タイザン5作、「タコピーの原罪」第八話を読む 訂正加筆版
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本文を始める前の注意
書いた内容の一部に明らかな間違いがあることに気付いた。しかし、その間違いは内容全体を覆すものではない。よって、公開時の本文には手を加えず、本文を始める前に訂正内容を加筆する形にする。
一つ目。
東の兄の発言から、読者に知らされていない新事実の可能性を読み取ったが、東の兄は東としずかと偽物のまりなが一緒にいるところに現れており、「あの子」がまりなであっても、しずかであっても、問題なかった。
しかしこの訂正を経ても、東と本物のまりなが繋がっていた可能性は否定されるものではない。
二つ目。
東が試験で酷い点を取った原因を、東京行きの計画作成にかまけていたから、としているが、しずかを安心させることで頭がいっぱいだったから、が正確だ。
訂正は以上だ。
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まりなの死体が発見され、彼女の死は世間の知るところとなる。それに関して、東に対する東の兄の口から、興味深い発言が飛び出る。「あの子ってさ お前が 一緒に遊んでた——」。
「あの子」とは、誰を指しているだろうか。第一に、(殺された)まりなのことである、と当然考えられる。だが、「けーさつの人 怖くないか?」という文脈から、警察に犯行を疑われているしずかのことである、とも考えられる。
「あの子」がしずかのことを指しているなら、問題はない。兄は、東がしずかと一緒にいるところに現れている。それを読者も見ている。
だが、「あの子」がまりなを指しているなら、読者にとっては新事実だ。読者は、東とまりなの間に繋がりがあることを知らされていない。もし、二人に繋がりがあるのであれば、やはりこれまでのことが違って見えてくる。
しずかを傷付けるために、まりなはチャッピーに自らの手を噛み付かせた。それは当初、異様に感じられた。普通の女子小学生が考え付くことではない。だが、あれが東の入れ知恵だったとしたら、どうだろう。
東は、当事者以外で最初にまりなの死を知ることになる人物だが、それは森に入っていった、まりなとしずかを追って来たことで、そうなる。
しずかを心配する東の素振りを予め見せられていることで、読者は、東はしずかのことが心配で追ってきた、と思わされる。東もそのように振る舞う。しかし、それは本当か。あの時、東が心配していたのは、本当はまりなのほうだったのではないか。
そうだとすれば、東が妙にしずかに冷淡だったこととも符合する。ただそれだと、まりなの死にもそれほど強く取り乱していないことに疑問符が付く。このことは、東にとってのまりなが、どんな存在だったかに依るだろう。
東はまりなに思いを寄せていたから、まりなに助力したのか。それとも、誰かに承認されたがっていた東が、自分の知性がまりなに求められたので、まりなに助力しただけだったのか。
いずれにしても、東がまりなに入れ知恵していたのだとしたら、そしてしずかが本来はタコピーなしに、まりなを殺害していたのだとしたら、まりなとしずか、二人の死の原因は東だった、ということになる。
今回の東は、四角い吹き出しで、その内心が多く語られている。まるでタコピーのように。タコピーは、二人の少女を死なせてしまった罪を犯した東の、成れの果てではないのだろうか。
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東京行き計画の作成にかまけて、東は試験で酷い点数を取る。それに対し、東の母は、東に報酬のパンケーキを与える。これを東は、母がありのままの自分を、ようやく受け入れてくれたものと思った。
しかし、そうではなく、母は東に失望し、期待することを諦めたのだ。母のパンケーキの意味は、報酬から侮蔑に変わった。あれだけ憧れ求め、きらきらと輝いて見えたパンケーキは、今や輝きもなく、ただ暗くくすんだ、醜い物体として目の前にある。
それでも東はそれを口にしたのだろう。報酬でも侮蔑でも、何でもいい。母の手作りの菓子を味わいたかった。そして夜の公園の便所で、東は吐く。それは決して東が食べたかったものではなかったのだ。
ここには何か東の近親相姦めいた感情とその挫折が表されているように思える。あるいは一方的な恋情の果てに相手を殺して屍姦に及んだ後のような、虚無と後悔と絶望とでも言えるようなものが。
うずくまって、虚心に涙を流す東。そこへ、しずかが気遣うように話し掛ける。食べたものを吐いて空洞となってしまった東の中に、しずかはぬうっと入り込む。
まりな殺害の凶器は見付かっていない。殺害時刻も、道具の効果でずれている。そのまま大人しく時を過ごしていれば、しずかへのまりな殺害の疑いは通り過ぎる。だが、それだと夏休み中の東京行きを潰すことになる。
計画を潰したくない。それだけのために、しずかは東に、まりな殺害の凶器である血染めのカメラを差し出し、まりな殺害の犯人として、身代わりに自首するように求める。
恐らく、東はこれを受諾するだろう。殺害が認定されるかは判らないが、まりなの血液がこびりついたカメラを持って現れれば、少なくとも疑いの目はしずかから東に集中することになる。
東は、もはや死んでいるようなもの。そこへしずかが、辛うじて生きる意味を与えている。なら東は、そのしずかのために生きる他ない。東は空っぽになってしまった自分の人生を、彼女に捧げるしかない。
果たして、東はしずかに自分を捧げて終わるのか。しずかは東を犠牲にした先に何を得るのか。そんな状況の中で、タコピーは何ができるのか。何をしなければならないか。次回の配信を待ちたい。