兵書『孫子』ー君は戦争を知っているか?(16)
『孫子』第五「勢編」に入ります。「勢編」は、人間の集団である軍をどう動かして勝つか、について述べています。
人、特に集団の人々を動かすというのは、知恵と技術が必要なので、これは戦いでなくても考え方は見るべきものがあるでしょう。中でも企業では。だからこそ、『孫子』解説本が流行るのでしょう。
まずは、「勢編」最初の部分から。
【本文書き下し】
孫子曰く、『衆を治むること、寡を治むるごときは、分数是なり。
衆を闘はして、寡を闘はするごときは、形名是なり。
三軍の衆、敵を受けて敗るることなく畢らしむるは、奇正是なり。
兵の加うる所、タン(=石へん+段)を以て卵に投ずるは、虚実是なり。
【現代語訳】
孫子が言うことには、『大集団を治めることを、少人数を治めるようにするのは、「分数」と呼ぶものである。
大集団を闘わせて、少人数を闘わせるようにするのは、「形名」と呼ぶ、これである。
三軍(諸侯の軍)が、敵に対応して敗れずに終わらせるのは、「奇正」と呼ぶ、これである。
兵力を加える時、石のかたまりを卵に投げるのは「虚実」、これである。
☆評釈☆
「分数」「形名」「奇正」「虚実」は、それぞれ注釈によって解釈されてきたようで、金谷治氏も浅野裕一氏も言葉を尽くして説明されている。
「虚実」だけは『孫子』第六に「虚実編」があるけれども、他は、例えば第四「形編」が、ここの「形名」を説明しているわけではないので、『孫子』の中だけで説明するのは困難かも知れない。
金谷氏の説明がわかりやすいので、挙げておくと、「分数」は部隊の編成、「形名」は旗・幟と鳴り物、「奇正」は奇法と定石通りの正法、「虚実」は隙があることと充実していることという。
つまり「分数」は、数を分ける、つまり編成すること。
「形名」は、「形」が目で見てわかる旗や幟の旗印、「名」が声、すなわち鐘や太鼓の合図。
「奇正」は『孫臏兵法』に奇正編があることや「虚実」は「虚実編」があることも説明されている。
確かに、学校や軍隊は集団を動かす時、クラスや部隊単位で動かす。
「形名」は文脈上あまり納得がいかないが、当時の軍に、旗印や鳴り物が使われていたのは他の文章から分かる。
「奇正」は要するに戦法のことで、「虚実」は戦場での駆け引きなのだろう。