ゲルハルト・リヒター作品で心のブロックがはずれた
ドイツの芸術家で御年92歳。
彼の作品を初めて見たのは、2年ほど前の東京国立近代美術館での企画展だった。
彼の代表的な手法であるアブストラクト・ペインティングの1つを見ていると、心の奥に眠っていたわだかまりが解消された。
主に緑、黒、白、黄色で構成されている中に存在するピンク。このピンクがどうも引っかかってしょうがない。
なぜこの色を入れたの?合ってなくない?個人的にこの色あんまり好きじゃないから気になって仕方ないんだよな。だってこの色、幼稚園の頃にお母さんと意見が合わなかった服の色を思い出すんだもん。
そんなことを思い出しながら眺めているうちに、ふと、
あれ?私あの時の思い、まだ解消できてないのかも、ひょっとしていまもわだがりとして残ってるのかも。
と気づいた途端、涙が溢れて、鳥肌が立って、自分のカラダの中で嵐のようにぶわーっと何かが渦巻くような感じがした。そしてしばらくぼう然として立ち尽くしていた。
その間もずっと作品を見つめていて、カラダ?心?の中の嵐が収まり始めると、さっきまであんなに引っかかっていたピンクの存在感が、まるで絵の中の奥行きの後ろ側に引っ込んでいくように目立たなくなっていった。代わりに、それまで主張していなかった黄色やグレー(黒のかすれ)が前面に出てきて、全ての色が等しくキャンバス上に存在しているように見えた。びっくりした。
彼が制作する様子を映したドキュメンタリーを見たことがあって、その姿は芸術家というより職人、例えば左官業のようだった。無私の仕事ぶり。
その彼の仕事が、私の長年のわだかまりをすっと解消してくれた。まるで魔法のようだった。