モールの機能
今回はモールというプレーの機能について書いていきます。
先日以下のツイートを目にしたので、今回はこの内容にすることにしました。
■モールの定義
まずはモールというプレーの定義を確認していきます。
このツイートと違う表現をするならば、『ボールキャリア+双方1名以上が密集になっている状態(ボールは空中にあること)』がモールの成立条件になります。
よく見かけるシーンとしてはラインアウトモール、KOレシーブ、ゴール前のリモールがあります。
■モールの利点
・FWを1か所に集めることができる。
・起点(リスタートからの)となるオプションである。
・得点源となる。
・グラウンドのどこからでもできる。
モールの利点として上記の4つが考えられます。
一つずつ紹介していきます。
●FWを1か所に集めることができる。
モールを組むことにより、FWを1か所に集めることができるので、外側にスペースが生まれます。ここで、一番おさえておかないといかないのが、ブラインドサイド(ショートサイド、いわゆる狭い方)にもスペースができるということです。
数的優位で止めることが難しいのは
狭いスペース > 広いスペース
なのです。
これはどういうことかというと、10m幅での2対1と、30m幅での4対3ではどちらが止めることができるでしょうか?
正解は後者の30m幅での4対3です。ラグビー経験者の方は感覚的にわかるかもしれませんが、未経験者の方やイメージのつかない方のために違う観点から説明していきます。
考え方は、ミスを起こすリスクです。2対1の場合だと、ミスのリスクは2回。内訳は、パスミス1回、キャッチミス1回の計2回です。
一方、4対3だと同様に数えると8回にもミスのリスクが増えます。
たとえタックルすることができなくても、パスを多く起こさせることができれば相手はそれだけでプレッシャーを感じるのです。
なので、AT側からすると少人数かつ狭いスペースですが、チャンスになりうるのは実は狭いスペースなのです。
こういった理由からも次の起点になることができるのです。
●起点(リスタートからの)となるオプションである。
起点となる。と書きましたが、これはこの次になんでもできるということです。言い換えればモールの後には複数の選択肢があるというわけです。
攻めることもエリア回復のためにキックをすることもできます。
特に、キックの場合だとSHからのハイパントが有効的です。
理由は簡単で、相手からのプレッシャーがほとんどかからないからです。
ラックから蹴るよりモールの方が、相手DFとボールを保持しているプレーヤーとの距離は1m以上異なります。
このように、DFからするとキックのケアもしなければいけない、広いほうも、狭いほうも守らないといけなくなります。ATの起点となるプレーと言えるでしょう。
●得点源となる
モールはラグビーにおいて数少ない得点源の一つと言えます。
その理由はルールにあります。
モールはルール上AT側が有利になるようにできています。
DF側はコラプシングやオフサイドなどの反則に比べて、AT側はオブストラクションくらいしか反則を取られることはありません。
DFはATに対して正当にコンテストする必要があります。
また、アドバンテージがでやすいこともこのプレーの特徴です。
ラインアウトモールからペナルティが出たとすると
→もう一度タッチ、ラインアウトモール 5点
→or ショット 3点
→or スクラム 5点
といったように様々な選択をすることができます。
自チームと相手チームの力量に合わせてプレーを選択できることが強みでもあります。
●グラウンドのどこからでもできる。
サインプレーによっては自陣や敵陣のどちらかでしか使えないものもあります。具体的には、使っても意味のないプレーがあります。
ですが、このモールというプレーは自陣でも敵陣でも関係なく有効となる手段です。
・具体例(すべてラインアウトモールを指す)
(1)自陣の場合モールを作ることで、あわよくばペナルティをもらいタッチを選択し、また中盤からマイボールラインアウトで再開することができる。
ペナルティがでなくても、相手は裏のスペースだけでなく、ブラインドサイドやオープンサイドなどあらゆるスペースを守らなくてはならなくなり、キッカーへのプレッシャーは弱くなります。
(2)中盤の場合は、ペナルティを獲得できれば一気に敵陣に入ることができます。かつ、SHのハイパントで敵陣で50:50の確率でボール獲得ができます。また、中盤はDF側のBK3は裏のスペースも守らなくてはいけないので、1次目から外のスペースを攻めることもできます。
(3)敵陣であれば、先ほどの得点源という話に繋がります。
■モールの欠点
正直モールというプレーに対するマイナスなイメージはなかったのですが、絞り出して書いていることをご了承ください。
・モールからのトライは絶対に端っこ
