樹齢3000年の大楠と「ブラックモンブラン」
ある日の夜。
武雄温泉の居酒屋でしっぽり飲もうとしていた僕は、地元オヤジの襲撃を受けた。
どっから来たんだ?旅人か? オレ、旅人ば大好きさ!
香川からか? 中野美奈子の出身地ばい!
佐賀出身の有名人を知っとーか?
どぶろっく、エガちゃん、あとは・・・オレ!? ガハハハハ!
やたら大きな声で、とにかくふざけたことしか言わないオヤジが、ただ一つだけ、真剣な眼差しで語ったことがある。
「武雄には、樹齢3000年の木がある。がばい、すごかよ」
飲み屋の女将さんは、武雄神社の大楠を推す。
オヤジは、地元・川古の大楠を推す。
どちらの木の方が大きいかで論争が始まってしまったので、僕は結論を発表した。「わかりました。明日、どちらも見に行きます。」
「がばい忙しかね〜。ガハハハハ」とオヤジ。
せっかくだから、佐賀のご当地アイス「ブラックモンブラン」も食べろ、という貴重なアドバイスもいただく。
翌朝、武雄温泉の朝風呂で火照った体で、まずは武雄神社へ向かった。
神社の脇の小道をしばらく歩くと、大楠が姿を現した。
ドーーーン。
その姿を言葉にするのは野暮な気がする。
3000年間、ここにあり続ける、生命。
駅へ戻る。さあ、川古へ行こう。
武雄市街から少し離れた川古には、バスで向かう。どんなバスが来るかな、と待っていたら、なんと年季の入ったハイエース。
麦畑を抜け、30分くらいで川古に着く。
少し歩くと、またとんでもない大きさの楠が眼前に現れた。
ドーーーーン。
高さの迫力は武雄の大楠が勝るかもしれない。でも、この大楠の枝の伸びやかな広がりは唯一無二。見る者を大らかな気持ちにさせてくれる。
この場所で、ずっとこの木を見上げていたくなる。
オヤジおすすめのブラックモンブランを求め、大楠の横の売店へ。
店員のおばちゃんは言った。
「香川からの方ですか? 実は、おじさんが朝来て、ブラックモンブランを取り置きしとけ! と言い残して行ったんです」
あのガサツなオヤジが、粋な計らい。
テキトーにあしらった昨日の自分を恥じた。
オヤジ、ありがとう。大楠を見ながら食べたブラックモンブラン、がばい食べにくかったけど、美味しかったよ。
昨夜名刺をもらったから、感謝のメールを送ることもできるけど、敢えてそれはしない。
またいつか、この大楠を見に来ようと思うから。その日まで、元気で。
飲み過ぎるなよ。
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