【考察】大伊達山「蛇神」信仰説・序

※希佐ルート、睦実ルート、(ほんのり)根地ルート、夏劇、設定資料集、石田スイ展(一カ所だけ)の一部ネタバレを含みます。
※というかタイトルでお察しでマジでネタバレしかないです。
※2021.8.15 ふせったー再録。
※2021.8.16 大伊達山信仰と比女彦神社、諏訪大社のミシャグジ信仰について補足。


さて、タイトルの通りいよいよ(?)大伊達山信仰の正体に関して切り込んだ考察をしていきます。
と言っても、全容を明かすには膨大な文字数が必要なので、今回はそもそも大伊達山信仰で崇拝されている神様の正体に的を絞り、継希くんの失踪事件とあわせて推理します。
一応、今までの記事はこれをある程度きちんと&説得力ある形で説明するために最低限必要なものだったりします。
(膨大すぎて全てが出そろうのは年内にどうかってところですが……。)


まず、今回の考察の最重要人物は世長創司郎です。
希佐ちゃんじゃないの!?って声が聞こえそうですが、私の今までの考察をお読みの方は彼が一攻略キャラにしては異様な存在であると何となく感じているのではないでしょうか。
(というか、マジで変なので伝わっていて欲しい。
幼馴染みなのになぜか攻略キャラの中では一番最後にクレジットされてるし、OPのクォーツのペンデュラムを一人だけ所持してるし、ステラSS読むと歌詞的にもさらにおかしいとこがあったり……。)
※参考1 https://note.com/snowblossom_jj/n/nc976944dbeb4
※参考2 https://note.com/snowblossom_jj/n/n0408989b3106
※参考3 https://note.com/snowblossom_jj/n/naa08a0462562

世長の大きな元ネタには、キリスト教における悪魔の王サタンと神の子イエスという本来相容れることのない二つの存在=二面性(表か裏か Heads Or Trails)が含まれているという話を以前しました。
※参照 https://note.com/snowblossom_jj/n/nc976944dbeb4
実は、このサタンとイエスはある一つのキーワードで結びつけることが可能です。

それはーー「ヘビ」。

悪魔の王サタン=ヘビは、イブを唆して楽園追放に至る事件を起こしたヘビをサタンと結びつけて考えることがあることから、何となくでも知っている人がいるのではないかと思います。
※そもそも楽園追放ってなんぞやって人は簡易ですが過去の要約をどうぞ https://note.com/snowblossom_jj/n/n2e88776b11db

キリスト教でヘビというと、上記のように悪魔のシンボルの一つとしてイメージされがち(実際に西洋美術などでそう扱われることは多いけども)ですが、必ずしもマイナスの意味を持つものではなかったりします。
青銅の蛇は神の子イエスが磔刑にされる予型(予兆)とされているからです。

青銅の蛇って何?って人は簡易ですが以下の要約と解説をお読みください。


(要約&解説)キリスト教とヘビ

「旧約聖書:民数記 青銅の蛇」より
※わかりやすくするために内容を簡略化しています。

神とモーセに導かれ、迫害を受けていたエジプトの地を出たイスラエルの民たちは、あるとき旅の苦しみに耐えかねて不平不満を言って逆らい出した。
傲慢な彼らに神は戒めとして炎の蛇を送り込んだ。
これに噛まれ、イスラエルの民たちの中から多くの死者が出た。
こうしてやっと彼らは過ちを認め、モーセに神に祈りを捧げて自分たちを救って欲しいと懇願する。
モーセが祈ると神は告げた。
「炎の蛇を造り、旗竿の先に掲げよ。
蛇にかまれた者がそれを見上げれば、その命は救われる。」
モーセは神の教えたとおり青銅で蛇を造り、旗竿の先に掲げた。
それから、蛇がイスラエルの民たちを噛んでも、この青銅の蛇を見ると命が救われた。

