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#12 女子会と秋の味覚と冬支度

よく晴れた秋の昼下がり、松代の会沢集落に住む小野島トクさん(85)の大きな笑い声が家の中から漏れてきた。家の中には、同じ集落に住むツマさん、けい子さん、定子さんと浩子さんがテーブルを囲んでいた。

レンコンと鶏肉を手際よく炒めて煮る

「さぁ、これから最後の料理を始めるわよ」。
 
僕が家の中に入ると、トクさんは台所へ立ち上がり、予め下ごしらえしていた具材を素早く巧みに調理してゆく。
 
「私はねぇ、何でも(料理が)早いんですよ」。

お次は、イトウリ。
写真に湯気は写っても、匂いまでは写らない。

瞬く間に、蓮根と鶏肉の炒め煮、イトウリの炒め物、ポテトサラダが完成する。今日の野菜はほとんどトクさんが育てたものだ。
 
「あっ、ニンジンだけは貰ったけどね。」と、お茶目に笑う。

里山の秋の味覚。野菜を育て、自ら料理することが当たり前な贅沢。

僕は集落でよく開催されているという女子会(お茶飲み)に特別に参加させてもらった。テーブルにはトクさんお手製のコンニャクやズイキの煮物、持ち寄られたおはぎや栗の渋皮煮なども並んでいる。どれもお手製だ。

トクさん(中央)から時計回りで、ツマさん、定子さん、浩子さん、けい子さん

「いただきます」の掛け声とともに、箸がお皿に伸びてゆく。お昼ご飯と夕ご飯の間に、こんなに豪勢なものを食べてもいいの?とビックリする。
 
もちろん、お酒ではなくお茶を飲みながら、話題は次から次へ変わってゆく。閉鎖が決まった介護老人保健施設の話から、子どものころトクさんが定子さんのお世話をしてあげた時の話まで、時間はあっという間に過ぎていった。

畑など集落内の移動は、シニアカーに乗って

トクさんは昨年から、冬の間だけ千葉県で暮らす長女宅で過ごすことにした。今年も来月早々には千葉へ行く。

その分、11月は忙しいという。畑には、里芋、大根、ネギ、白菜、キャベツが育ち、収穫しては子どもや、独立して世帯を持つ孫たちへと野菜を送っているそうだ。その合間に、家の周りを片づけ、窓にはめ板をするなどの冬支度も待っている。

白菜、キャベツを育てている畑にて

トクさんにとっての1年はもうすぐ終わる。
 
ここで暮らしていると1年はいつから始まり、いつ終わるのだろうと考える場面が多々ある。カレンダーは元旦に始まり、大晦日で終わる。学校は4月に始まり3月に終わる。
 
トクさんにとって、1年は雪どけのころ十日町に戻ってきた日から始まり、雪の降るころ十日町を去る日に終わる。「(昨年から始まった)千葉での冬はいかがですか?」と聞くと、「もう本当に楽。暖かいし」と笑う。冬の間は、ミシン仕事をしたり、娘家族にご飯を作ってあげたり、毎日忙しいのだという。

どの野菜もスーパーで販売しているものより立派に見える

「十日町市に戻りたくないなぁ、なんて思いませんか?」と聞くと、間髪いれず「思わない」とのこと。夫と死別して26年がすぎ、仲間に囲まれたここでの暮らしは何ものにも代え難いのだそうだ。
 
「トクさんにとって千葉で過ごす冬とはどんな時間ですか?」
 
「(十日町市で迎える)春に向けての準備期間だね」と笑う。昨年できたことが今年はできない、なんてことが起きないよう千葉でも散歩を欠かさず、春に備えるのだという。
 
もちろん、現在進行中の冬支度も、なるべく人に頼りたくないという。去年もできたんだから今年もやらなくっちゃ、と。

何でも自分でやる。だからこそ忙しい

話を聞きに行った時、採れたてのキクイモとコンニャクをいただいた。申し訳ないからと、わが家にあったリンゴと柿とミカンをお返しに持っていった。その帰り、僕は大きな白菜2つとキャベツを抱えていた。
 
もう本当に敵わないスーパーレディーなのだ。
 
トクさんは来春、86歳になって十日町市に戻ってくる。

『究極の雪国とおかまち ―真説!豪雪地ものがたりー』 世界有数の豪雪地として知られる十日町市。ここには豪雪に育まれた「着もの・食べもの・建もの・まつり・美」のものがたりが揃っている。人々は雪と闘いながらもその恵みを活かして暮らし、雪の中に楽しみさえも見出してこの地に住み継いできた。ここは真の豪雪地ものがたりを体感できる究極の雪国である。
 

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