【考察】新人公演「不眠王」の元ネタ
※2021.5.23 ふせったー再録。
※当たり前のごとく新人公演のネタバレがあります。
※今回は完全に連想ゲームなので異論反論あれば遠慮なくお願いします。
※本記事の作成に関してはTwitterのフォロワーさんに大変お世話になりました(いつもありがとうざいます)。
※2021.5.30 悪魔ナベリウスについて追記。
※2021.7.18 使用人たちの元ネタを中心として大幅に加筆修正。
全体の内容や雰囲気はおとぎ話のようで、千夜一夜物語や眠り姫、美女と野獣を彷彿とさせるがまた別の元ネタがある。
不眠王は役に具体的な名前がないが、外見や性格、作中の言動から推測することが可能である。
以下、分かりやすいものと関連度順に挙げていく。
①不眠王:ケルベロス
ケルベロスは冥界の番犬と言われるギリシア神話の異形の怪物。
対応する要素を順に説明する。
1.眠れない王様
ケルベロスは三つの頭が一つずつ交代で眠り、残った二つの頭で常に見張りを行う。
→常に眠らない≒不眠
2.娘の歌で不眠が解消される
ケルベロスは死んだ恋人を追って冥界に来たオルフェウスの竪琴の音色(音楽→歌)で眠らされることに由来。
※つまり娘の元ネタはオルフェウス(後述で解説)。
3.王様の外見
※以下、左に王様→右にケルベロスの順で記載。※
・首を輪状に覆う毛皮→たてがみ
日本では犬のイメージがとても強いが、たてがみを持つとされており、ライオンとして描かれることもあるため。
・マントの矢印模様→ヘビのたてがみ
ケルベロスのたてがみはただの毛ではなくヘビとされることがあり、マントは首や肩にかけるものだから。
(補足)矢印=ヘビの図式がわかりにくい人は、他作品ですが分かりやすい例としてソウルイーターの蛇の魔女メデューサ=ゴーゴンを調べてください。蛇の細長さ、頭から尻の流れを矢の先端と終わりに重ねて、蛇を簡易化したものを矢印としてシンボル化させています。
・手の鋭い爪→鉤爪
・体の鱗模様→ヘビのたてがみ、竜の尾
ヘビや竜は爬虫類的な見た目で鱗があるから。
・足の鳥の嘴のような装飾→カラス
ケルベロスと同一視される悪魔ナベリウスの姿をカラスとする説があるため。
(総括)ケルベロスに由来する獣性を表すモチーフを全身に取り込んでおり、人ではない生き物であること、性格の荒れ具合を表現している。
4.城の内装
以下は全て娘の台詞から
・絨毯は赤いカエデ
カエデは紅葉すると赤くなる
→ケルベロスに殺された犠牲者の血の色
・天井にあるシャンデリアは洞窟で見上げた土蛍
洞窟は地面の中にあるもので、土蛍はそこを住処にする虫。
→地下の世界を指す
→冥界
よって、不眠王の城はケルベロスの住む冥界。
※大理石の彫刻はなめらかな山羊のミルクだけ由来がわかりにくいが
ケルベロスは蜂蜜と芥子から作った菓子が好き
→芥子から採取されるアヘンの原料は白色の液体
→(黒)山羊は悪魔のシンボルなのでこれと合わせて山羊のミルク?