さて、この青銅の蛇がなぜイエスが磔刑にされる予型(予兆)と言われているのかというと、理由の一つとしてイエス自身がこの旧約聖書のエピソードに触れて自分の未来を語ったと解釈されているから、というのがあります。
以下が新約聖書の該当箇所です。

モーセが荒れ野で蛇を上げたように、人の子もあげられねばならない。
それは、人の子によって永遠の命を得るためである。
(「新約聖書:ヨハネによる福音書 イエスとニコデモ」より)

つまり、新約聖書の上記のイエスの言葉は、「旗竿の先に掲げられること」を「十字架に磔にされること(磔刑)」に、そこに括り付けられた「青銅の蛇」を「自分自身(人の子=イエス)」に重ねて語っているとされているのです。
さらに、この天に掲げられた(=神に捧げられた)青銅の蛇が人々の命を救ったことも、イエスの犠牲による人類の救済を表したもの(予型、予兆)として受け取られています。
※キリスト教においてイエスは磔刑によってその身を神に捧げ(生贄)、人類の罪(アダムから続く原罪)を贖うことで神と人の間に新しい約束(契約)をもたらし、人々を救ったとされています。
キリスト教の聖書に「旧約」、「新約」という区別があるのはこれが由来です。

また、イエスはこのような言葉も残しています。

蛇のように賢く、鳩のように素直になりなさい。
(「新約聖書:マタイによる福音書 迫害を予告する」より)

ヘビは悪魔のシンボルのように扱われおり――実際にそのように描かれることが多いのも事実ですが、必ずしもそうとは限らず時には神聖視されることもある、世長と同じ二面性(表か裏か Heads Or Trails)を持つ存在なのです。


さて、この青銅の蛇、実はジャックジャンヌの中にもこっそり取り入れられています。
希佐や世長たちが所属するクォーツのクラスシンボルを拡大してみてください。
ジャックジャンヌという作品においてヘビが矢印という形で表現されることがある、という話は以前から考察の中で繰り返し触れてきました。
※参考1 https://note.com/snowblossom_jj/n/n4d4daadb2d37
※参考2 https://note.com/snowblossom_jj/n/n2a79984397fb
※参考3 https://note.com/snowblossom_jj/n/n2e88776b11db
クォーツのクラスシンボルはよく見ると、矢印=ヘビが中心に向かって四つ集まって十字架を形成しています。
真ん中の四角はおそらくヘビの二股に分かれた舌が合体したものです。
ヘビと十字架の組み合わせ=イエス・キリストのシンボルである青銅の蛇そのものなのです。

さて、このヘビという悪魔の王サタンと神の子イエスの共通シンボルが分かると何が見えてくるかというと――世長自身がヘビであるという事実です。
なんかまたは??って声が聞こえてきそうですが、以下の挙げる論拠を見てください。
公演の役などのすぐに分かるような形で取り込まれていませんが、彼の言動や趣味嗜好が人よりもヘビに近いものであることが分かります。


①タマゴ(料理)が好き ※公式プロフィール
復活祭(イースター)との関連性(イースターエッグ)から、世長の大きな元ネタの一つが神の子イエスであることが由来と考えられますが、それ以外にもヘビの特徴として見ることが可能です。
※イエスとタマゴについては https://note.com/snowblossom_jj/n/nc976944dbeb4
ヘビはタマゴを丸呑みにして食べる(種によっては殻ごと消化する)という独特の特徴があることなどから、この二つが結びつけられて考えられることがあります。
(ちょっと信じられない人はYouTubeなどを検索すると、ヘビ愛好家の方々が食事としてタマゴを与えている動画が見られます。)
日本国内だと日本神話に登場する蛇神――大物主神を祀る大神神社の供物がタマゴであることが知られています。
なお、今回は内容が煩雑となるため次回以降の考察で取り扱うこととしますが、大物主神は世長の元ネタにも含まれており、その伝承はジャックジャンヌの作品全体と希佐の運命に大きな影響を与えています。


