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漱石全集を買った日


中村さんに読んでほしい、と橋本さんから譲り受けた本。

好きな本について思いのままに話す2人の会話を、
たとえば喫茶店の隣の席で、
たとえばラジオ番組のある回で、
たとえば古本屋の本棚を眺めながら店主と馴染みのお客さんの会話をこっそり聞くようにして、
その場に居させてもらっているような気分だった。

やっぱり自分は本を読むことがほんとうに好きなのだと思い出せた。それはとってもうれしいことで、前向きなこころで満ち満ちてゆくのをからだいっぱいに感じた。小雨の降る午後、池袋のカフェのなかで、自分が快復してゆくのによろこびをおぼえていた。
2人の話す知らない古本屋、知らない作家・作品を目にするたびにそれを知って自分が前にすすんでいると実感できた。

脚注の工夫になんだか夏葉社っぽさを感じた。
普通の本なら作家の名前や引用文に対して脚注を付けているけれど、この本では出てきた古本屋についてや対談中の2人の何気ない一言にまで脚注を付けており、山本さんによる解説文が載っている。
たとえば、「やっぱり好きなものを増やす、というのは大事なことで、」という会話のなかの「好きなものを増やす」について、頁のしたに解説文が載っている。

そこには、

"古本屋にとってもお客さんにとっても大事なことだと思う。いや誰であっても、好きなものが増えていくのは楽しいことだ。嫌いなものから生まれるものは少ない。好きこそ物の上手なれ。これはちょっと違うか。でも、あまり小さく固まらず、大きくありたい。私も、読まず嫌いせず、自分に合う作家を求め続けていきたい。"

とあり、対談のなかで使われた何気ない一言の背景が描かれ、読むのを手助けしてくれる。背中に追い風を感じて歩きやすくなるようにして、よりそのひとつの言葉への理解が深まる。

この本を発行した夏葉社の島田さんと善行堂の山本さんにはすでに深い関わりがある。

本を読みながら、本作りをした出版社のことをこんなにも暖かく感じながら読書したことは今までなかった。

最後の1文を読んでそれから、この本をあなたに、と言ってくれたことを思い出した。
橋本さんのなかにあるたくさんの知識は、誰かへのやさしさに他ならないものだ。なんだかそんなことを思った。

*いつもはブクログに感想を載せているのですが、この本の登録がなかったためこちらに載せます。

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