5.王様の見る蜂の幻覚、城にできた蜂の巣
ケルベロスは蜂蜜と芥子から作った菓子が好きだから。
6.娘とのやり取りで登場するコイン
オルフェウスではないが、ケルベロスの好きな蜂蜜と芥子から作った菓子を冥界の川の渡し守であるカロンに渡した訪問者がいるらしい。カロンに渡すものは通常はコインなのでこれに由来すると思われる。
7.名前の由来
1よりケルベロスは不眠
+3より犬ではなくライオンがベースの姿かつ演者のスズはライオンが好き
→不眠+王(ライオンは百獣の王)
→不眠王
②娘→オルフェウス
城(=冥界)の外からやってきて、不眠王(=ケルベロス)を歌(→音楽→竪琴の音色)で眠らせる存在のため、ケルベロスと同じギリシア神話に登場するオルフェウスが娘の元ネタ。
愛する人のためにやってくるという点も同じ(ただし、オルフェウスは死んだ妻を求めて)。
また、オルフェウスはアルゴー船探検隊のメンバーで、死後に彼の首はヘブロス河に投げ込まれ海を越えてレスボス島まで流れ着いた(竪琴も)というエピソードがある
→わかりにくいが不眠王における根地先輩の脚本の共通点(海、水辺要素)。
以下、王様の「無神経な小鳥のように騒ぐな!」というセリフから使用人たちは全員に鳥をモチーフに取り込んでいる。
※理由の一つはケルベロスと同一視される悪魔ナベリウスが鳥の姿をしているため。
③掃除番→ムクドリ(+エウリュディケ)
掃除をする鳥
→草食動物の体につく虫を食べる鳥のウシツツキ(※掃除に例えられる)
→ウシツツキは分類的にムクドリの仲間
ムクドリは
・体が黒っぽい=掃除番の服は黒
・虫を食べる益鳥=掃除
・夜に集まってねぐらを形成することで有名
睡眠(不眠王なので)+掃除(掃除番)→ベッドメイキングのイメージ。
・↑の習性が原因で騒音被害が発生することも
王様の「無神経な小鳥のように騒ぐな!」というセリフ。
また、掃除番が過去に掃除のつもりで玉座を台無しにしたエピソードは仲間のウシツツキがたまに動物を傷つけて虫ではなく血を口にすることがあるため。
(鳥ではないが世長の好きな動物はアライグマなので、掃除→綺麗にするイメージ繋がり?)
ただし、掃除番は全身黒ずくめの衣装と常に持っている箒などを中心に、外見的にも言動的にも魔女モチーフの方が強い。
※詳細 https://note.com/snowblossom_jj/n/n4aae5212c3da
さらに、実は掃除番の元ネタには、娘=オルフェウスの妻エウリュディケも含まれている。
ギリシア神話のオルフェウスの冥界下りを一つのベースとして、様々な要素を組み合わせることで誕生したのが不眠王、娘、掃除番の三人のキャラクターである。
※詳しい解説はとても長くなるため以下の別記事を参照
https://note.com/snowblossom_jj/n/n2a79984397fb
④料理番→ナイチンゲール(+おそらくハト)
料理をする人が着る帽子付きの白い服
→白衣(学校給食でも白衣着ますよね!)
→同じ白衣を着る仕事
→看護師(ナースキャップ被るしね)
→看護師のフローレンス・ナイチンゲール
→美声で知られる(=料理番は歌が上手い)同名の鳥
→ナイチンゲール
その他、演者である白田のそもそもの元ネタと衣装の白と灰色の縞々模様(→鳥の翼の独特なグラデーション)から、ハトもミックスされている可能性が高い(後日別途解説)。
⑤大臣→ツバメ
大臣は高位の役職の人間なのに服装が地味な全身黒ずくめ、作中の言動から王様の世話係的な印象も。
→黒ずくめで高位の人に仕える世話係
→執事
→執事の着る服は燕尾服
→燕の尾(スワロウテイル)
→ツバメ
さらに、
・大臣の髪型がツバメのシルエットに似ている
・カイはキリスト教由来のモチーフが目立つ+自己犠牲的な言動をする→オスカー・ワイルドの幸福な王子のツバメ
