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"目覚めた"友人と縁が切れてしまった

20年来の“目覚めた”友だちと縁が切れてしまったので、その話を残しておきたいと思う。多分死ぬまで引きずる。
1年前の話なのになんで今かと言えば、彼女のXアカウントがカップ麺に対してめちゃくちゃ怒ってるのを見てたからです。

・中学校〜高校時代

彼女と出会ったのは中学1年生の時。学校のキャンプで「カブトムシとクワガタ探しに行こう!」と飛び出そうとしていた所に、「そんなことをしてはいけない」とめちゃくちゃまっとうな事を言われたのが最初だった。

彼女はとても頭がよく読書家で真面目で、選ぶ言葉に知性がある人だった。当時はまだ普及仕切っていなかったパソコンが小学生のころから家にあったり裕福な家の子で、図書館で見るような図鑑などたくさんの本があった。そういう所からくる語彙の多さに何度も唸った。山で登れそうな崖を上ることを生業にしていた小学生の頃の自分とは比べ物にならない。今でも彼女の聡明さが大好きだ。
なんで仲良くなったのかといえば、名前の並びで班が同じになることが多かったとか、その時読んでいた漫画が同じだったとかの理由だったと思う。その時の話題はハンターハンターだった。

高校は近所の同じ高校に行き、共通の友だちも増えた。彼女は変わらず賢く明朗な話し方をする子で、やっぱり大好きな友だちだった。みんなとは大学進学などでバラバラになったが、今でも年に一度は集まっている。

・大学時代

その頃の彼女はボランティアやサークル活動、ヨガ、フィットネスなどに忙しくしていたと思う。ヨガとフィットネスは誘われたが、ホットヨガはダルシムしか思い浮かばなかったので辞退した。どちらかと言えば春麗派だった。

彼女は元々はっきりした顔立ちで細身、しっかり者で、気も使える。当然のように何人か付き合った彼氏がいたことを覚えている。大抵は短期間で終わったようだけど、活動範囲を増やしていく彼女だったので、それも仕方ない気がした。
別れるたびに相手の事を前世からの宿敵のようにいうなぁとは思っていた。これはずっと続く彼女の癖だった。
お酒が飲めるようになってからは交友関係ももっと広くなっていったようで、どこで出会ったのか年上の人も多かった。とてもとても充実していそうだった。就職はお互い地元になった。

・20代後半

20代の前半、この頃は何人もの友達とよく飲み歩いていた。友達、友達の友達、友達の友達の同僚…。今でも付き合いがある人もいる。
そういう生活が大きく変わったのは20代後半からだったと思う。
22歳頃から周りはぽつぽつと結婚し始めていたが、まだだった人たちが目に見えて焦り始めた。もう時間がない、まずい、誰かいないか。そんな話をよく聞いた。私もそんな相談に応じて何人か紹介をしたが、どこもうまくいかなかった。私にはマッチング能力がなかった。

その頃は街コンが流行っていて、私も何度か数合わせ要員としてついていった。というのも、あれは2対2、3対3の状況を作らなければならないため、グループ参加をする必要があるからだ。彼女の参加する回にもついていった。
その時々で、彼女からは「そんな色の服では駄目」「ジーパンで来るな、スカートを履いて」「髪の色を明るく」「メイクはピンク系で」「黒い服はよせ」などなど指導を受けた。これは今でもとても助かっている。
私にはあまり才能がなかったので早々に戦力外通告を受けた。

彼女は友だちも多いので、私を連れずにも何度も参加していた。そのあとで結果やこんな人と会ったということを聞くのが飲み会の話題の中心になっていた。下世話な話もあったけど登場人物が増えていく会話は正直とても楽しかった。

それが何年か続いたある時、差し飲みの際に私は唐突に彼女に怒鳴られた。

その時彼女はお見合いアプリや結婚相談サイトに登録したところだった。私の婚活の姿勢が悪いと滾々と説教する彼女に私はへらへら笑うしかなかった。私、婚活はしてないんだよ…。
楽しそうに私を叱る彼女に「もっと真面目に相手を探さないと!」と言われたのが妙に心に残っている。

・30代前半

30代初め、高校の友だちの結婚式に呼んでもらった。久しぶりに会う子や、県外に出た子、こどもがいる子。同窓会のようでとても楽しかった。二次会の帰りに彼女も含め3人になると、お酒の入った彼女はとても不機嫌だった。

