かわいい私の彼は佐久間くんって言います ☆エピソード0☆
ある日ある所にある商店街の小さな和菓子屋さんでのお話。
終わりかけの金木犀がほんのり香る、静かに暖かい秋の午後。あてもなくぷらぷらとお散歩。
ちょうどおやつの時間になり何か少し食べたいかな?っていうお腹の空き具合。雰囲気の良い和菓子屋さんを見つけました。
公園のベンチで食べようとショーケースを覗くとふわふわの生地に栗入りの餡子が挟まれた美味しそうなどら焼きが2つ。しかも名札には『季節限定』の文字が。
これはもう、絶対に美味しいやつ。1つはすぐ食べる用に。もう1つはなんとなく。
『お決まりでしたら、どうぞ』お店の人に声を掛けられました。
栗のどら焼きを2つください
「栗のどら焼き、2つください」
えっ?
「えっ?」
ショーケースの中に気を取られて店内で待っていた人に気がつかなかった。しかも注文がかぶった…。
どうしよう。どうしてもどら焼きじゃなきゃ、っていう気分でもないから譲ってしまおうと
あ、あの、どうぞ。あの、どら焼き…
「僕、他のでもいいんで、どら焼き、どうぞ」
またハモってしまった
『どうなさいますか?』お店の人に改めて声を掛けられました。
このままだとどうぞ合戦になってしまう。
私、お団子ください。いそべまきのお団子を2本。
目配せでどら焼き、どうぞ。とお譲りしました。
お会計を済ませてお店を出て公園に向かって歩き始めると後ろから声を掛けられました。
「あの、すみません…」
さっきのどら焼きの人だ、と振り返ると
「あの、僕、1つあればよかったんだけどなんとなく2つって言ってしまって。もしよかったら、これ、どうぞ」と、どら焼きを差し出していました。
道端でどら焼きを差し出されるという非日常なシチュエーションに、なんだかおかしくなってしまい二人で顔を見合わせて笑い出してしまいました。
お時間だいじょぶだったら、そこの公園で一緒に食べませんか?あ、ごめんなさい。なんか変なナンパみたい…。どら焼きでナンパ…。
思わず口をついて出てしまった怪しいお誘いに自分で動揺していると
「いいですね。天気もいいし、美味しいものは2人で食べた方がもっと美味しくなる。行きましょう」とあっさり承諾。
少し紅葉が始まったポプラの木の下のベンチに座って、2人でどら焼きとお団子をもぐもぐ。空の青さとか風に混じる金木犀の香りとか、とりとめのないことを話しながら。
「ご近所ですか?」
ええ、すぐ近くです。
「じゃあ、また会えるかもしれないね」
そうですね。
なんとなく名残惜しい感じもありつつ、少し陽が傾いて肌寒くなってきた空気がお別れの時間を告げていました。
じゃあ、どら焼き、ごちそうさまでした。
「こちらこそ、お団子、ありがと。甘いのとしょっぱいのでバランス良かったわ。じゃ、また」
お互い、名乗りもせず問いもせず公園を後にしました。
のちにかわいい私の彼になる名前も知らない男の子との出会いのお話でした。