・夏公演のハセクラの元ネタの支倉が乗った船の一つがサン・セバスチャン号→セバスチャンは執事によく使われる名前で執事繋がり(他作品ですが黒執事のセバスチャン・ミカエリス、リトル・マーメイドのセバスチャンなど)
よって、大臣はツバメ。
さて、ここまでで使用人たちの元ネタの中心になっている鳥は、ムクドリ、ナイチンゲール、ツバメとスズメ目に分類される種が起用されていることがわかる。
そして、不眠王、娘、掃除番の三人でギリシア神話の物語を構成しているのだとしたら、残りのメンバーも何らかの共通項を持つ元ネタが存在する可能性が高い。
既に出典が判明している不眠王、娘、掃除番の存在はとりあえず除外する
+ナイチンゲール(=料理番)、ツバメ(=大臣)、スズメ目の鳥、ギリシア神話の四つのキーワードに該当するもの
→ギリシア神話のピロメーラーの悲劇
(この場を借りて相互フォロワー様のご助力に感謝いたします
※元ツイ https://twitter.com/kuram_chowdonut/status/1401528053495304197)
以下、元のギリシア神話を(できるだけ)要約して記載。
ある時、プロクネーという女が夫テーレウスに、妹ピロメーラーを連れて来るように頼んだ。
ところが、その道中でテーレウスはピロメーラーに欲情してレ○プしてしまう。
さらに、反抗的な態度を見せたピロメーラーにカッとなったテーレウスは、彼女の舌を切って置き去りにした。
話すことができなくなったピロメーラーは、この出来事をタペストリーにしてプロクネーに送る。
これによりプロクネーは、妹に対する行いへの復讐としてテーレウスとの間に産んだ子のイテュスを殺して彼にこっそり食べさせる。
その後、この事実を知ったテーレウスはプロクネーたち姉妹を殺そうとし、争いあう彼らは炉の女神ヘスティアの力で姿を変えられてしまう。
テーレウスは嘴の大きな鳥あるいはヤツガシラ、プロクネーはツバメ(=大臣)、ピロメーラーはナイチンゲール(=料理番)に、そして殺されたイテュスは復活させられてヒワになったのだった。
※なお、この物語は諸説あって登場人物の役回りや変身した鳥に変動が見られるが、今回は混乱を避けるために考察に必要な情報に内容を絞って話を統合した。
さて、残りの占い師、メイド長、騎士は少し(かなり?)捻られているが、細かな部分についてはまとめて後述するとしてまずは順に役に元ネタをあてはめていく。
⑥占い師→カラス(+ヤツガシラ)
・大きな嘴状の黒いマスク→
・クリスタル→キラキラした光るもの
・占いで娘たちを導く→神託
・インナーのスカート部分に太陽マーク etc
といった要素から日本神話の導きの神であり太陽の化身ともされるヤタガラス(三本足のカラス)。
さらに、ここに黒い嘴と特徴的な頭の形状から占い師はヤツガシラ(=テーレウス)がミックスされている。
これはテーレウスが変身した鳥について諸説あり、嘴が大きいものとされることがあるため。
スズメ目縛りのルールや根地自身の元ネタとの関連性からヤツガシラよりもカラスの要素が全面に押し出されている(後日解説)。
⑦騎士→ヒワ(+ハヤブサ)
演者の鳳は冬まで根地=テーレウスに近い役に配置されて彼に教育されていて、髪が黄色い。
よって、テーレウスの子テテュスが変身するヒワ。
ヒワには黄色くない仲間もいるようだが、鳳自身のキリスト教における元ネタとの関連から彼は種と色を限定されている(後日解説)。
さらに、普段の見た目はヒワではなく、スズメ目に比較的近く騎士のシンボルとされたというハヤブサ。
ハヤブサはスズメ目を含む体重1.8kg以下の鳥類を食べるらしく、騎士は他の使用人たちに対して強気な態度を取る傾向にある。
これはおそらく演者の鳳自身の性格なども加味し、騎士が鎧を身に纏っていることをヒワとは別の種であるハヤブサへの擬態として表現しているのだと思われる。