「子持ちとは話すだけ無駄」

とても困惑した。そんな事無いと思う。けどもう一人が引きつっていたので、彼女はお酒が入ると人間が変わるんだよねとその場は流した。
これは本当で、何年か前から酔うと政治や外国の話を始める癖があった。欧米での教育や思想の話を何度も聞いた。彼女は相談サイトを退会していた。長く続けていたジムもヨガもやめていた。そのかわりに色々な習い事を始めていた。

・コロナ禍明け

コロナでの自粛があけた頃、久々にみた彼女は何というか……太っていた。

彼女は大人になっても細身な人で、肩の開いた服、タイトスカートを綺麗に着ていた。棒のような腕と足が印象的だった。それが、妙に太っている。コロナが?外に出なかったから?流石に驚きが顔に出ていたのか、彼女は説明をくれた。

「見た目に拘るのはよくないことだと気付いた。ボディ・ポジティブを知らないの?」

確かに容姿をとやかく言う必要はない。思想も知ってはいる。でもそれは自主的に太ることだったろうか。
彼女の話す話題は政治、男性、欧米、本、映画、女性……。

「あの映画は女性の描き方が本当によくない」

現実基準ではそうなのかもしれない。でもさ、正しい映画しか駄目なのだろうか。私たちが大好きだったディープ・ブルーも女の人は食われたじゃんか。人が食べられたり死んだりはいいんだろうか。……ハリーポッターの話をしたらしこたま怒られた。もう同じ映画は好きじゃないんだろうか。

・30代中盤

回数は少ないが、私は彼女の会社に出向くことがある。別部署が相手方なので彼女は直接関係者ではないが、帰り際に顔を出している。

新人を連れていると、都度彼女は言う。

「彼いいじゃんイケメンだし。ありじゃない?」

ねえ友人。私たちはもう30代半ばなんだ。年が一回り違う。昔、40代のおじさんからの視線が嫌だって言ってたあの話は?30代後半の人が付き合うと言ってきてありえないと憤っていたあれは?この子は新入社員なんだぞ?
彼女にはこの子が、恋愛対象に見えている。私は初めて彼女を怖いと思った。

この頃の彼女との飲み会はもっぱら差し飲みになっていた。彼女が昔の友だちと疎遠になってきてるのは感じていた。
特に壁のないオープンな店で彼女が愚痴る。

「私、結局結婚できるかはセックスに依存すると思うのよ。セックスの相性ね」

相変わらず酒癖がよくない……。
そんなに大声で言うものじゃないよ、と抑えるもテンションが上がっていく。

「あんたが何年も付き合っても彼氏と結婚してないの。セックスしたことないからよ相性が悪いからよ。そこまでブスじゃないのに失礼な奴よ。別れな」

遠まわしに人のことややブスというなあ。そして人の性事情をそんな大声で……。私には20代の終わりから長く付き合った彼氏がいるが、彼とそういう関係はない。その辺りをどうしても聞きたい彼女に、断り切れなくて教えたことがある。

性的なことはそんなあけっぴろげにいう事ではないと思うけど……。彼には私に付き合わせている恩がある。私が振られることはあるかもしれないが、私から振る理由もない。

「セックスないのに人間の根源的な相性はわからない」
「セックスなしはお互いの顔か体に耐えられなくてできてないんだ」

……究極版セクハラ親父みたいになってきた。どんなセクハラ親父でも大声で性事情ばらさないからセクハラ親父の方が上品か……。

「遊ばれてんのよ」

遊んでないよ、してないんだしさ……。

・30代後半

「私根本的にレズなんだと思う」

私は動揺した。

「……違うと思うけど」
「今の欧米での主流の考え方では女性は根源的に同性愛者なんだよ」
「だからこの私の中にある男性への嫌悪感もそうなんだって気付いたの」
「嫌悪感あるの?」
「あるでしょ?」
「いや、得には」
「じゃあなんでセックスしないの」
「いや別に……年も年だし、もういいじゃん」
「それはあんたの心に男性への嫌悪があるからよ」
「嫌悪とか特にないけど……」
「でもセックスしないじゃない。それはあんたも同じで、根源的に同性愛で、レズの思想を持ってるからよ」
「ねえ公共の場で性がどうのとか言うのやめようよ」

