巨人って、なんか気になる

先日、姪っ子が中学校に入学したと母に聞き時の流れの早さを感じ、「そりゃ俺も老けるよな」と己の順調な老いも同時に痛感している。決して大袈裟に言っている訳ではなく、最近外出といえば通院か野球観戦のどちらかであることが多い。

衣替えの時期だったので、仕事帰りに久々に服を買いに行った。野球を観に行くとき、上着はレプリカユニホームを着るから必要ないので、デイゲームなら球場でも履けるショートパンツが欲しかった。

フィッティングルームの明るい光の下で、久し振りにまじまじと自分を見てみたら、生え際に随分白いのが増えていることに気がついた。

今の一番の遠出は神宮球場だけど、若い頃はよく海外旅行に行った。「あの頃は楽しかったなぁ」と極たまに思い出すことがある。


最後に行ったのがかなり前だから今はどうなっているかわからないけど、タイの首都バンコクには世界のバックパッカーが集まるカオサンロードという通りがあった。安宿、格安航空券の店、ネットカフェなどが多く集まる旅行者たちの情報発信地であり交換場所でもあった。

朝から朝までいろいろな肌の色の人たちが行き交い、騒ぎ、酔っ払い、賑やかなところだった。そこに宿を取ればずっと騒がしいわけだが、"安い"というだけで理由は十分で、宿の中や外の通りがうるさくても関係なく眠ることができた。

「年をとれば誰でも鈍感になるからそんなに気にしなくてもいい」 若い頃によく言われたことだが、僕の場合あの頃の方がずっと図太くて図々しかった。

掃除をしていないトイレも、水しか出ないカビ臭いシャワールームも、ベッドはあるが窓がない部屋はいつも煙モクモクで、ヤニ臭さが染み込んだ布団もバスタオルも気にならなかった。それでも、常夏の国の暑い昼が終わり、「さあ出掛けよう」という時には、その時できる目一杯のオシャレをした。

昼過ぎに目覚め、朝昼兼用の食事を済ますと旅行仲間のYとネットカフェに行く。あの頃はスマートフォンなんてなかったから、メールチェックをするためだけでもそこに行く必要があった。

瓶のペプシコーラに長いストローを突っ込んで飲みながら、送金を頼んだ姉から返信がきていないことにガッカリする。それが済むとやることはないのだが、時間で料金を払っているので日本のスポーツニュースをチェックする。

その時から習慣なのか、それとも本当に気になるからなのか…、贔屓のチーム情報と合わせて読んでしまう記事があった。ポチポチしながらニヤニヤしていたのか、自分ではわからないが、隣に座っていたYが同じくペプシを吸いながらこっちの画面を覗き見してこう言う。

「なんか気になるんだよな。巨人って」

日本にいるときはもちろん、タイでも、インドでも。サッカー強豪国のフランス・スペイン・イタリアにいても、僕は巨人の記事を読んでいた。


「政治と野球の話はしないほうがいい」

入社したとき先輩に言われた言葉だが、酔ったときなどジャイアンツに対する思いが出てしまうこともあった。でも、職場には野球に関心がある人がほぼいなかったから揉めたりはなかった。それでも一応フォローはしていた。「アンチではないんです。仲の悪い親父が巨人ファンなんです」

子供の頃から、父と政治の話をしたことはあると思うが、野球の話をしたことは一度もない。同じ画面を観たことは数え切れないほどあるが…。


2022年 04/09㈯
プロ野球セ・リーグ  試合結果
ジャイアンツ 3―2 スワローズ

敗戦投手 梅野雄吾 2勝1敗0S

延長10回裏、立岡選手のサヨナラホームランが飛び出しスワローズが敗戦。父が喜び美味そうに飲む姿を想像すると、今夜はなかなか寝付けそうもない。

音信不通となったYも、"気になる巨人"の記事をどこかで読んでいるだろうか。


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