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【童話】砂糖液は浮気者
砂糖液は浮気者。りんごにくっついて僕は君に一途だと宣言したかと思えば、次はいちごに絡まってその頬に甘いキスをした。そして今度はぶどうを包み込んで僕だけを見てなんて軽口をたたく。
フルーツたちは、こんな風に言い合った。
「私は、もう何十年も、夏祭りの王道を彼と一緒にやってきたのよ。私が1番に決まっているじゃない」
「でも、最近は私の方が子どもの人気があると思うわ。彼の気持ちなんて、とっくに変わって私が1番になっているわ」
「あなたたちは、たまに彼に酸っぱい対応をするじゃない。その点私は、いつでも彼を甘えさせてあげられるんだから、私が1番よ」
なかなか決着がつかない。そこで、彼女たちは砂糖液に決めてもらうことにした。
「私たちの中で、誰が1番なの?もちろん、私よね?」
「私でしょう?」
「私だよね?」
砂糖液は言った。
「みんな1番だよ」
フルーツたちは、顔をいっそう赤くして怒り出した。
「そういうことじゃなくて」
彼女たちに怯えて、砂糖液はぐるぐると悩んだ。しかし、彼女たち全員が納得する答えなんて、とても思い浮かばない。砂糖液は、とうとう頭の中の糸がぷっつり切れて、その場で倒れてしまった。ちょうど火にかけられていた彼は、熱せられすぎて焦げてしまっていた。これでは、もう彼女たちに触れることはできない。
仕方ないのでフルーツたちは溜め息をついて、店先に行儀よく並んだ。店のスポットライトを浴びて、どのフルーツたちも、お客さんの目にはとびきり美味しそうに映った。
無機物を主役にした作品。この作品のモチーフや舞台、もうおわかりかもしれません。
今作は、夏祭りのフルーツ飴の屋台が舞台です。りんご飴、いちご飴、ぶどう飴と、フルーツ飴を作る時に、フルーツを浸す砂糖液が登場人物です。
私が小さい頃、お祭りの屋台ではりんご飴しか見たことがなかったので、初めていちご飴やぶどう飴を見た時、衝撃と悲しさがありました。
お祭りの風物詩が変わってしまうのかなって、思ったんです。まあ、それも杞憂でしたけど(^^;)
ちなみに、今の私はすっかり寝返って、いちご飴大好きです。前に食べたのは栃木県産のいちごだったかな。とにかく、想像していた何倍も甘くて美味しかったです♪
今回は、擬人法をたくさん使いました。
フルーツたちのセリフを考えるのはすごく楽しかったです。
「酸っぱい対応」っていうのは、塩対応みたいな意味です。りんごとかいちごって、たまに酸っぱいのあったりするので。
沸騰して焦げてしまった砂糖液は、フルーツ飴には使えないから、もうフルーツには触れられないのです。
カラフルで可愛らしいフルーツ飴の裏側に、こんなドロドロな関係性があったりしたら面白そうって思いながら書きました。
笑って読んで頂けたら何よりです(*‘ω‘ *)
皆さん、夜は温かくして過ごしてください。