【考察】未来を記す月の王

※希佐ルートの休日会話の一部セリフバレを含みます(致命的なものはありません)。
※2021.8.1 ふせったー再録。


※注意※
私は自分の知りたいこと、分からないことを解決したいからジャックジャンヌの考察をしているだけです。
正史を特定したいわけではありませんし、真実を知っているのはスイ先生や十和田先生だけです。
正史論争に巻き込まれたり、推しが世長であるというだけで考察の意図を邪推されるのは迷惑です。
また人間である以上、どんなにチェックしても時にはミスを犯すことがあります。


まず最初に、ジャックジャンヌの公演には春から最終公演に至るまでの全てにキリスト教の聖書の元ネタが存在します。
メインモチーフとなっているものは以下の通りです(詳細はリンク先参照)。
※下記5つ以外にもサブモチーフとして組み込まれている内容がいくつか存在します(別途記事を作成予定)。

春:楽園追放 https://note.com/snowblossom_jj/n/n2e88776b11db
夏:ノアの箱舟(簡易版) https://note.com/snowblossom_jj/n/n9d97a7b71149
秋:楽園追放 https://note.com/snowblossom_jj/n/n2a79984397fb
冬:ソドムとゴモラ https://note.com/snowblossom_jj/n/n2a79984397fb
最終:ゴルゴダの丘の処刑(簡易版) https://note.com/snowblossom_jj/n/nc976944dbeb4

こうして新人公演から最終公演までの元ネタを順に並べると、根地が一定の法則に従って聖書の物語を選んでいることが分かります。

①春から冬までは旧約聖書の創世記が出典
②春と秋は楽園追放、夏と冬は神罰がメインモチーフで対の関係
※ノアの箱舟、ソドムとゴモラはどちらも神によって堕落した人類に罰が下される話です。

また、この緻密な対比構造がたまたまできているものではなく、意図的に作られていることは以下の会話から推定が可能です。

※希佐ルート(休日会話)
希佐「……あれ、これ……。
『不眠王』の台本?
こっちは『ウィークエンド・レッスン』……。」
根地「ふふ、『メアリー・ジェーン』も『オー・ラマ・ハヴェンナ』もあるよ。
作詞に使っているんだ。」
希佐「過去の台本をですか?」
根地「そう!
なにせすべてが歯車のようにかみ合って、今の僕たちを作る……。」

上記の中で根地が触れているのは作詞についてのみですが、わざわざ古い台本を手元に残している上に、「すべてが歯車のようにかみ合って」と全体の構成をよく見て創作していることを明かしていて、彼がシナリオ作成の際にそれらを全く参考にしない――という可能性は考えにくいでしょう。
そして、(読んでいる人の夢をぶち壊すかもしれませんが)実際の公演台本の作成にはスイ先生と十和田先生が関わっています。
ジャックジャンヌが使用している元ネタを含めて緻密な計算の下に構築された作品である可能性は、有志の考察やスイ先生の前作である東京喰種の読者の方なら「ありえる」と感じるところが何となくあるのではないでしょうか。
(強制するつもりはないし、冒頭の注意書きの通り真実を知っているのはスイ先生や十和田先生だけなので、筆者を馬鹿だと思う人はそれで構いません。
気になる人はネットで調べていただければ、興味深い記事がいくつか出てくるかと思います。
おすすめは「東京喰種 キリスト教」での検索です。)

さて、上述の通り春と秋、夏と冬の公演が対の関係になっていることをふまえると、最終公演も何かセットになっているものが存在するのではないか――と思えてこないでしょうか。
その最終公演「央國のシシア」と対をなす物語こそ、ジャックジャンヌの開幕からいきなり繰り広げられる意味深な演劇ごっこ「月の王」です。
この「月の王」、特に何の世界観の説明もなく始まり、途中で終わってしまいますが、きちんと聖書に関連する元ネタと意味があります。
ヒントは継希が演じる月の王です。
この月の王、なにやら敵を石化させる能力を持つらしいことから、ギリシア神話のメデューサを想像してしまいがちですが実際は別のものです。
では、一体何なのかというと――蛇の怪物バジリスクがその正体です。
以下に対応する特徴を順に並べていきます。

①名前:月の「王」→バジリスクは蛇の「王」
バジリスクはギリシャ語で王を意味するバシレウス Basiléusが由来の一つとされ、蛇の王とも言われる怪物です。
また、様々な方が立花兄妹は我死也の内容などから水神に縁があるのではないかという考察をしていますが、蛇もその信仰にとても関わりが深い生き物です。

