第1回 ボイス付き東方二次創作作品紹介

はじめに

 当初は8月にnote投稿予定でしたが色々あって11月にずれこんでしまいました。さて記念すべき第1回はmicro dream studio++制作・頒布の「大乱闘○○スマッシュ」シリーズを紹介します。なお、本記事では「東方Project」に係る一連の作品群を「東方シリーズ」と便宜上表現しています。予めご承知おきください。

概要

 本シリーズは2002年から2004年にかけて三作製作されていますが、本作ではその内の二作目と三作目を中心に取り上げていきます。

・大乱闘かのえあスマッシュ2002(2002年8月頒布)
・大乱闘伺かスマッシュ2004(2004年8月頒布)
・大乱闘伺かスマッシュEX(2004年12月頒布)

左から「かのえあ」、「2004」、「EX」

 タイトルは「大乱闘スマッシュブラザーズ」シリーズのパロディとなっており、「かのえあ」は当時のインターネットで人気を博したKeyブランドのAVG「Kanon」「AIR」を、「伺か」は同時期に流行したデスクトップマスコットアプリケーションの一つを指しています。「伺か」について詳しくは「おまけ」の章に記述していますが、簡単に言うと立ち絵の「シェル」と様々な振る舞いを与える「ゴースト」から構成されており、様々な開発者によって「伺か」独自のオリジナルキャラから版権キャラの二次創作まで多様に製作されていました。その中には東方シリーズ出典のキャラも製作されており、2003年に東方シリーズでは初となる伺か「東方遊撃姫」が公開されました。(アーカイブ

「東方遊撃姫」のシェル

 「大乱闘伺かスマッシュ2004」では隠しボス兼最後の隠しキャラとして十六夜咲夜が、「大乱闘伺かスマッシュEX」では通常プレイアブルキャラとして咲夜に加えて霊夢と魔理沙が参戦しています。このことから「2004」「EX」は事実上「伺か」と「東方」のクロスオーバー作品とみなすことができます。「EX」は「2004」のアッパーバージョン相当で、一部担当CVやスコアシステムが異なっています。

キャラクターセレクト画面より

ゲームの特徴

 システムは「大乱闘スマッシュブラザーズ」シリーズよろしく相手を場外に吹っ飛ばして最後まで生き残れば勝利というもの。CPU戦を淡々と進めていく「一人で遊ぶ」モードと、人間CPU織り交ぜて最大4人まで同時対戦可能な「みんなで遊ぶ」モード、「一人で遊ぶ」で稼いだ最大スコアを確認できる「ランキング」があります。「大乱闘スマッシュブラザーズ」シリーズには無い要素として、最初にキャラクターを二人選択し、プレイ中いつでも交代できるというものがあります。キャラクターごとに近接戦闘向き、遠距離向きなどとタイプが分かれているので、異なるタイプと組ませて互いの欠点を補うという戦略性が求められます。
 またカスタマイズ性に富んでおり、知識さえあれば自分でキャラクターを制作・追加できます。この点は2D格闘ゲームエンジンのM.U.G.E.Nを彷彿とさせますね。実際東方に限っても第三者によって鈴仙・優曇華院・イナバと因幡てゐが制作・公開されていた様です。(現在は公開元閉鎖につきダウンロード不可)
ちなみに「EX」は本記事執筆時点で「かのえあ」と共にDLsiteにてダウンロード販売がされており、今でもプレイすることは容易です。

声の出演

「2004」

$$
\begin{array}{|l|l|l|} \hline
\text{キャラクター名} & \text{CV担当} & \text{備考} \\ \hline
\text{十六夜 咲夜} & \text{一華} & \text{} \\ \hline
\text{双葉} & \text{シュンエン} & \text{} \\ \hline
\text{御影さくら} & \text{桜井 美由(さくらい みゆ)} & \text{} \\ \hline
\text{木村屋 安子} & \text{月下 瑠威(つきした るい)} & \text{} \\ \hline
\text{毒子} & \text{シュンエン} & \text{} \\ \hline
\text{蒼井 空} & \text{桜井 美由} & \text{} \\ \hline
\text{さくら(ツインテールさくら)} & \text{月下 瑠威} & \text{} \\ \hline
\text{せりこ} & \text{ちゅー姫(-ひめ)} & \text{} \\ \hline
\text{ととたん(トトル・タンジェリン)} & \text{城咲 藍琉(きのさき らんる)} & \text{後に「城崎らんる」に改称} \\ \hline
\text{つぐな(つぐな・ツインルーク)} & \text{一華(いちか)} & \text{} \\ \hline
\text{イクサイス・ゼロ} & \text{城咲 藍琉} & \text{} \\ \hline
\text{システムボイス} & \text{ちゅー姫} & \text{} \\ \hline
\text{虚} & \text{} & ボイスなし \\ \hline
\end{array}
$$

