事業のネタ帳 #10 OSS 2.0
ZoomやSlackが日本から生まれるイメージは未だついてないのですが、RedisやMongoDB、Elasticであればひょっとしたらひょっとするかもしれないと常々考えていることもあり、今回はOSS(オープンソースソフトウェア)を活用した事業機会について書いてみたいと思います。
日本のスタートアップ界隈で純度の高いソフトウェアビジネスのネタが語られることは寡聞にして稀ですが、このところ話題の"Web3"のユースケースとしてもOSSは本丸の一つになり得るのではと個人的には感じます。
OSSと私
筆者自身はOSSの開発者でもなければ貢献者でもない、ましてやソフトウェアエンジニアであったことすらない市井の投資家ですが、HadoopやFluentd、Embulkといった著名なOSSに囲まれながらキャリアをスタートしたこともあり、ビジネスとしてのOSSについては一定の土地勘と肌触りを持っている方なのではないかと思います。
また、Treasure Data創業者の芳川さんは大手LinuxディストリビューターであるRed Hatの日本法人でサポートエンジニアとしてキャリアをスタートしており、起業のきっかけもHadoopのディストリビューターとして2009-10年当時飛ぶ鳥を落とす勢いだったClouderaの成長を直近に見たことが一因になったと話していました。
つまりOSSがなければTreasure Dataは存在しなかったし、Treasure Dataが存在しなければ相良もここにいない、少なくともここでこうしたブログを書いてはいないだろうということを考えると、どこかのタイミングでOSSを取り上げるのは必然だったのかもしれません。
二つの伝統的ビジネスモデル
OSSの収益化には、これまで大きく二つの型がありました。
一つはライセンス販売とサポートに特化する型、もう一つはOSSをコアに有償の”エンタープライズ版”を提供するディストリビューターモデルです。
後者の代表例はRed Hatの”Red Hat Enterprise Linux(RHEL)”であり、Fluentdを開発した古巣のTreasure Dataも一時期”Fluentd Enterprise”を提供していたことがあります。
ちなみにこのディストリビューターモデルの派生系としては、例えばRHELをRed Hatから仕入れてサーバーやネットワーク製品と抱き合わせで販売するシステムインテグレーターモデル(e.g. 富士通、日立)があり、これはこれでSIer各社にとって大きな収益機会となっていました。
クラウドで顕在化したOSSビジネスのバグ
OSSの商用ライセンスをオンプレミス環境に適用させることがこの市場の主戦場だった時代には上記のようなディストリビューターモデルがそれほど致命的な問題を伴わずに機能していたのですが、AWSの台頭がその市場環境を一変させました。
AWS(をはじめとするクラウドベンダー)は、オープンソースコミュニティーを活用して、彼ら自身が開発元ではないOSSのコードを用いたマネージドサービスを販売し、何億ドルもの売り上げをあげるようになったのです。
これは、OSSビジネスの構造的なバグとも言えるものです。なぜなら、そこで得られたはずの利益がコード開発者やそのスポンサーではなくクラウドベンダーへ行ってしまうからですね。
そのため各OSSの開発元は大手クラウドベンダーへの対抗措置として、商用サービスの利用範囲を制限するライセンス変更を相次いで行い、外部事業者による「いいとこ取り」の動きを牽制しています。
その一方で、こうした牽制措置はOSSの運営元自らが提供するマネージドサービス(有償のエンタープライズ版)との競合を防止したい思惑も見え隠れしており、またライセンス変更後の網の目をすり抜けて新たな手が出てくることも考えられるという点でイタチごっこの可能性が否めません。
OSS 2.0の萌芽
こうした状況を踏まえて、OSS 2.0とも言える新たなビジネスモデルが生まれようとしています。
OSSのDeveloperやContributorがプロジェクト/リポジトリ単位でトークンを自由に発行でき、コミュニティー内での衆目や商用の種が増えるごとにトークンの価値が上がっていき、DeveloperやContributorが適切に経済的対価を享受できる。
そんな世界観を作れたらいいなあとぼんやり考えながらFirefox(老舗のOSS)をブラウズしていたところ、ありました。それもなんと日本人が立ち上げたサービスではありませんか。
FRAME00(フレームダブルオー)という会社が運営するDev Protocolというサービスで、ソフトウェア開発者をはじめとするクリエイターがエコシステムへの貢献と収益化をトレードオフにすることなくいきいきと活動することを促すDeFiプラットフォームです。
Tokenizeされたアプリケーション(Dapps)を自由に生成できるという意味ではOSSに用途を限定したプラットフォームではないですが、既にDev Protocolを通じて$2Mの収益を得たOSS開発者も出ているとのことで、ソフトウェアエンジニアにとっては非常に夢のある場になっているのはないでしょうか。
事業機会
新規事業の芽という観点からこの事例を捉えると、二つの可能性に言及することができます。
一つはDev ProtocolのようなOSS開発者/貢献者向けの収益化プラットフォームを創り出すこと。そしてもう一つは、Dev Protocolのようなプラットフォームを活用してTokenized OSSを生成し、Tokenを通じて資金調達をしながら持続可能な営利企業の型を模索することです。
世界標準となるプラットフォームを創るという点で前者のアプローチも魅力的ですし、後者のアプローチについては例えば0→1の発想とコーディングでは誰にも負けないソフトウェアエンジニアがいたとして、彼/彼女がものづくりとファイナンスに限られたリソースを分散させる必要がなくなる(少なくとも初期においてはものづくりとファイナンスが同義になる)という点で素晴らしいと思います。
この領域に関心のあるOSS開発者の方、起業検討中の方がいましたらぜひカジュアルにお話させてください!
おわりに
ジェネシア・ベンチャーズからのご案内です。もしよろしければ、TEAM by Genesia. にご参加ください。私たちは、一つのTEAMとして、このデジタル時代の産業創造に関わるすべてのステークホルダーと、すべての人に豊かさと機会をもたらす社会、及びそのような社会に向かう手段としての本質的なDX(デジタルトランスフォーメーション)の実現を目指していきたいと考えています。TEAM by Genesia. にご参加いただいた方には、私たちから最新コンテンツやイベント情報をタイムリーにお届けします。
『事業のネタ帳』の連載に関するアップデートをご希望の方は、筆者のTwitterアカウントのフォローもぜひお願いします!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?