②梅雨が好き ※ランダム会話:6月9日朝
ランダム会話で見たことがない人もいるかと思いますが、6月になると世長がこんなことを言います。

世長「希佐ちゃん、おはよう。
これだけ山が近いと、空気がしっとりしてるね。
空気? うん。
ジメジメしててイヤな人も多いだろうけど、僕はこの季節、気持ちいいな。」
※相互フォロワー様、セリフ確認のご協力ありがとうございました。

(種にもよりますが)ヘビはジメジメした場所や空気を好みます。
また、日本ではヘビは水神信仰=雨と縁深い生き物なので、人が苦手とする梅雨の時期を気持ちよく感じるのも筋が通ります。
さらに、①で取り上げた大神神社には巳(=ヘビ)の神杉というご神木があり、雨乞いの伝承が残されています。
ちなみにこの杉の木も世長の隠しシンボルやキーワードの一つだったりします(今回は省略)。


③昔はカタツムリが怖かった ※休日会話:あじさい(6月14日)
休日会話で世長から小さいときはカタツムリが怖かったという話を聞けます。
昔、ヘビはナメクジ(カタツムリと似ていて種も近い)が苦手という迷信がありました。
さらに、この会話の中で実際に世長の前に現れるのはカエルですが、これはヘビが丸呑みして捕食することでよく知られています。
そして、このヘビ、ナメクジ、カエルの三種をジャンケンのような三すくみの関係と考えてセットで扱う文化がかつての日本にはありました。
他作品ですがこれをモチーフにしているのがNARUTOの自雷也(カエル)、大蛇丸(ヘビ)、綱手(ナメクジ)の三人です。
(もっと言うと、おそらく江戸から明治まで書かれた全く同じ名前の三人が登場する忍者モノ作品が元ネタ。)


④暗くて狭いところが嫌いじゃない ※夏劇:不抜之志
以下、該当箇所を抜粋します。

※着ぐるみの頭部を被って
(わー……、暗くて狭いな)
(中略)
(……でも、この窮屈な感じ、嫌いじゃないかも)

ヘビは狭くて暗い場所に好んで入り込む傾向があるとされています。


⑤視界が悪くても平気 ※最終公演スチル、夏劇:不抜之志
最終公演のキルツェのスチルをよく見ると、世長(イザク)が被り物をした視界最悪の状態のまま玉乗りとジャグリングをしています。
これ、どうもただのイメージではないようで、睦実ルートなどでは世長がピエロとしての芸をきちんと練習していることがほのめかされていたりします。
ようするに、あれはおそらく世長の実演です。
さすがに器用すぎるだろと思いますが、世長は夏劇の不抜之志でも着ぐるみを着た視界最悪な感じのままダンスを披露していました。
また、彼のモチーフの一部(身毒丸やサマエルなど)には、失明(視覚障がい)を患うという共通項が見られます。
※身毒丸やサマエルについては https://note.com/snowblossom_jj/n/n4aae5212c3da
ヘビは視力が悪く敏感な嗅覚やピットと呼ばれる特殊な器官などを使ってモノを認識しています。
その他、世長自身も日常生活に支障をきたさない(演技で誤魔化せる)程度の視覚障がいを生まれつき持っている可能性が高いです。
(作品的におそらく重要な要素が関係していますがデリケートな内容も含むため、資料が揃い次第いずれ別記事で解説します。)


⑥辛いもの(刺激物)が苦手 ※夏合宿や休日会話など
ヘビのよけのクスリには、唐辛子やハバネロなどの刺激物が入れられることがあります。


⑦カラーリング
世長のビリジアンの髪に赤(赤紫)の瞳はヘビをイラストにしたときによく使われる色です。
なお髪色については、実際はシルバーのものを染めて隠している可能性があります。
これは世長の元ネタとジャックジャンヌに登場する赤目キャラの共通項を整理することで分かります。
※現在執筆中です(近日公開予定)。
また、特に立ち絵はおそらく現在も幼少期もヘビの顔をイメージして作画されています。
(描いてるうちに方向性が変わったのか、スチルや版権イラストでは柔らかくて幼い、どこか可愛らしい感じの顔立ちに変化していますが……。)


