ミュージカル「この世界の片隅に」感想
8/6の広島平和記念日を前に、先日まで公演していたミュージカル「この世界の片隅に」の感想を書く。
こうの史代さん原作で、第二次世界大戦下の広島・呉を舞台にした、ごく普通(で、ちょっと天然)の女性であるすずさんの日常の物語。
映画化・ドラマ化されメディアで話題になっていたのにも関わらず、わたしは戦争ものであることからずっと敬遠していた。
ただ、推しの舞台だからと1回分チケットを買い行ってみたら感動のあまり、チケットを追加入手してしまい、結果、観劇4回+配信1回観た。
(本当に好きな人と比べると少ないけど、私にしては最多記録)
それはなぜか。
陰惨な現実をこれでもかと叩きつける感じではなく、戦時中を生き、家族を愛し、自分の居場所と覚悟を見つける女性の物語であったから。
義姉の径子さん、娼館で働くりんさん、家族や隣組のおばさまたちとの交流で、心に残るセリフが多かったから。
そして、音楽も、美術も、演出も、演者も素晴らしかったから。
個人的に惹かれたポイントを3つ挙げたい。
①音楽
アンジェラ・アキさんが書かれた曲を軸に物語が進む。
爆撃の様子や夫婦の思いのすれ違いによる葛藤など、緊張感漂う曲調も、(当時の)流行歌風、ポルカ風、ジャズ風…など、すずさんののほほんとした日常を描くような曲調もあり、彩り豊か。
そして、曲中にセリフが入っても、セリフから歌に移行してもなにも違和感がない。
また、アンジェラさんらしい、美しくて印象的なメロディ、情景や心象が伝わる歌詞も魅力。
「醒めない夢」「自由の色」「記憶の器」、は特に涙なしでは聴けない。
また、編曲も素晴らしくて各楽器の使い方が絶妙。
(音色が持つキャラクターがばっちりハマる感じ)
【ちなみに】編曲者さんのnote記事は読めば読むほど面白く、観劇のお供だった
公演開始前にリリースされたアンジェラさんのアルバム。アレンジの違いもあって、別物として楽しめる
②舞台美術
奥に行くにつれ高くなる「八百屋舞台」と、真ん中で回る盆と、すずさんのスケッチブックを投影するスクリーン…。
八百屋舞台・回る盆は、花見のときの周作さんとリンさんがお互いに挨拶しすれ違うシーンを、
スクリーンに投影された白波を白いウサギで表した絵は、すずさんと哲さんの「波のウサギ」のシーンを、それぞれ印象的にしてくれた
③演者さん
歌がうまい&声がいいだけではなく、キャラクターを丁寧に作られていて、それぞれが生き生きとしていた。
そしてわが推し、海宝先生。
基本的に寡黙で「何を考えているのかわかりづらい」役で、思いを歌い上げるみたいなシーンは少ないもものの、視線や口元、小さなしぐさで、緻密に繊細に作られた周作さん。
時折見えるチャーミングな表情も、
終盤の「見えない気持ち」ですずさんへの思いを叫ぶように歌うところ、良かった。
周作さんソロ曲「言葉にできない」が演出の都合で使われなかったのは残念だったが、周作さんの描かれ方を考えるとそれで良かったと思うし、
幻の楽曲があるというのはそれはそれで贅沢。
3つの魅力のなかでも、音楽のチカラは一番だった。
オープニングナンバー「この世界のあちこちに」は、冒頭のピアノ5音でぐっと心をつかまれて、登場人物が1フレーズずつ歌いながら登場⇒サビでの合唱(ハーモニーが厚くて心地よい!)に鳥肌。
作品のメッセージが曲を通して、ひとつひとつ丁寧に、そして強く伝わってきた。
とりとめのない感じになってしまったが、今年世界初演となったこの作品。
日本発のミュージカルとして、永く愛される作品に育ってほしいし、
また、夏の時期に再演してもらいたい。
(その前に円盤化してほしい!!!)