兵書『孫子』ー君は戦争を知っているか?(12)
『孫子』第三「謀攻編」のまとめです。有名な「彼を知り己を知らば、百戦して殆うからず」が出てきます。
【本文書き下し】
故に勝ちを知るに五有り。戦ふべきと戦はざるべきを知るは勝つ。衆寡の用を知る者は勝つ。上下の欲を同じくするは勝つ。虞を以て不虞を待つ者は勝つ。将能く君の御せざるは勝つ。此の五は勝ちを知るの道なり。
故に曰く、彼を知り己を知らば、百戦殆ふからず、彼を知らずして己を知れば、一勝一負、彼を知らず己を知らざれば、戦ふ毎に必ず殆ふし、と。
【現代語訳】
このため、勝ちを知る方法に五つある。戦うべき時と戦ってはいけない時を分かっていれば勝つ。(軍の)大勢と小勢の用い方を分かっていれば勝つ。(身分の)上下でやりたいことが同じならば勝つ。よく準備して、準備していない者を待ち受ける時は勝つ。将軍で君主に干渉支配されない者は勝つ。この五つは勝ちを知る方法である。
それで言うことには「相手を知り自分を知っていれば、百戦しても危なげなく、相手を知らないで自分を知っていると一勝一敗(勝ったり負けたり)し、相手を知らず自分のことも分かっていなければ、戦うたびに必ず危険である」と。
☆評釈☆
勝つかどうか知る五つの方法を挙げる。四つまではごく当然のことを言うが、五つ目は孫子(孫武)自身が将軍だったので、あまり分かっていない君主に、戦いの邪魔をされたくなくて言ったのかも知れない。普通は、あまり分かっていない将軍に独走されても困るような気がするが……。
そして、有名な名言「彼を知り己を知らば……」になるのだが、この『孫子』において既に引用の形になっていて、相当有名な言葉であったように見える。
確かに、相手の実力や事情も、自分の実力や実情も分かっていなければ、足を掬われる。これは戦いでなくても、試験でも、仕事でも何にでも、相手のあることなら、必ず通用する話であろう。
生徒たちに言うなら、例えば、試験があるとして、その試験についてよく知っていて、自分の実力や健康状態など様々な状況もよく分かっていれば大丈夫だが、試験のことがよく分かっていないで自分の実力や状況だけ分かっているときは、勝負は半々であり、試験のことも自分のことも分かっていなければ、試験を受けるたびに危ない、ということになる。
まあ、しかし、こんな「100%正しい忠告は受け入れられない」by 河合隼雄。
孫武の忠告は、いつも受け入れられたのだろうか?