⑧奇妙な鱗 ※各種版権イラスト
スイ先生の世長のイラストには時おり奇妙な鱗が描かれていることがあります。
ヘビは鱗のある生き物です。
現状はっきり確認できるのは下記の二つ。

1.AGF2019配布のクリアファイル(もしくは石田スイ展販売のジークレー「First Step」)
腕に髪と同系統の緑の鱗が生えています。

2.雨降りそうしろう ※スイ先生のツイート:2021.6.21
世長の右足が白い鱗模様に浸食されています。
さらに、上述した通り雨はヘビ=水神信仰と関係が深いものです。
また、片足のみに鱗があるのは、ヘビは胴体が一本なので人体のシルエットに置き換えると二股の足のうち片方は邪魔だからだと考えられます。


⑨旧設定の髪型 ※キャラデザ没案
以前、継希やスズの髪型はヘビをモデルにしているという考察を以前行いました。
※参考 https://note.com/snowblossom_jj/n/n2e88776b11db
コンプリートコレクション(年表)やユニヴェールコレクション(画集)などに掲載されている没案の世長もよく似た髪型をしています。


ジャックジャンヌはヘビをモチーフにしたキャラやデザインが実はものすごく多いです。
世長、髪型のみモチーフのスズ、特殊な存在の継希を除いても、キャラだけで現状5人いることが判明しています(※現在一覧を作成中です)。
しかし、上記のように趣味嗜好そのものがヘビなのは世長くらいで、他にこうした特徴を色濃く持ち合わせている存在はいません。

なんか、怪しくない?
――というわけで、ここからさらに掘り下げて考えていきます。

さて、世長の元ネタにはヘビ=神の子イエス、悪魔の王サタン以外にも性的なモノがよく絡む傾向があります。
※参照 https://note.com/snowblossom_jj/n/n4aae5212c3da
他にも、世長ルートは2月24日に性行為のほのめかしがあったりと、性的な描写や暗喩が異様に多いルートです。
※参考 https://note.com/snowblossom_jj/n/n7ef59ca4f9a9
このヘビと性の組み合わせ――実はとある神様に行き着きます。

ミシャグジ様です。

えー、おそらくアトラス作品をやりこんでいる人くらいしか知らなそうなので、以下に簡単な概要をまとめます。
一応、出来る範囲で確認はしていますが、そもそも資料の入手が大変かつ古すぎて実態が掴めないところが多い神様なので、理解が至らない点もあるかもしれません。
申し訳ないですがご容赦ください。
※様付けなのは筆者の故郷の関係上、自分の信仰に関わらず軽視できない存在&後述するこの神様の性質の関係です。


(解説)ミシャグジ様とは
日本神話の成立よりもさらに古い歴史があるともされる、中部地方を含めた東日本を中心に記録が残る日本の土着信仰神。
様々な呼び方があり、東京の石神井といった地名との関係も指摘されている。
現在ミシャグジ様を祀っていた場所は長い年月をかけて違う神に信仰が置き換わっていたりと、その正体すらはっきり掴めない部分が多い。
関連性が指摘されている場所で特に有名なのは現在タケミナカタなどを祀っている諏訪大社で、この本来の祭神はミシャグジ様であったと言われている。
諸説あるが諏訪大社のミシャグジ様は豊穣神(繁殖などから性と結びつけられる)であると同時に強力な祟り神であるという二面性を持っており、崇拝と共にとても畏れられていたという。
さらに、他の神と習合(同化、混同あるいは同一視)された影響か、白いヘビの姿で現れることがあるとされる。
創作物ではアトラス作品(メガテンやペルソナシリーズ)のミシャグジさまが、この諏訪大社のミシャグジ様=ヘビ説を元にデザインされていることで知られる。
信仰の痕が辿れなくなりつつある現在も神として強力な力があるらしく、粗末に扱うと祟られるともっぱらのウワサ。
先述のアトラスが女神転生シリーズの制作中に祟られたエピソードは有名。
※筆者は諏訪出身ではないが故郷的に信仰の有無に関係なくマジで軽視できない存在なので、この記事の執筆前に近場の諏訪系神社にお参りに行きました。