要するに素直じゃないんだからもうっ♡てこと。
なお、ヒワ自体はハヤブサに擬態しないこと、あくまで一因で他にも理由は考えられることには注意(今回は長さ的に割愛)。
また、鳳がセリフを飛ばしたときに「カァ」と零すのは、ギリシア神話での元ネタ的に親に当たる占い師にカラスがあてがわれていること、ヒワは親鳥が吐き戻したものが食事に含まれることから、鳥の鳴き声と嘔吐声を混ぜた小ネタではないかと推測される。
(こんなんわかるか。)
⑧メイド長→コマドリ(+おそらくハクチョウ、コクチョウ)
おそらく一番発想が捻られている役。
上記の物語で残っている登場人物はヘスティアである。
ヘスティアは炉の女神で永遠の処女であり、全ての孤児たちの保護者とされる。
また、演者のフミの元ネタには処女懐胎したイエスの母マリアが含まれており(詳細は補足を参考)、ヘスティアとは処女、母(性)のキーワードで繋がっており、残る炉の要素から以下の伝承に行き着く。
聖母マリアがイエスと眠っている時、暖を取るための火が消えかかっているのに気付いた「コマドリ」が翼で火をおこし続けたため、この鳥の体の一部は焦げて赤くなってしまった。
コマドリは他の使用人たちの元ネタと同じスズメ目であり、体の一部が赤いなどメイド長の服の配色とも一致する。
またメイド長と同じくフミが演じる夏公演のアンドウとは
Ms. 「Robin」→Robin→ロビン→クック・ロビン(マザーグースに出てくるコマドリ)
でコマドリ繋がりとなる。
よって、メイド長はコマドリ。
※ポケモンのヤヤコマと同一の元ネタかつある種のオマージュの可能性あり(この他にも田中右にポケモン関係の小ネタらしきものがあるため)
その他にフミ自身の元ネタと関連深いハクチョウ、コクチョウなどもミックスされている可能性がある(現在調査中)。
(補足)フミと聖母マリアの繋がりについて
特に分かりやすいのは、
・秋公演のメアリーの名前の由来が聖母マリアであること
・フミと関連深い赤は西洋絵画などでよく聖母マリアの色に使用されること
その他、夏公演のアンドウも実は聖母マリア繋がり。
※詳細 https://fusetter.com/tw/pyhIc5Np
(相互フォロワー様、ご協力ありがとうございます。)
不眠王に登場する役の主な元ネタは以上である。
なお、掃除番、料理番、占い師、騎士にあてがわれている鳥と演者の関連性については、解説が膨大となるため今回は割愛とし、必要に応じて別途記事を作成することとする。
また、ピロメーラーの悲劇について、元の物語とテーレウスとプロクネーの夫婦(占い師と大臣)の性別が逆転してしまっている。
これは娘と掃除番の元ネタのオルフェウスとエウリュディケの夫婦についても、性別が逆転した形で役に落とし込んでいるのと合わせてあるのが原因と思われる。
その他、例のトラウマ劇場に関する考察は、ピロメーラーの悲劇には諸説存在しとてもややこしいこと、手元の資料が不足していることなどから今回は割愛とする。
(まあでも、掃除番とシャルルに関する別記事も既に読んでる人はなんとなくわかるよね。)
~以下、完全なる雑談~
※夏劇の微バレ注意。
夏劇で世長版の不眠王がチラッと読めますが、同じ冥界でギリシャ神話繋がりで彼を主役にするならハデスとペルセポネとかをモチーフにした脚本になってたのかな、などとまとめながら思いました。
真面目に考えたらストーリーが全然違うものになってしまうけども……。
百獣の王ってガラじゃないからね、世長は。
(追記)と思っていたら、世長と希佐の元ネタに本当にハデスとペルセポネ入ってたというオチ。
※簡易解説 https://note.com/snowblossom_jj/n/n9d97a7b71149