これがなにを意味していることかというと、ラインアウトモールで押し切った場合のトライはほとんどタッチライン間際になります。一方BKに展開してトライした場合や、アドバンテージからキックパス等でトライした場合もトライは端っこになります。
なので、モールでトライを狙うときは7点ではなく5点を覚悟する必要があります。世界のトップキッカーでも15mよりタッチライン側のゴールキック成功率は75%と言われています。
トライ後の2点は運任せだと思っておくことが大切です。
ここでの欠点は、負けている試合などで5点ではなく7点がどうしても必要な時にモールという判断はあまりお勧めすることができないという点です。
・大外注意
一見モール後の外側のスペースはAT側がチャンスかと思いますが、そうではない場面もあります。
外側のスペースボールを運ぶことに関してリスクはありますが、今回はブレイクダウンについての危険性という観点に触れていきます。
仮に一番外側の選手にボールが渡りタックルが起こり、ラックという状態になったと仮定します。
一般的にブレイクダウンに必要な人数はAT側はボールキャリア+2名(あとSH役)であるのに対し、DF側は一人も必要ないのです。
なにが言いたいかというと、DF側はタックラー一人でブレイクダウンにプレッシャーをかけることができるのに対し、AT側は最低3人はブレイクダウンに必要なので、一人でもサポートに遅れてしまうとボールを奪われてしまう危険性が生じてくるのです。
■5人で止める必要性
モールは5人以上かけて止めることになればDFの負けといっても過言ではありません。その理由を上記の図を使い説明していきます。
まず、ラインアウトからモールを作ったとします。
AT側は8人参加しています。
DFラインにFWの選手が何人必要なのかでDF側のモールに参加してよいFWの人数を考えていきます。
ATの10番をDFの10番が見るためには、DFの10番の内側に2人ほど必要になります。
仮に、そこが一人だった場合、白丸の選手が空白になります。
すると、AT側の9番の選手は楽々とDFの10番まで仕掛けることができます。
そうすることで、オープンサイドはAT5人対DF3人となってしまいます。しかも55mという膨大なスペースをDFは3人で守らなくてはならないのです。
このことからDF側のオープンサイドは10番の内側に2人以上の選手が必要になります。
次はブラインドサイドを考えていきます。
図では一人います。仮にその選手が入った場合DF側は11番の選手しかいなくなってしまします。
その隙を見て、AT側は9番と14番で攻めることができれば、わずか5m幅かもしれませんが2対1という状況をつくることができます。
SHがDFに入れば?と思う人は勘が鋭いですね。
仮にブラインドサイドのFWがモールにはいり6人で抑えることができたとします。するとDFのブラインドサイドは9番+11番の2人。ATは9番と14番の2人。おなじ人数かのように見えますが、この状況はDF側の不利になります。
理由は守るスペースは裏もあるからです。
AT側は11番が上がってきたと思えば裏にキックをすればよいのです。
このように逆算的に考えて、オープンサイドに2人、ブラインドサイドに1人必要なのでモールDFに参加してよいFWは5人となるわけです。
逆を考えればAT側は8人でモールを組んだ時は6人以上の選手をモールに集める必要があります。
モールはこのやり合いなのです。
■余談
●なぜ大学生以上でのカテゴリーではリモールが少ないのか?
これは正直、なんといってよいのかわかりません。
僕の一意見だと、これほど有効的な手段をなぜ使わないのかなというところです。
モールの利点はさきほどくどく書いたことが挙げられます。
これらの利点があるものをゴール前で行うことができれば有利そのものです。
ゴール前での攻防でとても印象深いのは、第94回前回高校ラグビーフットボール大会の御所実業vs慶応義塾高校の試合です。
2点差の中、御所はモールを組むことにします。
最終的にはトライになりましたが、ペナルティを得た場合はショットを選択することができたのです。
といったように、リモールだと5点ではなく、7点も見込むことができます。
もちろん、3点の可能性も高くあります。
AT側はモールを形成することができれば有利。
DF側はモールを形成させないことが大切。
モールを形成させないために、ラインアウトだとサックやコンテストしないという選択肢があるのです。
大切なことは、捕らせない、組ませないです。
モールの欠点でも書いたように、よほどのことを想定しない限りは欠点はないといえるプレーがモールなのです。
ですが、このプレーを強みにするには時間をかけ練習する必要があります。
モールの本質を理解して戦術に組み込むことができればチーム力は飛躍するに間違いなし!