で、そんなミシャグジ様とジャックジャンヌに何の関係があるのかというと……。
このジャックジャンヌの作品は、あたかもキリスト教(やギリシア神話など)の思想や世界観を参考に制作されたものであるかのように書かれていますが、その実態――最もベースとなっている部分はおそらくこのミシャグジ信仰です。
本日三度目のは??が聞こえてきそうですが、一つ一つ情報を整理していきましょう。

まず、とっかかりとして世長のタマゴ(料理)が好きという設定は彼がヘビをモチーフとしたキャラクター(というか、冗談ではなくぶっちゃけそもそもの正体がおそらくニンゲンじゃない)だから、と先ほど述べました。
このタマゴ――玉阪と関連が深い食べ物にあたります。
公式の4コマでわかるジャックジャンヌの第16話:玉阪市のグルメ事情などで、玉阪は養鶏が盛んで鶏肉やタマゴを一つのウリにしていることが分かるからです。
また、この養鶏が盛んな理由はかつて玉阪が神饌(神への供物)を行っていた名残であることが十和田先生のTwitter(2021.5.20)で明かされています。

つまり、どういうことなのかというと……。


大伊達山にいるのはイタチの神様ではありません。
イタチを使い(下僕)とする「ヘビの神様」です。

(補足)大伊達山信仰と比女彦神社
なんだかんだややこしいポイントなので念のため要点を整理しておきます。

①大伊達山の神と比女彦神社の神は別
②大伊達山は神が住む山とされている(本編&夏劇)
③②から玉阪には山そのものを神(が宿る場所)として崇める山岳信仰がある(本編&夏劇)
④比女彦神社に祀られている(神)のは初代・玉阪比女彦
⑤イタチを使いとするのは大伊達山の神

②の内容から大伊達山には何らかの神様がいることがはっきりわかります。


この前提に立つと様々な点が線で繋がっていきます。
以下、とりあえず分かりやすいものを四つ。

①タマゴ
先に解説した世長の元ネタ整理で触れたとおり、タマゴはヘビと関連が深く、蛇神への供物にされることがある食べ物です。

②鶏肉
大型のヘビはニワトリなども丸呑みにして捕食します。
※YouTubeなどで検索するとヘビ愛好家の方々などが実演動画を公開しています(人によってはグロ注意)。

③カエル
ヘビとの関連性はタマゴと同じく世長の項目で上述した通り。
カイの8月9日の休日会話で、大伊達山で大量繁殖していることが確認できます。
養鶏が神饌の名残らしいので、かつて同じ目的で飼育していたものが野生化した可能性があります。

④ユニヴェールの校章
クォーツのクラスシンボルは青銅の蛇をモチーフにしていると先述しました。
ユニヴェールの校章にも、自分の尾を噛むヘビ(ウロボロス)が描かれています。
しかもこのユニヴェールは、もともと舞台である玉阪市の由来にも関係している玉阪座が作った学校で、200年以上の古い歴史があります。
何の理由もなく校章にヘビを取り入れているとは考えにくいです。


さて、大伊達山の神がヘビであるとするとミシャグジ様との接点が一つ出来ます。
ここでかつて諏訪大社に伝わっていたというミシャグジ信仰の痕跡(諸説ありますが)とジャックジャンヌの設定や描写を具体的に照合していきましょう。
なお、宗教的な思想や文化が複数に跨がって絡んでおり、解説が複雑なものは今回省いて記載しています。


