⑧まだ僕の機能は正常だった
小学校を卒業してから
春休み中に小学校の時仲の良かった10人くらいの友達と、近くの総合体育館で遊んだ日があった。体育館で遊び終わった後帰りたい子は帰って、残り数人で一緒に遊んでいた男の子の家に遊びに行った。
この日僕は、自分の今の家庭環境を少しだけ残った子たちに話した。
どこまで話したか覚えてないけど、ゴミ箱に捨てられた半分腐った生肉を、お兄ちゃんがゴミ箱から拾って、食べれるからって食べさせられたことを伝えたことだけは覚えてる。みんな僕が思ってたより真剣に話を聞いてくれて、複雑な家庭環境の子はうちもいろいろあったよって話を聞かせてくれて。なんだ、僕だけじゃなくて知らないだけでみんな苦労してるんだなって思った。
その帰り道、家の方面が一緒だった一緒に居たグループの男の子が、もう一人の一緒に居た女の子のことが好きなんだよねと打ち明けてくれた。その女の子もその男の子のことが好きだって言ってたから、なんだ両思いじゃんってなんだか嬉しかったなぁ。僕は引っ越してない方のもう一人の男の子のことが好きだったから、残った四人でそれぞれ付き合えたら素敵なのにって思いながら家に帰った。
中学校入学
僕が卒業した小学校は地域で一番大きな小学校だったから、中学に行くのにも不安はなかった。クラスの半分くらいは小学校が一緒の人たちだったし、ある程度の人間関係は築いてきたから、ただただ新しい友達を作れることが楽しみで仕方なかった。
ただ一つ、僕が悲しかったのは、親友が中学受験をして別の中学に行ってしまったこと。定期的に手紙の交換をしてたけど、親友は向こうの勉強だったり友達だったりで日々忙しくて、そのうち月に一度来ていた返事が、三ヶ月に一回になって、中学校から初めて雪を見る頃には届かなくなった。だから僕も送るのを辞めた。友情なんてそんなもんだよな。
僕も入学してからしばらくは新しい友達を作ることに日々没頭していた。前の席の女の子と仲良くなった。漫画とかアニメの話をした。その子と話す時間は楽しかった。けれどその子は別の子と仲良くなって、あんまり僕と一緒にいなくなった。僕はその子に近づきすぎないようにした。
一目惚れ
バレー部に入ったら中学生になっても小学校の指導者たちと関係を切ることができないことを知っていたから、バレー部には入部しなかった。
代わりに長距離が得意だったから陸上部に入部しようと思っていた。体を動かすことが好きだった。陸上部はグラウンド集合だったから、仮入部に行くために外に出たら雨が降ってた。雨天時どこに行けば良いのかわからなくて、わかりやすいって理由で吹奏楽部の体験に行くことにした。バレーを一緒にやってた先輩が吹奏楽を始めたって噂も聞いてたから、何もわからない部活体験に行くこともそこまで怖くなかった。
僕はここでサックスに出会う。僕の中学生活のほとんどをつぎ込むことになるものに。
どの楽器をやってみたいか撰ぶ参考に、音を聞いてみようと言って先輩たちが順番に楽器を吹き始めた。僕はそこでサックスの音に惹かれてしまった。実際吹かせてもらって、楽しくて楽しくて、これしかないって思った。
楽譜も読めないし音楽なんて一つもわからなかったけど、それでもこの世界で生きてみたいと思った。
僕の中学生活を支えたのは楽器だった。
仲良くなりたかった子も、その子と仲良くなった子も、二人とも吹奏楽部に入学した。だから完全に関わりがなくなることはなかった。
うちの吹奏楽部は部員数が60人を超えていて、同じ学年に20人近くは吹奏楽部の子がいた。だから中学でも僕は友達に困らなかった。
けれど、僕は中学で人と関わることを半分くらい諦めた。