怖い。話がかみ合ってる気がしない。

「私も今までの生き辛さの原因がわからなかったけど、でも気付いた。私は根本的に同性愛者で、だから今まで男性への嫌悪で苦しかったの。あんたもそう」

今までの、それこそ中学からの遍歴をみている。彼女が別れては傷付き泣き、新しい人に惹かれる姿を見ている。
婚活を頑張り、自分を磨いたあれが全部嘘?その裏で本当は女性が好きだったと?そんなバカな。

「あんたにも自分がそうだって認めてほしい」
「そりゃ潜在的にとか根源では、みたいな話されるとそうなのかもだけど、認めるとかどうとかここで騒ぐことじゃないってば」
「遅れてる。私の自認を否定するわけ?」
「そういう考え方があるのも知ってるけど当突だし場所考えようよ。今まで男の人と付き合ってきたのは違ったの?」
「流動的な性を知らないの?ある時は男性である時は女性なんだよ」
「その自認は私は違うんだって」
「じゃあ私のこと恋愛対象に見れないっていうの?」

「そりゃ好きだけどさあ。そういうのじゃないでしょ」
「もういい。そういう遅れた人とは話にならない。今後縁を切るからそのつもりで」

私は泣いた。べしょべしょに泣いた。この年で、こんな長く続いた友だちと、親友と絶縁するなんて。

でも親友。私本当は気付いてたよ。今私はあんなに希少だったパソコンが家にあるんだ。スマホだって持ってる。今まで教えてもらっていた知識を、私も得られるようになった。君は”目覚めた”んだ。

君の通ったヨガは心まで整えるヨガだった。カルチャースクールでは色の心を診えるようになった。習い事はそこで出会った人達に紹介されたところだった。占いを始めたね。君の忙しい休日は、その仲間たちと立ち上げたセミナーのちらしのポスティングだ。

ボディ・ポジティブ、ルッキズムの否定、性別の多様性……。
でもさあ欧米って結局、多数あるどこの国の話なんだよ。容姿の賛美を否定しつつ人の容姿を否定するのは何なんだ。セックスのない関係は認めないけど男性は嫌いで、でも自分自身が流動的に男性である瞬間もあるのはいいのか?同性愛の同調を求めて、先進的な性対象を自認するよう迫る。
これは誰なんだ。何が君の人格を押し流した。

彼女は、真面目だった。
よい学校に行き、よい大学に入り、そこで恋人を見つけ、結婚し、真面目に、いわゆる一般的な人生の流れに乗ろうとしていた。でも、それは時の運か、もしくは何かの問題か。彼女の思う流れにはならなかった。

いくら晩婚化とは言え、20代で結婚するのが良しとされている風潮の中で、真面目に結婚する相手を探していた。色んな人に恋をして、でも失敗して、

自分の努力が報われない時、神頼みをする人がいる。彼女もそうだった。それが、彼女を自己実現のための道に進ませた。そこで自分ではなく世の中に対する不審・不満を認める思想に出会ってしまったのだと思う。

何とかしなければいけない、と自分を変えたいと思う彼女の、そういう善の心に踏み入った何かがいる。彼女に知識を与えた何かがいる。それが本当に悔しい。

・現在

彼女の職場に出向くことはある。何の因果か、絶縁の2か月後に彼女は部署異動があったようで、気軽に会いに行ける所属ではなくなった。よろしくお伝えください、と言っておいたので、私が気に掛けていることだけは伝わったと思う。あちらにとっては、不服かもしれないけれど。
(追記・文字化して勇気が出たので同社の知人にきいてみた。会社で人間関係をやらかしたらしい)

今スマホをみても彼女はほとんど写っていない。10年位前を最後にもう自分たちの記念写真をわざわざ撮ることはなかったけど、撮影した料理とビールは2組あるし、旅行先の風景写真は一緒に行った記念だ。いたということだけ残ってしまった。
でも、これでよかったのかも知れない。私の中の彼女は、今のではない。中学時代の、高校時代の、聡明で快活な彼女のままで残る。

あれから1年が経ったけど、意志の強い彼女らしく、それ以降特に連絡はない。Xアカウントは知っているが私も何も送れないでいる。彼女は今何故かカップ麺に怒っている。色が悪いんだろうか。赤と緑だからいけないんだろうか。彼女はあらゆる意味で色には一家言あったから。

人づてに、今彼女は"すべての男性を女性化する活動"をしていると聞いた。……細胞分化の話してる?

さよならだ親友。そういう決めたことを貫くところも好きだった。
でも君は最後まで、私が無性愛者であることには気付かなかったね。


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