※以下、諏訪大社←→ジャックジャンヌの配置で記載しています。

①諏訪大社(上社)には特別な大祝と呼ばれる存在と五官という6つの神官がいた→6人の攻略キャラ

②大祝は「8歳の男児」がなったのが始まり→ユニヴェールを卒業するのは1「8歳の男児」
失踪した継希は玉阪座に入座する予定だったため、おそらく当時18歳。
やたらとヘビな世長も同じくユニヴェールの卒業時は18歳の男児になる。
さらに、世長の大きな元ネタであるイエスは男性であることに宗教的に大きな意味がある(=女性ではいけないとも言える)。

(補足)
じゃあ世長と対の(双子のような)関係である希佐ちゃんは一体なに?という話ですが、彼女の本来の元ネタ――本質はイエスではありません。
※希佐と世長、イエスの関連性については https://note.com/snowblossom_jj/n/nc976944dbeb4
そもそも彼女の元ネタがイエスではないかと長い間言われてきた理由は、最終公演のシシア・クリストフという名前がメシア・キリストのもじりだったことなどからでした。
しかし、このメシア、キリストはどちらも救世主という意味の言葉で、イエス個人の名前ではありません。
また、シシアは天使をデザインに取り込んでいますが、イエスはあくまで「神の子」であっていわゆる天使と呼ばれる存在とは別の括りです。
(会社に例えると、神がボスで天使が部下、イエスはよくできた御曹司みたいな感じ。)
その他、ジャックジャンヌの作中には聖書のエピソードをなぞるシーンが幾つも織り込まれていますが、この中でイエスの役割を実際に果たしているのは実は世長ばかりです。
さらに、希佐にはキリスト教の教えに背く重大な問題があります。
この詳しい解説にはユダヤ教なども関係してくるため今後書く別記事に任せます。

③大祝は霊的な存在に憑かれて神となる→希佐は肝試しで絢浜の神に取り憑かれている
妹の希佐に霊媒体質めいたものがあることから、継希にも同様の素質があった可能性が高いです。
世長に霊媒体質があるかは不明ですが、彼は霊感が希佐と並ぶほど異様に強いことが肝試しイベントの差分で分かります。
※参考 https://note.com/snowblossom_jj/n/n484d20c94f5d
さらに、石田スイ展では大伊達山の神を鎮めるためと思われる神楽舞を継希が踊っている没案が公開されていることが知られています。

④(誤った情報が流布した結果で実際は行われていなかったようだが)大祝は任期を終えると殺害された(=ある種の生け贄)と言われている→夏劇の継希の描写、世長の元ネタがイエスであること
継希は失踪したと作中では話されていますが、夏劇では亡くなった事実を希佐が精神的な問題からなかったことにしているかのような描写が散見されます。
さらに、世長の元ネタであるイエスも、大祝のように自分の命と引き替えに人類に救済(祝福)をもたらす生け贄という解釈が可能です。
そして、玉阪ではかつて神饌が行われていたことから、神に何か=生け贄を捧げる文化が存在した可能性は十分にあります。
加えて、世長演じるイザクの元ネタであるイサクは「山」で神に捧げられる(未遂だけど)生け贄の子で、イエスのゴルゴダの丘の処刑と重ねて語られる存在です。
もっと言うとゴルゴダの丘=高所→広義の山という解釈も出来ます。
※イザクとイサクについては https://note.com/snowblossom_jj/n/n4aae5212c3da
※ゴルゴダの丘の処刑については https://note.com/snowblossom_jj/n/nc976944dbeb4

⑤ミシャグジ信仰には特定の一族が関わっていた→中座家と玉阪家

⑥ミシャグジ信仰に関わる一族は本家(下社)と分家(上社)があったが後者が前者を凌ぐ力をつけた過去がある→中座家と玉阪家の歴史
分家の方が地域名と同じ氏を名乗ったのも同じ(諏訪→玉阪)。

