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後遺症(聴神経腫瘍開頭手術その後)

(この話の続きです)

ここからは退院から1年以上経った現在の視点で、術後の後遺症について書こうと思う。
後遺症は、すぐに出現したものもあれば、半年後に突然出てきたものもある。個人差もあるので、あくまでも私の体験談として読み進めていただきたい。

退院~3か月後

ふらつき

退院後1カ月近くふらつきがあり、外出は困難だった。初めの2週間くらいのうちは近所のスーパーに行って帰るのが限界という状態で、家事はほぼ義母にお願いしてしまった。初めの1か月は本当に、病人らしい病人であった。しかし、2か月くらい経つと、自転車に乗れるほどに回復した。

義母は退院後2か月ほどわが家を切り盛りしてくれた。そこまで密にコミュニケーションを取っていた方ではないのだけれど、本当の娘のように大変良くしてくれた。深謝。

顔面麻痺

退院後3か月くらいの間、一番大変だったのは顔の左半分の顔面麻痺だった。顔面麻痺というのは、顔の筋肉が動かなくなると考えてもらうといいと思う。

退院後のほうがはっきりとした麻痺状態になっていて、まばたきの際にまぶたが完全に閉じないので、起きていると目が乾いて痛くなってしまうのだ。とにかく目を閉じていたかったので、できるだけ横になって目を閉じていた。

とはいえ、目が微妙に開いていることは、ぱっと見はよくわからない。むしろ傍から見て違和感があったのは「表情」だっただろう。

術後3週間くらいの写真はこちら。

口角上げまくりで笑っているつもり

この写真で、私は全力で「笑っている」のだが、そうは見えないのがわかると思う。この写真で言えば右側が顔の左側になるわけだが、口角を上げたり、眉を動かしたりすることができないと人はこんな顔になる。

眉の高さは長い間左右合わなかったのだが、眉メイクをミスっている人みたいで微妙に嫌だった記憶がある。

とはいえ、4か月もすれば顔面麻痺はそこまで目立つものではなくなり、普通の表情を作ることができるように戻った。現時点では、多少本人的には左右差を感じるものの、見た目でほぼわからないほどに回復している。

頭痛

傷口そのものが痛むのか、しばらくは鈍痛もあった。雨の降る前は特に痛みを感じていたように思う。ただ、この痛みは、今まで自分がよく感じていた肩こりから来る頭痛のほうがよっぽど痛かったので、私にとってはそれほど大きな苦痛にはなっていない。ただ、この頭痛は今もたまにある。

4か月~1年後

片目だけ涙が出る

術後半年経った頃に、何かを食べているときに左目だけ涙が出ることに気がついた。辛い物を食べて鼻水が出るようなものかなとあまり気にしないでいたら、涙の量は増えるし、左からしか出ないことで、「もしや」と考え始める。

術後7か月ごろの定期健診で、「食べたら涙が出るんです」と主治医に伝えると、「治りが早い人にたまにあるんだよね」と返ってきた。

顔面神経が修復される際、本来は唾液腺につながっていた神経が、涙腺につながってしまうことがあるのだという。そのため、食べるときに唾液を出すための神経が、食べるときに涙を流す神経になってしまったというわけである。そんなんありか。

「先生、それって、もう神経が別のところにつながっちゃったわけですよね?それって治るんですか……?」
「うーん……。これは治らないんだよね」

そうして、私はごはんを食べると左目から涙が流れる不思議な生物になったのである。

「ワニの涙現象」という言葉もあるそうだ。地球は広い。

難聴

左耳がほぼ聞こえなくなったと入院記にも書いたが、これは当然ながら全く回復していない。ただ。1年経ち、聞こえないことにも慣れ、生活にはほぼ支障はないと言える。

片耳難聴で困る場面は、大きく分けて3つある。

①左側から話しかけられたとき
右側はもちろん、正面であればだいたい聞き取れるが、左側に並んだ位置で話しかけられると、ほぼ聞き取れない。「聞こえている」のだが、何を言っているかがよくわからないという感じだ。右耳ですべての音を聞きとっているため、真左がちょうど死角になるのだと思う。

