ニューホライズン
夕方、ベランダを開けて外の音を聞くのが好きだ。
一日がそろそろ終わるって時間に、風の音だけが聞こえるのが心地よい。近所の人の帰宅音とか、ポストを開けて閉じる音とか、塾帰りの子供の自転車と笑い声の音も良い。
「そうやって副流煙で僕のこと殺す気なんだ」
最近仲良くしている男の子は私の隣で口をとがらせている。
「これは水蒸気のやつ、ほとんど害はないって聞くよ。」
あぐらの膝の上に乗っている頭を撫でると気持ちよさそうに目をつぶるのが愛らしくて、子犬みたいだと思う、もちろんそんなことを言ったら怒るけれど。
「ごはんどうする?何か作る?」
どうせ作るのは私なのに自分が作るみたいな言い方に笑いながら愛らしさに口付けて、じゃれ合いながらベッドに倒れ込む。
「食べ物になっちゃうの?」
歳下の彼の途端に色気を出してくるところがずるい。こういう時の男の顔が変わるって言うのを彼で初めて知った。普段が愛らしい分わかりやすいんだと思う。
躊躇わずに口を開いてキスをしてから、タバコの味だと言ってちょっと嫌な顔をするから、禁煙できない。少し意地悪をしてしまうのは彼が可愛すぎるせいだと思う。
「じゃあ何食べようか?」
抱きしめながら言うとTシャツの下に手が入ってきた。背丈もあまり変わらないし細いのに手が大きいから私の背中のほとんどが彼の手で覆われるような気になる。
「後で考えよう」
そう言って休日の夜に向かう。
女盛りを正しく消費している。
そんな気分になりながらシングルのベッドにきゅうきゅうになって詰まっていると彼のうなじが目にはいる。
なんて可愛い後頭部なんだろう。
この人の包む全てが愛おしくて顔をすり付ける。
「なぁに?」
疲れたのかすこし甘い声を出すのもたまらない。
「お腹空いた」
「そうだね。何か作る?」
これはどうしても私に作ってもらいたいのだと悟ってキッチンに行く、台所には卵とネギがある、ハムもあるので簡単に作るならチャーハンだ。
「お腹の空き度どのくらい?」
「210パーセント」
「相当だね」
チャーハンにして、スープも作ろう。
鶏ガラスープの素を買っておいたはずだ。
「ねぇ」
彼が呼ぶけど、私だってお腹が空いているし、もう卵を割りかけてる。
「ねぇってば」
はーいと適当な返事をしていたら彼が来て言う。
「そろそろ付き合いませんか?」
「いいですよ」
「じゃあ今から僕の彼女ですか?」
「ええあなたの彼女です。」
ニューホライズンみたいにあっさりまとまったのを笑いながら、卵を割る、双子だったからきっといい事があるねと言いながら服を着る彼を見ながら、揃ってない菜箸で卵を崩して行った。
【あとがき】
友人に、あなたの書く話は捻くれていると言われたのでただ幸せな話を書こうと思ったんですが、山も谷もなくなりました。
どうしたらいいんだ。
でも現実は山も谷もあるし、むしろ谷の方が多くね?って人の方が多いのではないかと思うのでたまにはこう言う、腐るほど幸せな物語もいいのかもしれません。
窓を開けると気持ちが良い風が入ってくる季節になりましたね。
私は窓辺にベッドを置いているので、朝窓を開けてベッドの上でぼーっとする時間が好きです。
開けっ放しで昼寝をしてしまう時もあるので気をつけようと思います。
なんの教訓もないけどたまにはいいよね。
雪燃ゆる