人見知りはじめには
思っていることがうまく言葉にできなくて、もどかしくなることがある。身体の中には、言葉がめぐりっているのに、相手に伝えようとした途端、散りゆくように形がぼやけていく。
そんなことが何度か続くと、一時的な会話への怖さが積もる。人見知りはじめになる。
誰かと話すことに緊張するし、沈黙が怖くなって言葉を重ねてしまいがちになる。焦りすぎて、相手の言葉を待てなかったりする。
***
「お菓子かぶっちゃったね。」
そういって、仲良しの先輩が歌舞伎揚をわたしてくれた。手の中には、差し入れようとした黒ごまのおせんべい。しょっぱいお菓子同士になったのだ。
袋に入ってるから、明日・・・と先輩が言っているのに、かぶせるように明日どうぞっとおせんべいを手渡してしまった。
明日のあとにどんなコトバが続いたのだろう。
***
ここ数日で同じようなことが重なり、がっくりと肩を落としていた帰り道。人見知りはじめになっているのを感じた。
風の引きはじめには、葛根湯。
人見知りはじめには、言葉の王子さま。
言葉の王子さまって、チャンスの女神みたいな人。チャンスの女神は前髪だけなんていうけど、きっと気高き人なのだろう。ほら、そうでないと、チャンスをものにしようなんて思わない。
言葉の王子さまは、ちょっと長めのさらさらヘア。前髪だけってことはない。お城にはずっと居なくて事あるごとに脱走して、城下町へ行ってしまうようなやんちゃな少年。だけど、紳士でもあるその人は、後ろ髪をひかれる想いに寄り添う。自慢の剣で断ちきってくれる。
言えなかった記憶はずっとそこにあるのに、もう2度とその場には戻れなくて。心残りがあるから、いつまでもその場面をリピート再生してしまう。これが会話においての後ろ髪をひかれる想い。
次はなんて言ったらいいと思う?
過去の会話のリピートから離れることのできないわたしに颯爽とあらわれて問いかける。今度はなんて言いたいのって隣に腰をおろして一緒に考えてくれる。
つぎならね、ちゃんと最後まで聞きたい。
気が合いますねって笑いたい。
それをうんうんと聞いてくれる。
次はできるかなって、不安そうにしていれば。
次はできるよって、頭ぽんぽんして笑ってくれる。いつの間にか想いを断ちきって、会話するのを楽しみにしてくれる。決して、頭ぽんぽんに惑わされていないーーはず。
言葉の王子さまは、ちょっとあざといのかもしれない。でも、人見知りはじめにはよく効く人なのだ。