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忘れたい


変わってしまった地元の友人。



口を開けば夏休みの宿題の話。



お金がないと嘆くあの子はアルバイトは禁止だと不機嫌そうにいった。



消えかけた線香花火。

口を閉じたまま見つめた。



あーあ、早く帰りたいな。



机の上に広げっぱなしの書き途中の小説。



あの男の子は死んだことにしよう。
もう帰らないってことにしよう。



頭の片隅に展開を記録する。



花火はもはやスクランブル交差点の大画面で流れるCMと化していた。


こんなに必死に光っているのに、わたし1人の目すら惹けないなんて、愚かだなあ。



視界の端に映っていた光が突然に消えた。



横にいた友人の1人が、落ちちゃったと叫んだ。



わたしは笑う。
やや機械的に、体から空気が抜けたような力のない声で笑った。
面白いところなんてどこにもなかった。



ぽとり。
あ、おまえのも落ちてんやん。



うわ、もうちょいいけたわ。



ゴミになったそれをバケツに放り投げ、膝を曲げて下に寝転がっていた花火を拾い上げる。



テンポを崩さないように花火に火をつける。
その動作を繰り返す。



こんなにたくさんいらないよ、早く帰りたい。



撮ったら綺麗かな。



友人の1人が写真を撮る。



撮られた花火。
僅かな輝き。
その一瞬が記録された。



あの子が、花火をやりたいと言っていたことを思い出す。



思い出したから、あの子に写真を送った。



綺麗なんかじゃない。


永遠の輝きを手にした写真の中のそれを見ながら、花火なんてもう2度とやりたくないと思う。



ごみになった花火を捨てたかったけれど、バケツはもうパンパンで、とても捨てられない。



残りの花火を見てうんざりする気持ち。
友達のはしゃぐ笑顔。



その光景があまりに不快で、来年はもうわたしはここにはいないと悟った。

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