⑦神降ろしを行ったとされる場所には「柊」の木があり、呼び名の一つが「柊」の宮→大伊達山の神の使いとされるイタチのオナカは希佐に「柊」のクリスマスプレゼントを渡す

⑧(ミシャグジ信仰とは起源が異なるようだが)諏訪大社には今も生きた「カエル」を生け贄とする儀式(蛙狩神事)がある→大伊達山には「カエル」が大量繁殖している

⑨諏訪大社のミシャグジ様は豊穣神と祟り神の「二面性」を持つ「ヘビ」の神→世長は「二面性」(表か裏か Heads Or Trails)がテーマで身体的に「ヘビ」の特徴を持つ存在


①~⑨により諏訪大社のミシャグジ信仰と大伊達山信仰の共通性、そして継希、世長がこの中心に大きく関わる存在である可能性が高いことがちょっとは伝わったかと思います。
そして、これをジャックジャンヌの元ネタの中でも特に色濃く影響を与えているものの一つであるキリスト教の聖書や思想を絡めると、大伊達山信仰と継希の失踪事件、世長の存在に関して以下のような仮説が立てられます。


大伊達山にはイタチを使いとする古い蛇神がおり、ヘビが好むタマゴや鶏肉などの神饌と一緒に特定の年齢(おそらく18歳)の少年を定期的に生贄として捧げていた。
(継希が74期、希佐や世長が78期なので、大まかな周期は3年おきと思われる。)
この祭祀に深く関わっていたのが、何らかの事情で蛇神から祝福と呪い(=キリスト教で言う原罪)を受けた中座家及び玉阪家だった。
時代が下るにつれてこの文化は人々に忘れられていった(あるいは都合が悪いので隠蔽された)が、ごく一部は儀式の方法を受け継いでおり生け贄を捧げることは裏で続けられていた。
睦実ルートで継希は妹の希佐を深く愛しており、失踪にはただならぬ事情があったと推測できる描写がある。
ここから、継希は玉阪の上層部にとって邪魔な存在であった(希佐ルート参照)ため、生け贄の儀式に利用されて消されたのではないかーーと考えられる。
さらに、この大伊達山信仰がキリスト教と重ねて描かれていることから、おそらく世長(=神にその身を捧げるイエス)が次の生け贄候補であることも推測できる。
また、世長は蛇神と似た特徴を持つ特殊な存在であり、人類の原罪をその身で贖い神と人の間に新約をもたらすイエス・キリストを大きなベースとしてキャラ造形がなされている。
よって、イエスの生涯やキリスト教の聖書、思想を参考にすると、世長は然るべき時に然るべき形でその命を蛇神に捧げ、それと引き替えに中座や玉阪(と希佐、おそらく根地も)の呪いを解く最後の生け贄である可能性が高い。
つまり、彼は死ぬことで人々に幸福をもたらす存在。
死ぬためだけにこの世に産まれ、生や愛を望む自由すらない、運命を仕組まれた子どもである。
(おそらく世長は「まだ」ギリギリこの事実を知らない。)
キリスト教などの宗教では神の定めたことは絶対とされ、これに逆らうことは罪とみなされることがある。
世長が神の子イエスでありながら悪魔の王サタンという側面を持つのは、本来はただ他者のために死ぬことしか許されていなかった彼が、立花希佐という人間を愛し未来を望むという反逆行為を行っているため。
彼にとって演劇とは、愛する人との許されない未来を夢見ることができる数少ない方法だった。
(佐藤元さんの公式インタビューの演劇がないと世長は生きていけない、希佐への愛が演技へ昇華されて力になる、というようなちょっと不思議なコメントにもこれで説明がつく。)
世長にとって、希佐を諦めるということは運命に従って死ぬということと言える。
なお、夏劇で世長は希佐の精神的な問題を見抜いており、その心の傷を深めないために自分は継希のように消えてはならないと考えていることがわかる。
しかし、もし世長が希佐の傍にいるメリットを消えるメリットが上回ってしまったら?
なおかつ、その喪失による傷を癒やせる、支えられる存在(他の攻略キャラ)が現れてしまったら?
さらに、それが自分にしかできないことだったら?
彼がどうするのかなんてお察しだ。
そして、この定められた死に対して、世長が希佐たちと一緒に立ち向かう数少ない未来があるのがおそらく希佐ルート、世長ルートと考えられる。

