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タイザン5作、漫画「タコピーの原罪」第六話を読む

東は母の愛情を渇望しているらしい。母の期待、失敗、母の失望。東はそれを恐れる。しずかも東に期待をする。しかし、失敗。だが、母と違ってしずかは、東の失敗を、笑って済ます。

その翌日、しずかが蝉を取って東に見せている場面がある。東は蝉を嫌がっているようだが、まりなに化けたタコピーは蝉を、涎を垂らして見ている。ここでは、蝉は食べ物のように提示されている。

東の母は、成功の報酬としてパンケーキを用意し、しかし失敗した東には、それを与えなかった。しずかは、失敗したはずの東に、蝉を差し出す。東はそれを受け取りはしなかったが、しずかは東にとって、母の代わりになりつつあるのではないか。

東はタコピーの魔法によって死にかけるが、タコピーの魔法で助かってもいる。怪我をせず、兄にも見付からなかった。

翌日、給食の時間、まりなに化けたタコピーがしずかに食事を食べさせようとしている様を、東らしき人物が笑って見ている場面がある。

女子達が驚いていることからも、タコピーの行動は事態の露呈に繋がりかねない不審なものであることが分かる。もし笑って見ている人物が東なら、そこに彼のタコピーに対する心情の変化が見て取れる。以前の彼なら、怒ってタコピーを睨み付けていたことだろう。

東はバイトをしている兄に複雑な思いを抱いている。しずかは、バイトをやめさせたければ、バイトの給料で買った、という兄の指輪を取ってしまえばいい、と唆す。

東は否定的に応じるが、それを遮ってしずかに「東くんなら できそう」と言われると、兄の指輪を取ることを、タコピーを伴って決行する。

東はなぜ、しずかの唆しに乗ったのか。兄がバイトをしていることが気に食わないとはいえ、それをやめさせることができたとして、何になるのだろう。バイトをやめさせられるかどうかは、ここではあまり重要ではないように思われる。

東はしずかの「できそう」という言葉に突き動かされている。東は、指輪を取ることで兄を変えたかった、と言うより、兄から指輪を取ろうとすることで、自分を変えたかったのではないか。

そして、そのように仕向けたしずかは、東を変えようとしていた、と言える。一体、どのように。

指輪というものは通例、約束や契約を象徴するが、この作品では家族の繋がりを象徴するようだ。まりなも、指輪をそのようなものとして語っていた。あるいは、チャッピーの首輪もその「輪」の中に含まれるのかもしれない。

家族の持つ大切な指輪を取る、ということは家族への裏切りであり、家族の繋がりを否定する行為だ。しずかは東にそれが「できそう」と言った。東もその期待に応えようとした。でもそれは失敗に終わった。

東の家族は、東の失敗を許さなかったが、しずかは東の失敗を許す。家族でないことの軽さを、しずかは東に示す。家族であることは重い。重苦しい。だからそんなもの、捨ててしまえ。家族を重苦しいと感じている東には、それが「でき」る。

しずかは東を家族から切り離そうとしている。家族ではない繋がりの中に招き入れるためだろう。しずか自身、家族の繋がりの中にいない子だ。しずかは家族に代わる繋がりを作らなくてはならない。そのための同士が、しずかには必要だ。

まりなは家族の繋がりが解けかけた状況で、尚も新たな指輪を望んでいた。まりなは重苦しくとも家族を捨てず、その再生を願った。しずかや東と違って、まりなは、家族を捨てることなど「でき」ない子だった。

家族を解体しようとする者と、家族を信じ再生しようとする者。しずかとまりなが敵対する、もう一つの理由が、そこにある。

そして、そのまりなは、しずか(とタコピー)によって殺され、東によって土の下に隠された。そのことが、しずかと東が、共に家族の解体を願う者同士であることを暗示している。

最後に、まりなの死体を封じたカプセルの一部が、土中から露出している場面が出てくる。東達が露出させたまま立ち去ったとは考えにくい。土の中に埋め切ったはずのカプセルが、何らかの原因で、独りでに浮き上がってきてしまったのだろう。

家族の再生を願う者の力は、完全には潰えていないようだ。このまりなの死体がどうなって、しずか達にどう影響するのか。果たして、家族の解体か再生かを巡って、子供達はどこへ辿り着くのか。次回の配信を待ちたい。