている物体には、 空気の流れが速いほうの圧力(ここでは押す力とします)が弱くなるという性質があるので、上の空気の押す力が下の空気の押す力よりも強くなります。
ボールを押す力に差が出ることで、ボールは下向きに下がっていきます。これが揚力です。
回転を正面から見ると、ボールにはこのような向きで揚力がかかるので、ボールは左斜め下に曲がっていきます。
では、このような回転を加えるにはどうすればよいか?
答えは
「ボールに対する力の向きを変える」です。
例としてロングキックのバックスピンを考えてみましょう。
まず、力の向きですが、斜め上にボールを飛ばすキックなのでボールの中心をとらえるとこのような向きになります。
これに対してバックスピンをかけるにはボールの下半分に地面と平行な力を与える必要があります。
ボールの中心をとらえ続けると回転はかかりませんし、ボールの下半分に地面と平行な力をかけ続けるとボールの飛距離が出ません。
そこで「ボールに対する力の向きを変える」が出てきます。
ボールに接する瞬間はボールの中心をとらえ、それ以降は地面と平行な力を与え続けます。
「え?そんなことできるの?」
そう思われるかもしれませんが、実際のロングキックの場面をスローで見ると次のような運動がおこなわれています。
1.スパイクのボールと当たる部分が ボールの中心をとらえる
2.地面と平行に振り抜く (地面と平行ではない場合もある が、振り抜く角度はいずれの場合 も1.の角度よりも地面に近くな る)
このときに振り抜く角度が地面と平行に近ければ近いほど回転が強くなります。
この「ボールに対する力の向きを変える」という考え方は他のキックにも使うことができます。
例えばカーブの場合はキックする部分をボールの中心に触れた後、カーブさせる方向と逆方向に振り抜けば蹴ることができます。
いかがでしたか?
今回はボールに対する力の加え方をメインに良いキックを蹴る手がかりを考察してみました。
この考え方を理解しておくと#1にあるよく聞くキックの蹴り方の理由がわかるようになます。
「軸足のつま先を相手に向ける」
→つま先の向いている方に人間の体は動きやすいので、ボールの中心を蹴っている部分を相手に向け続けやすいから。
「シュートのときは上体を被せる」
→足が上にあがりづらくなるので、シュートするコースにボールの中心を蹴っている部分を向け続けやすいから。
「ボールの中心をとらえる」
→ボールの中心をとらえないとボールに勢いがつきづらいから。
よく聞くキックのコツはフォームや助走など「身体の使い方」にフォーカスしたものが多いように思います。
ですが、私は「ボールに対してどのような力を与えるか」を理解し、そのためにはどのような「身体の使い方」をすれば良いかを考えるという順序でなければ上達するのに時間がかかってしまうように思います。
今回はそんな思いから私にとっての基本であるボールに対する力の加えかたを記事にしました。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
今回の記事が少しでも役立てば幸いです。