「EX」

$$
\begin{array}{|l|l|l|} \hline
\text{キャラクター名} & \text{CV担当} & \text{備考} \\ \hline
\text{博麗 霊夢} & \text{貴坂 理緒(きさか りお)} & \text{} \\ \hline
\text{霧雨 魔理沙} & \text{丹羽 はるな(にわ -)} & \text{後に「長月あいり
」に名義を変え2016年まで活動} \\ \hline
\text{十六夜 咲夜} & \text{一華} & \text{} \\ \hline
\text{双葉} & \text{シュンエン} & \text{} \\ \hline
\text{御影さくら} & \text{桜井 美由} & \text{} \\ \hline
\text{木村屋 安子} & \text{周防 ハルカ(すおう -)} & \text{} \\ \hline
\text{毒子} & \text{シュンエン} & \text{} \\ \hline
\text{蒼井 空} & \text{桜井 美由} & \text{} \\ \hline
\text{さくら(ツインテールさくら)} & \text{月下 瑠威} & \text{} \\ \hline
\text{せりこ} & \text{杉咲 ヒナ(すぎさき -)} & \text{} \\ \hline
\text{ととたん(トトル・タンジェリン)} & \text{城咲 らんる} & \text{} \\ \hline
\text{つぐな(つぐな・ツインルーク)} & \text{御田 心} & \text{} \\ \hline
\text{イクサイス・ゼロ} & \text{城咲 らんる} & \text{} \\ \hline
\text{ブリュンヒルデ} & \text{梨本 悠里(なしもと ゆうり)} & \text{} \\ \hline
\text{美耳・バレンシア} & \text{桜華 春日(おーか かすが)} & \text{} \\ \hline
\text{奈留&ゆうか} & \text{米倉 綾(よねくら りょう)} & \text{2009年に活動終了} \\ \hline
\text{ねこことショータ} & \text{木苺さくら(きいちご -)} & \text{後に「きいちごさくら」に改称} \\ \hline
\text{りねね・ドライゾーネ} & \text{恵 ゆう(めぐみ -)} & \text{} \\ \hline
\text{涼璃} & \text{小鳥遊 える(たかなし -)} & \text{} \\ \hline
\text{神無木 陽子} & \text{竹本 圭織(たけもと かおり)} & \text{現「愛原圭織」} \\ \hline
\text{システムボイス} & \text{ちゅー姫} & \text{} \\ \hline
\text{虚} & \text{} & ボイスなし \\ \hline
\end{array}
$$

おまけ:「伺か」とは

注:筆者が各種サイトで確認した内容を基にまとめているため、一部誤りがあるかもしれません。

 はじめに「伺か」が成立するまでの歴史を紹介します。1998年、プラエセンス社より「ペルソナウェア」(現「Chararina」)というフリーソフトがリリースされます。ペルソナウェアはペルソナ(キャラクターの立ち絵)部分と人工無脳をはじめとしたプログラムで制御された振る舞いからなるデスクトップマスコットを提供するソフトで、簡単なプロフィールやテキスト情報を与えることでペルソナを通じて対話したり何らかの処理を実行させたりすることができる様になっています。加えて開発者向けのキットが提供されており、知識やアイデアがあれば公式には無い他のペルソナを創造したり標準には無い新たな振る舞いをさせることも可能と正に創作意欲を掻き立てるソフトでした。しかしペルソナウェアは一企業からの提供という都合不具合があっても修正までに時間を要したり、開発者キットである程度カスタマイズできると言ってもかゆいところに手が届かなかったりといった細かな不満点がありました。ここで2000年にペルソナウェアを参考にして個人で開発された「偽ペルソナウェア」が登場します。ペルソナウェアには無い機能が注目されたこと、また同時期にペルソナウェアが有料化したこともありペルソナウェアに代わって人気を博するようになります。その後偽ペルソナウェアはしばらくして「あれ以外の何か with 偽春菜」に改称しています。しかし偽ペルソナウェアは大元となったペルソナウェアのキャラクターや機能が酷似していたことからペルソナウェアの開発元より公開中止の通告を受けます。これを受けて偽ペルソナウェアははじめ「あれ以外の何か with 任意」と改称しましたが、最終的に製作者が偽ペルソナウェアを公開していたホームページごと削除して失踪することとなりました。(この辺りの騒動は偽春菜問題と呼ばれています。ちなみに任意というのは表示されるキャラクターに対し任意の名前をつけられたことに由来します。)しばらく後に別の制作者によって事実上の後継プログラムとなる「何か。(仮)」が公開され、「何か」に改称した後に制作者の交代を経て「伺か」という名称に収まりました。その後「伺か」は全盛期を過ぎた2004年頃に更新停止し、現在は互換性を持つアプリケーション「SSP」(SAKURA Script Player)がその役割を継いでいます。以上の経緯から現在では単に伺かと言った場合前身の偽ペルソナウェア時代も含めて指すことが多いです。
 伺かは全盛期を過ぎた今でも根強い愛好家達に支えられてコミュニティが続いています。また当時からゴーストを喋らせるだけでなく音声を付けることにも関心が向けられており、「ゆっくり」で知られるSofTalkをはじめ近年ではVOICEVOXの様な音声合成ソフトを駆使した実装が試みられています。声当てに係る伺かの同人には「任意ラヂヲ」(Triumphal Records)や「まゆしゅ~」(はるかぜ)などといったものがあり、伺か界隈は声当てに比較的寛容な文化であったことが窺えます。