②大勢の人がいるとき
人の多いざわついた場所でも、両耳なら一緒に話している人の声は聞き取れていた。騒がしい場所で特定の人との会話音を選択的に聞き取ることができることを「カクテルパーティー効果」と呼ぶそうだが、これが片耳難聴になってから全然できなくなった。

話し声に音楽が重なってしまうと悲惨で、もう何が何だか聞き取れない。騒がしいパーティーの席で複数人で会話を楽しむということは、自分にはちょっともうできないんじゃないかなと思っている。

③音が響く場所で話すとき
これが意外と曲者なのだが、建物というのは音が響く場所と響かない場所がある。レストランやカフェもそうで、広いとか狭いとかの違いというより、設計上そうなっているかどうかなのだと思うが、音が反響しやすい空間はとにかくすべての音が聞き取りづらくなってしまう。問題は、店に行ってみるまで「話しやすい店かどうか」がわからないこと。ここがなかなか悩ましく、トライアンドエラーの日々である。

私は上記について常に感じているが、片耳難聴者の全員が同じわけではないかもしれない。詳しくは、きこいろのホームページが一番よくまとまっているので是非読んでみてほしい。

取材の現場では、聞こえないと業務に支障が出る。とはいえ、席の位置を工夫すれば大丈夫だ。また、オンライン取材ならイヤホンで話ができるため、まったく問題はない。

「補聴器は使わないの?」

耳が聞こえないなら補聴器はどうか?と思う読者もいるかもしれない。

実は私も補聴器の可能性を探ったことはある。

難聴には、外耳や中耳に原因のある「伝音難聴」と、内耳や蝸牛神経、脳に原因のある「感音難聴」の2種類がある。

そのうち、よく高齢の方々が患っている、加齢以外に特別な原因がないものを「加齢性難聴」と呼んでいるが、これは「感音難聴」に分類される。加齢によって、蝸牛神経の中にある有毛細胞がダメージを受けることで起きる難聴だ。

私の片耳難聴も「感音難聴」だ。聴神経=蝸牛神経+前庭神経のことで、聴神経腫瘍はそこにできる腫瘍である。腫瘍の手術時に受けたダメージで聴力をほぼ失ったわけで、その機能は二度と回復しない。

ただ、補聴器というのは、小型のマイクロホンとアンプであるため、基本的には小さな音を大きくするという装置である。つまり、ほぼ聞こえない私には無意味なのである。

しかし、片耳難聴者は多くはないが確実にいる。私の悩みにこたえるような補聴器も存在するのではないか?と調べまくった結果、見つけたのが「クロス補聴器」だった。

クロス補聴器とは、聞き取りができないほうの耳に「CROS」という補聴器そっくりの小さい装置をつけ、聞こえる耳に補聴器をつけるという装置だ。CROSの音を、聞こえる音のほうに飛ばし、両方の音を拾うという仕組みで、レシーバーに近い構造である。

退院して1か月後、さっそく近所で販売店にクロス補聴器を見に行った。しかし、店員は、「1週間レンタルしてみて考えたほうがいい」と何度も勧める。「意外と補聴器がなくても大丈夫だと思う人が多くて、あまり売れない商品なんです」というのだ。

値段も40万円を超える代物で、しかも耐用年数は5年と短い。言われるがままにレンタルして利用してみることにした。

40万円もするのでビビりながらレンタル

たしかに聞こえるのだが、右耳の穴も補聴器を入れないといけないため、密閉性が高いというか、開放感がないという感じにやや違和感があり、私も結局は買わなかった。ただ、これを付けたときはカクテルパーティー効果は感じられたので、将来必要があれば購入も検討してみたいと思ってはいる。

なお、片耳難聴の場合、補聴器の購入には国からの補助金や助成金はなく、全額自己負担となる。(医師の診療を受けた場合は、医療費控除が受けられるらしい)

そして現在

さまざまな後遺症も出たが、生活に支障をきたすほどのものはでなかったことは不幸中の幸いだった。

辛いものは泣きながら食べるし、聞こえなくても飲み会は行く。

人間はたくましい。







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そうまるみ
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