②能力:空気中に散布されたものを吸うと体が「石化」する月花の粉→猛毒の息と「石化」の魔眼
バジリスクは猛毒の息を吐き、その目には見たものを石化する能力があります(※諸説あり)。
おそらくこの二つの能力をミックスしてアレンジしたものが月花の粉です。
さらに、希佐が石化するスチルをよく見ると、月の王の瞳は変わった色と瞳孔をしており、髪で隠れていない方には怪しげな光が走っています。
月の王の詳しい能力は不明ですが、元ネタを意識してかきちんと魔眼っぽく見えるように描かれているのです。

③武器:「三日月」状の杖→「三日月」のように刃が湾曲した刀剣ハルペー
バジリスクはギリシア神話の英雄ペルセウスが討ち取った怪物メデューサの首から滴り落ちた血から生まれたという説があります。
このメデューサを殺す時にペルセウスが使用した武器が、三日月のように湾曲した刃を持つ鎌のような刀剣ハルペーです。
(なぜペルセウスの持ち物をバジリスクのはずの月の王が持っているのかは後述。)
※なお、ファンタジー作品でもハルペーは三日月型が一般的と筆者は認識しているが、イマイチ格好が付かないとかで普通の剣や短剣にされていることもあるらしい(なんか可哀想……)。

④外見
①~③を考慮し月の王の顔がアップになっているスチルを改めて見てみます。
ギョロリと見開かれた瞳、縦方向に裂けた瞳孔(魔眼なのもあるケド)、丸い鼻の穴、つるりとした真一文字の口――蛇の王と呼ばれるとおり実はちゃんと蛇顔です。
顔の左半分を覆っている謎の物体はおそらく鱗にあたります。

⑤イタチとの繋がり
何となく継希と繋がりがあるような、ないような妙なものを感じさせるイタチのオナカ。
バジリスクの天敵はイタチと言われています。
バジリスクとイタチはコブラ(日本だとハブ)とマングースのような関係と考えられることもあるようです。
※ピンと来ない人はポケモンのハブネークとザングースを思い出して。
え、じゃあオナカって継希くんの味方じゃなくて敵なの!?という疑問に関しては、大伊達山信仰に関する複雑な歴史が絡んでいるので今後の考察をお待ちください。
実在するとある土着信仰がベースの話で今回の記事での解説は不可能なので……。
ちなみにバジリスクとイタチが味方ではなく敵対関係というのもおそらくジャックジャンヌという作品において重要なポイントです。

さて、①~⑤によって、月の王の正体=バジリスクということに少しは説得力を持たせられたかと思います。
で、これが最終公演とどう繋がるかと言うと、このバジリスクという怪物――実は聖書に登場する生き物です。
以下、該当箇所を抜粋します。

ペリシテの民よ、だれも喜んではならない
お前を打った鞭が折られたからといって。
蛇の根から「蝮」が出る。
その子は炎のように飛び回る。
(「旧約聖書:イザヤ書14章 ペリシテに対する警告」より抜粋)

彼らは「蝮」の卵をかえし、くもの糸を織る。
その卵を食べる者は死に、卵をつぶせば、毒蛇が飛び出す。
(「旧約聖書:イザヤ書59章 救い妨げるもの」より抜粋)

日本語訳では蝮と意訳されていますが、元の文章(おそらくオリジナルに近いラテン語版)ではこの蝮となっている部分がbasiliscus(バジリスク)になっているようです。
※イザヤ書以外にもバジリスクは登場しているようですが、抜粋箇所を限定した理由は後述を参照。

(補足)筆者はラテン語が読めないし、ラテン語聖書を入手するのも大変なので、やむなく英語版とポルトガル語版で簡単にですが調べました。
※同じ言語でも複数のバージョンがあるため日本語版と同じように意訳がされているものもあります。
英語版だと上記の蝮の箇所にcockatrice(コカトリス)というバジリスクと同種(同一視あるいは雌雄の関係)や同属(派生生物)と言われる同じ蛇の怪物の名前が用いられています。
このコカトリスはフミの元ネタ及び彼と継希の関係を語る上で実は重要な存在です(個別記事作成中)。
さらに、ラテン語に近い言語であるポルトガル語版ではしっかりbasilisco(バジリスク)で表記されているものがありました。

では、ここから話をまたキリスト教中心に戻していきます。

一部宗派によるところもあるようですが、怪物バジリスクはキリスト教では救世主に倒されるものとされ、芸術の分野では悪魔や反キリストの象徴として扱われてきたとされています。
ポエムのような独特の言い回しが難解ですが、上記のイザヤ書(特に59章)でも抜粋箇所以降にバジリスク=蝮は正義に倒されるべき悪であるかのようにとれる記述があります。
※さすがに載せると長い、くどい、難しいで読んでる人がかえって混乱すると思うので今回は抜粋しません。聖書の内容はネットでも無料で閲覧できるサイトや動画があるので、気になる人は各自で調べてください。
また、同じ箇所において、正義が執行される過程で武装を連想させるような表現が登場するのもポイントです。
演劇ごっこの月の王と敵対する希佐と世長は鎧を纏い、剣を手にした騎士のような姿をしており、この二人の主な元ネタの一つはイエス・キリスト=救世主です。
※参照 https://note.com/snowblossom_jj/n/nc976944dbeb4
さらに、彼女たちが持つ剣は西洋絵画において、正義や信仰、殉教者のシンボルとして扱われてきました。
イザヤ書の記述とうまく一致するのです。