(補足)
世長が希佐に選ばれない他5ルート及び田中右BADではこれが成立せず、彼が死ぬあるいは異形となって人の世界からいなくなる結末となるのは、月の王と大伊達山信仰をさらに読み解くことで分かる。
ジャックジャンヌに使用されている大量の元ネタ群も、世長の死を暗示するものが少なくない。
ただし、あまりにも解説が膨大かつ複雑なため今回は割愛することとする(本気で気が遠くなる文字数なので)。


じゃあ正史は希佐ルート、世長ルートなの!?って問題ですが、これに対する私の答えは少なくとも後者に対しては「いいえ」です。
あえて挙げるなら、聖書の内容を比較的忠実になぞっている希佐ルートのベストエンドがあくまで正史だと思います。
ただし、立花希佐は本来現在の年齢まで生きていなかった疑惑があり(詳細は次回以降)、プロトタイプ的な存在にあたる作品の内容を考えると、ジャックジャンヌの物語そのものがイレギュラーで正史がどこにも存在していない可能性があります。


では、今回はここまで。

継希くんと世長が大伊達山信仰の中心にいるなら希佐ちゃんって何?
なんで世長が運命を仕組まれた子どもなの?
そもそもどうして中座家と玉阪家は呪われているの?
とか、その辺の話についてはもう少しお待ちください。

――という訳で、次回!
大伊達山「蛇神」信仰説・破!
(公開時期:執筆に必要な記事が揃ったら)
さ~て!
第二回もサービス、サービスぅ!

ちなみにこの記事は呪術廻戦の廻廻奇譚を聴きながら書きました。
(エヴァ関係ねえ!)



~入りきらなかった話~
世長がジャックジャンヌの世界観の鍵を握る存在なのが見えると、OPのJack & Jeanne Of Quartzの歌詞が一体誰の視点のものなのかも分かって来ます。
OPが主人公から見た物語ではないという事例は、最近ではファイアーエムブレム風花雪月のフレスベルグの少女などが有名です。
ジャックジャンヌのOPもこの系統の歌である可能性が高いです。
※詳細 https://note.com/snowblossom_jj/n/naa08a0462562


~今回の主な参考文献~
リクエストが結構あったので試しに掲載。
ジャックジャンヌの公式関連書籍はだいたいの人が持ってると思うので省略。
恩師が見たら怒りそうなすごく雑なリストです。

共同訳聖書実行委員会、『聖書 新共同訳ー旧約聖書続編つき 』、日本聖書協会、1987、1988年
岡田昌幸監、『美術鑑賞がグッと楽しくなる! 暗号で読み解く名画』、世界文化社、2021年
北沢房子、『諏訪の神様が気になるの ー古文書でひもとく諏訪信仰のはるかな旅ー』、信濃毎日新聞社、2020年
草野 巧、『F-Files No.027 図解 悪魔学 』、新紀元社、2010年

※下記の公式HP
・三輪明神 大神神社
・信濃國一之宮 諏訪大社
・諏訪市博物館
その他、コロナもあって実際に現地に行けない&図書館もなかなか使えないので、過去に参拝した人や個人的に調べたりしてる人たちのネット投稿なども見て公式サイトと照らし合わせたりました。

Special Thanks
・海のように心の広い友達(アドバイス&チェック担当)
・相互フォロワー様多数
・マシュマロ主様多数
・恩師のメモと教え