毎年2倍になるお年玉
皆さま明けましておめでとうございます。
突然ですが、日本のお正月にはお年玉という慣習がありますね。
私にも孫がいて、お正月はもちろん毎年お年玉をあげています。
数年前、孫が10歳の年のお正月、いつものようにお年玉をあげようとすると、孫が言いました。
「おばあちゃん、今年は僕、お年玉は1円でいいよ」
「え、1円!?」
私はびっくりして聞き返しました。
「おばあちゃん、親戚の子もいるし、色んな子にお年玉あげるの大変でしょ。その代わり、来年は2円、再来年は4円と、毎年、金額を2倍にして欲しいんだ。悪い話じゃないでしょ?」
確かに、正直お年玉の出費は痛いと思っていた私は、こんな美味しい話はないと思い食いつきました。
そして約束通り、次の年は2円、その次の年は4円と、お年玉を2倍にしていきました。
わかりやすく式で表すと、孫が n 歳のお正月は、お年玉として $${2^{n-10}}$$円あげることになります。
月日は経ち、孫は18歳の高校三年生になりました。その年はお年玉256円を渡しました。高校生が256円でまともに遊べるのかと心配になりましたが、孫はとても喜んでくれました。やはり、孫の喜ぶ顔は可愛いものです。
ここでふと、ある考えが頭をよぎりました。
孫は現在、高校3年生です。来年の進路はどうするつもりなのでしょう。
うちの方針的に、孫が学生のうちはお年玉をあげなければいけません。
仮に大学に行くと言い出した場合、あと4年は学生です。大学4年生、すなわち22歳のお正月には4,096円あげなければいけません。
さらに、もし大学院にまで行くと言い出したら、追加で2年なので、2年後は1万6384円もあげなければいけません。
さらにさらに、もしその上の博士課程まで進むのだとしたら、博士課程は3年なので、最後の年はなんと、13万1072円もあげなければいけないのです!
お年玉で孫に13万もあげるなんて、絶対に嫌です。
私はこのことに気づき、急いで孫に来年からの進路のことを聞きました。すると案の定、孫は東大を受験するつもりだと言いました。
孫は昔から頭が良く、学校の成績もピカイチでした。現に東大を志望していますし、このまま進学させたら間違いなく博士課程まで進むでしょう。
私は必死で孫を説得しました。
「大学なんてバカの行くところだ」
「勉強なんて出来たって意味ない」
「私たちは政府に騙されている!」
私は5時間にも渡って説教をしました。
孫は後半は白目を剥いていましたが、その甲斐あって、孫は大学に行くのをやめ、高校卒業後は夢だった声優を目指すと言ってくれました。
私はホッと胸をなでおろしました。
そして、4月から孫は声優学校に通い始めました。
声優になるのに学校に通うことになるとは予想外でした。学生である以上、お年玉はあげなければいけません。
声優学校なんて1年で終わるだろうし、大学に行くよりマシだと自分に言い聞かせながら、その年はお年玉512円をあげました。
しかし孫には声優の才能がなかったようで、声優になる前に中退してしまいました。
次の年から孫は、「タクシーの運転手になる」と言って自動車学校に通い始めました。
仕方なくその年はお年玉1024円をあげました。
しかし孫には運転の才能もなかったようで、4回連続効果測定に落ちた挙句、1年で自動車学校を中退してしまいました。
ホッとしたのも束の間、次は芸人になると言い出して吉本総合芸能学院、通称NSCに通い始めました。
何で学校とか学院とかが名前につくところばかり通うんだとイライラしながら、その年はお年玉2048円をあげました。
孫にはお笑いの才能があったようで、卒業する頃にはレギュラー番組が決まっているようでした。
私は、ついに正式に就職だと安心しました。
孫は『平成教育委員会』という番組のレギュラーになったようでした。
嫌な予感がしつつ番組を見てみると、明らかに学校をコンセプトにした番組でした。これではお年玉をあげなければいけません。
ため息をつきながら、その年はお年玉4096円をあげました。
しかし私が毎週、怒涛のクレームを入れまくった甲斐もあり、その番組は次の年には終了しました。私はガッツポーズしました。
せっかく掴んだ夢を奪われた孫はやる気を失い、芸人を辞めました。そして晴れて無職になりました。無職にお年玉をあげる義務はありません。
私はやっと解放されたと思いました。
しかし、どうやら孫が自暴自棄になり、風俗にはまっていると耳にしました。孫は熟女教師に説教されるというコンセプトの『豊満♡熟女学園』という風俗に毎日通っているようでした。
風俗とはいえ、毎日学園に通っている以上、孫は学生と認めざるを得ません。
その年はお年玉として8192円あげました。
そのあげたお年玉も風俗に消え、孫はついに貯金を使い果たし、風俗に通えなくなりました。熟女学園中退です。
一文無しになった孫は私に助けを求めてきましたが、「学生じゃあるまいし」と突き返しました。
路頭に迷った孫はいとも簡単に宗教勧誘に引っかかってしまいました。
孫は『幸福の学び舎』という明らかにやばそうな宗教団体に入団しました。
私は宗教にハマった孫を心配するより先に、その宗教団体の名前に幻滅しました。学び舎という名前のせいで、孫はまた学生になってしまったじゃありませんか!
舌打ちしながら、その年はお年玉として1万6384円あげました。
これでもまだ、大学の博士課程に行くよりはマシです。
博士課程に行かせてたら13万も払わなきゃいけなかったのだから!そう、自分に言い聞かせました。
元々は頭の良い孫です。きっとすぐに宗教なんかからは足を洗ってくれるでしょう。
あれから16年、
私は、今年40歳になるニートの孫に、お年玉10億7374万1824円をあげなければいけません。
孫は未だに『幸福の学び舎』に通い続け、駅前とかで大声を出してる、アレ系のおじさんになってしまいました。
警察が止めに入っても孫は
「勉強なんて出来たって意味ない!我々は政府に騙されている!」
と叫びながらバタバタと暴れ回ります。
いつかの正月に私が教えた言葉です。
こんなに深く孫の思想を捻じ曲げてしまうなんて…。私は激しく後悔しました。
思えば、熟女教師に説教される風俗に通っていたのも、私の5時間の説教で性癖が歪んでしまったのかもしれません。
あぁ、あの時、お年玉をケチらず大学に行かせてやれたら。純粋に孫の幸せを願ってやれていたら…。
もう貯金が尽き、お年玉を払えなくなった私は、自己破産しようとしました。
しかしそんな時、孫が手を差し伸べてくれました。
なんと、持っているだけで驚くほど簡単にお金が集まるツボがあるというのです!
その他にも、飲むだけですべての病気が治る水や、宇宙のパワーが宿った数珠なども紹介してくれました。どれも30万円以上はしますが、それ以上に価値のあるものばかりです。
一度は孫を突き放したこの私を救ってくれるんて、何て優しい孫なのでしょう。そして『幸運の学び舎』とは、なんて慈悲深いのでしょうか。
私は、幸せ者です。
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