そして、そもそもイザヤ書はキリスト教で未来に起きる出来事を綴った預言書として扱われています。
最終公演の元ネタである新約聖書のゴルゴダの丘の処刑も、このイザヤ書に既に記されていたと言われます。
該当箇所を全て抜粋するとあまりにも長いため、分かりやすい部分を選んで掲載します。

乾いた地に埋もれた根から生え出た若葉のようにこの人は主の前に育った。
見るべき面影はなく輝かしい風格も、好ましい容姿もない。
彼は軽蔑され、人々に見捨てられ多くの痛みを背負い、病を知っている。
彼はわたしたちに顔を隠し わたしたちは彼を軽蔑し、無視していた。
彼が担ったのはわたしたちの病 彼が負ったのはわたしたちの痛みであったのに わたしたちは思っていた
神の手にかかり、打たれたから彼は苦しんでいるのだ、と。
彼が刺し貫かれたのはわたしたちの咎のためであった。
彼の受けた懲らしめによって
  わたしたちに平和が与えられ
彼の受けた傷によって、わたしたちはいやされた。
(中略)
わたしたちの罪をすべて
  主は彼に負わせられた。
(「旧約聖書:イザヤ書53章」より抜粋)

読んでもよくわかんねえ!って人はとりあえずイエスの生涯は生まれる前から既にイザヤ書の中に記録されていたということだけ頭に入れてください(解説する尺がないので)。
ちなみに上記の文章はキリスト教系の学校だと、基礎知識として授業や講義で取り扱うこともある聖書の重要箇所です。
(補足)その他、イザヤ書は西洋絵画で聖母マリアとセットで描かれる(受胎告知)こともあり、イエスと縁の深い書物となっています。

話を戻します(今回、元ネタが難解なせいですぐ脱線しそうになる)。

では、最終公演が本当は新約聖書ではなく月の王と同じ旧約聖書のイザヤ書の内容で対比の関係にあるということが分かるとどんなことが考えられるのか?
それは月の王と央國のシシアがイザヤ書と同じ、ジャックジャンヌの物語の本当の結末を記す預言書になっている――という可能性です。
つまり、希佐と世長はいずれ継希(の姿をした何か)と争うことになり、場合によっては役者人生とか感情とかそういったものに対する比喩ではなく肉体的あるいは人間として命を落とすということです。
もっと言うと、死ぬのはあたかも希佐であるかのように作中では終始描かれていますが、実際に犠牲になるのはおそらく世長です。
(現状)希佐ルート、世長ルート以外で彼が18歳で希佐たちのために命を終える運命にあるらしいことは、実は作中に使用されている多くの元ネタや暗喩、対比構造の中にしばしば登場しています。
なぜ希佐ではなく世長でなくてはいけないのか、彼の初期モチーフが身毒丸ではならなかったのかも月の王、最終公演と同じイザヤ書から説明可能です。
この辺りの話はまとめ出すと5万字とか気が遠くなる長さになりかねないので、今回残っている月の王の謎なども含めて今後公開する他記事に任せることとします。
(最低でもキリスト教、ギリシア神話、とある土着信仰の知識がいるので労力的にも勘弁していただきたい……。)

以下はその他に月の王と央國のシシアをセットと考えることで見えてくるものを記載します。

この月の王、実はキリスト教以外にギリシア神話での読み方も存在します。
※調査中の内容も多いですが、ジャックジャンヌはキリスト教とは別に全公演にギリシア神話の元ネタが存在するようです。
春→https://note.com/snowblossom_jj/n/n4d4daadb2d37
冬、最終(簡易)→https://note.com/snowblossom_jj/n/n9d97a7b71149

さて、先に述べているように、月の王はハルペーにあたる武器を所持しています。
よって、月の王はギリシア神話ではペルセウスに当たる存在と読み替えることが可能です。
では、希佐と世長は一体何なのか?
作中での「僕たちの父さんを返せ!」というセリフなどから、少なくとも月の王は彼らの親を害した者で、それが原因で争っていることが分かります。
つまり、ここでは父と表現されていますが、希佐と世長は月の王=ペルセウスに害された怪物メデューサから生まれた子供たち――ペガサスとクリュサオルの双子です。
ペガサスは知っていてもクリュサオルは知らない人が多そうなので、簡易の解説を以下に載せます。
※メデューサの性別が女なのに父表記になっていることは、大伊達山信仰が関係する難解な箇所なので今回は解説を省略。

