タイザン5作、漫画「タコピーの原罪」第11話を読む
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東京に辿り着き、ようやく父に会えた、しずかだが、父は見知らぬ子供達と暮らしていた。しずかの突然の訪問に驚き戸惑う父に、しずかは何よりも先ず、チャッピーに会いに来たことを告げる。
家の奥から犬の鳴き声が聞こえるが、しかしそこに現れたのは、チャッピーとは似ても似付かない、見知らぬ犬だった。
父と暮らす子供の一人が目の前のしずかについて、なぜこの子はわたしの父を父と呼ぶのか、と父に訊ねる。
しずかが父と暮らす子供達のことを知らされていなかったのと同じように、その子供もまたしずかのことを父から知らされていなかったようだ。
父は困り果てた後、「よくわからないなぁ」としずかの前で、その子供に知らを切る。その父の対応に、しずかはチャッピーとはもう会えないことを悟って、打ちのめされる。
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しずかは、なぜ今まであのような父を信頼することができていたのか。しずかに聞こえないように知らを切ろうとして、それがしずかに聞こえてしまった、というのであれば、父の対応はまだ理解できる。
だが、この時の父は今の暮らしを守るために、はっきりとしずかを拒絶している。父は、今の暮らしとしずか、その両方を守ろうとはせず、二つを天秤に掛けた末に、しずかを捨てたのだ。
父と別れ、降り出した雨に濡れないように入った、どこかのトンネルの中で、しずかは「あの子供たちが チャッピーを 食べちゃったのかも」と猟奇的な妄想を話す。
そして、ではチャッピーを取りにいかなければ、とタコピーに「人間をつかまえて 胃の中を 調べる道具」を出すように求める。遠回しな言い方をしているが、父と暮らす子供達を罰して殺す道具が欲しい、としずかは言っている。
しずかが何を以てあのような父を信頼し続けることができていたのかは判らない。先程、今暮らす子供との関係を優先したように、しずかと暮らしていた頃は、しずかをちゃんと優先する父だったのかも知れない。
しずかにとって、しずかを優先していた頃の父とチャッピーが結び付いているのであれば、あの子供達はまさにチャッピーを殺し、懐かしい犬を見知らぬ犬に、懐かしい父を見知らぬ父に変えてしまった罪人、ということになる。
タコピーは怯えながら「そんな道具は ない」としずかの要求を拒む。すると、しずかはタコピーの言葉を無視して、その手から道具を強引に奪い取り、復讐の算段を始める。
タコピーはそんなしずかに「もう帰ろう」と言う。「元のしずかちゃんに 戻ってほしい」とも。しずかは変わってしまった。それは「ぼくが頭が悪くて だめだめだ」からだ、とタコピーは謝る。
だが、しずかはタコピーの言葉を遮り、「タコピーももう 助けてくれないんだ」と暗く冷たい目を向ける。タコピーはその目をどこかで見たことがあることに気付く。そして何かとても重要なことを思い出したようだ。
その背後でしずかが石を手にして振り上げる。そして響く鈍い音。その後、場面はタコピーとしずかが最初に出会った公園と思しき場所へ飛ぶ。
土管に隠れるタコピーと思しきものの前に、少女が現れる。その少女は、しずかではなく、成長した、死んだはずのまりなであるようだ。ただし、その頬には以前にはなかった傷がある。
タコピーと思しきものは、まりなに対して名前を訊ねる。それはタコピーではないのか、タコピーだったとしても、これまでの記憶はないようだ。
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タコピーは何か重要なことを思い出したようだが、それは極めて不鮮明にしか描かれない。それどころか、その時の台詞の一部は、描き文字で隠されるとかではなく、伏せ字になっている。
ここでは作者は何らかの情報を読者に提示しながら、同時に、その情報を正確に読み取らせないようにもしている。読者に正確に読み取らせないように意識されているものを、読んで解こうとすることは危険だ。
普通の読者であれば、ここでああだこうだと無心に謎解きを楽しめばいい。しかし、それはただの謎解きであって、読解ではない。この記事は読解を主な目的としているので、今はここで散り嵌められた不鮮明な謎の数々を読むことはしない。
それはさておき、タコピーと東を虜にした、しずかの不思議な力は父には働かなかったようだ。
東は家族の輪から外れかかっていたために、しずかに取り込まれるところだった。兄の介入によって東は家族の輪に戻り、しずかの力は及ばなくなった。父もまた家族の輪に守られ、しずかの力は及ばない。
しずかは、父に受け入れてもらえるはずだ、と思っていた。そこでチャッピーとも会える、と思っていた。しずかは、離婚して孤独に暮らす、家族の輪から外れた父を期待していた。
しずかにとって、期待する父とチャッピーが結び付いているなら、チャッピーもまた家族の輪から外れた者、と言えよう。しずかは家族の輪から外れた者としか、関係を結ぶことができない。
なら、タコピーはどうか。タコピーの正体は不明だが、しずかと関係を結ぶことができているなら、タコピーもまた家族の輪から外れた者の一人だ、ということになる。
そして、二人の関係はタコピーの「もう帰ろう」という言葉で破綻する。だとすれば、タコピーのその言葉は、タコピーが家族の輪に戻ることを意味していることになる。
しずかと一緒に帰ることでタコピーは家族の輪に戻る。そうであれば、しずかとタコピーは何らかの形で家族だった、という可能性がある。
だが、タコピーにはしずかとは別の帰る場所と戻るべき家族がある、というだけのことかも知れない。なら、しずかとタコピーが一緒に帰っても、孤独なしずかが取り残されるだけとなる。
そこでいくらタコピーが、楽しく遊べる道具を出したとしても、しずかの孤独は癒されないだろう。しずかは家族というものを、家族の輪を、憎んでいる。家族の輪こそがしずかを外に弾き出し、しずかを孤独の中に置き去りにするものだろうからだ。
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果たして、タコピーは一体何を思い出したのか。タコピーの身に一体何が起こったのか。死んだはずのまりなが成長した姿で現れた意味とは何か。その頬に傷があることの意味とは何か。次回の配信を待ちたい。