(簡易解説)
英雄ペルセウスがハルペーで怪物メデューサの首を落としたとき、その切り口から生まれた彼女の子供と言われるのがペガサスとクリュサオルです。
ペガサスは翼を持った馬の姿とされています。
一方のクリュサオルは残されている記録があまりに少なく、黄金の「剣」を持つ正体不明の存在です。
ペガサスと同じ馬なのか、そうでないのかすらはっきりしておらず、書籍によっては存在が確認できないこともしばしば……。

月の王の物語がギリシア神話では
継希=月の王→ペルセウス
希佐と世長→ペガサスとクリュサオル
というあてはめに気付くと最終公演にもこのモチーフが引き継がれていることが分かります。

シシア
→「馬」のような入れ墨+背中の白い羽束(=翼)
→ペガサス

イザク
→「山羊」頭のピエロ+背中の黒い毛皮(=翼)
→クリュサオル
※クリュサオルはそもそもの姿が不明で、山羊は馬と同じ四足歩行の草食動物なのでこれで条件を満たせる。

この他にも、シシアとイザクの衣装は白と黒の真逆のカラーで、天使と悪魔を主にイメージした対のデザインです(スリットの位置などもよく見ると細かく対になっている)。
それ以外にも、最終公演の二人の大きな元ネタに複数の夫婦の神話があり、シシアのリボンは基本的に青いこと=結婚式のサムシングブルー(おまじないの一種)から、ウエディングドレスとウエディングスーツのセットもベースにしている可能性があります。
※希佐と攻略キャラ6人が手を繋いでいるキービジュアルもおそらく(キリスト教の)結婚式がベース。
※イザク=悪魔については https://note.com/snowblossom_jj/n/n4aae5212c3da

さらに、ここから月の王の隠し設定のようなものも見えてきます。
きょうだい、対の衣装、戦闘描写の共通項から秋公演のシャルルとフィガロと同じく、月の王の希佐と世長の役は男女の近親相姦カップルである可能性が高いです。
※シャルルの性別などについては https://note.com/snowblossom_jj/n/n2a79984397fb

実はこの男女(特に兄妹、双子)の近親相姦カップル、希佐と世長のモチーフの共通項として多数含まれているものでもあります。
現状分かっているものだけでも、
・キリスト教のアダムとイブ
・日本神話のイザナギとイザナミ
・クトゥルフ神話のヨグソトースとジュブニグラス
・エジプト神話のセトとネフティス
・ギリシア神話のカストルとポルックス(タロットカードでは男女のカップル)
・ギリシア神話のハデスとペルセポネ(兄妹ではないが血縁的にかなり近い)
などが挙げられます。

また、世界の神話や宗教において、特に始祖となる夫婦は兄妹の近親相姦カップルであることが多いです。
発売当時から希佐と世長の容姿が似ていることが複数指摘されていましたが、幼馴染みという設定を含めて、モチーフとなっている神話の近親相姦をイメージした意図的なものである可能性が高いです。
※ただし現状の私的見解として、希佐と世長が実際に血の繋がったきょうだいである可能性は完全に0です。
この他にも希佐と世長の髪色は反転フィルターをかけると、色がお互いのものに近くなるようにわざわざ調整されています。
さらに、先日公開されたばかりのボーカルコレクションの希佐も、よく見ると青いリボン=シシアに似た色のリボンを身につけており、世長演じるイザクと同じ髪型をしています。
※ボーカルコレクションの希佐はこの他に継希の某スチルともセットの関係で意味があります。

ものすごく長くなってしまいましたが、今回の月の王に関する考察は以上となります。
説明しきれなかった部分は必要な資料や記事が揃い次第、順次まとめていきますので興味のある方はお付き合いいただければと思います。
ここまでお付き合いありがとうございました。


あと、くどいようですが念のためもう一度。

※注意※ 
私は自分の知りたいこと、分からないことを解決したいからジャックジャンヌの考察をしているだけです。
正史を特定したいわけではありませんし、真実を知っているのはスイ先生や十和田先生だけです。
正史論争に巻き込まれたり、推しが世長であるというだけで考察の意図を邪推されるのは迷惑です。
また人間である以上、どんなにチェックしても時にはミスを犯すことがあります。





~この記事を書いてるときにあったこと~
僕「もうラテン語は見たくない(ハヴェンナ語のトラウマ)」
(ここで聖書の翻訳問題にぶちあたる)
ラテン語「どうも先日遊んでいただいたラテン語です!
また遊びに来ちゃいました!!」
僕「帰れ(マジで帰れ)」
※軽い気持ちでやって地獄を見たハヴェンナ語の考察記事は https://note.com/snowblossom_jj/n/n9d97a7b71149