『別れる決心』
2022年/韓国
監督:パク・チャヌク
脚本:パク・チャヌク、チョン・ソギョン
出演:パク・ヘイル、タン・ウェイ 他
-STORY-
ある中年男性が山頂から転落死する事件が発生。事故ではなく殺人の可能性が高いと考える刑事ヘジュンは、被害者の妻でミステリアスな雰囲気をまとう女性ソレを疑うが、彼女にはアリバイがあった。取り調べを進めるうちに、いつしかヘジュンはソレにひかれ、ソレもまたヘジュンに特別な感情を抱くようになっていく。やがて捜査の糸口が見つかり、事件は解決したかに見えたが……。
パク・チャヌクと言えば『オールド・ボーイ』という人が多いと思いますが、僕は『親切なクムジャさん』が好き過ぎてもう何回も見ています。前作『お嬢さん』以来6年ぶりの新作長編、カンヌでも絶賛の嵐!ということで見に行ってきました。
パク・チャヌクはいわゆる映画オタクで、往年の名作へのリスペクトを常に作品に反映させながらも、パクり・チャヌクには決してならない彼ならではの映像表現が魅力の1つです。
今回は『オールドボーイ』や『渇き』など、従来のチャヌク映画に横溢していた容赦ないバイオレンス描写や性表現を完全に封印。静かに、しかし「心をどうしようもなくざわつかせる」上質なラブ・サスペンスにフォーカスした仕上がりになっており、もはや円熟期に入ってきたとさえ感じさせる、洗練された雰囲気が漂っています。
それでいて、限りなく「変な映画」です。恐らく何の予備知識もなく見ると少々面食らってしまうことになるかもしれません…プロット自体はとりわけ真新しいものではなく、夫殺しの容疑をかけられたミステリアスな女性に男刑事が翻弄されるというもの。監督自身が影響を認めているように『氷の微笑』をはじめ、酷似した設定の作品は数多くありますからね。
しかしそれらの単なる二番煎じの映画には全くなっていない。時には観客の感情に訴えながら、時には煙に撒きながら。例えば、本来物理的に離れたところにいる2人の人物が、徐々に同じ空間に溶け込んでいく奇異かつ魅惑的なショットや、視点がキャラクターだけではなくスマホや、時には死体にまで移行する逆転的な発想などはチャヌク映画ならではでしょう。
これまでの作品に必然的な要素だった過激な描写を排除しながらも、その独特な切り口とストーリーテリングによって、むしろこれまでのどの作品よりもチャヌクカラーが際立っているとも言えますね。
プロットは大きく前半と後半の二部構成になっていて、気づいたら構図が反転しているという仕掛け、緻密な脚本は前作『お嬢さん』を彷彿とさせて見事。特に共同脚本を担当した女性脚本家チョン・ソギョンによる繊細な心理描写が秀逸です。クライマックスやラストシーンの展開も全く予定調和になっておらず、私もその深い余韻を噛みしめながら劇場をあとにすることになりました。
主演のパク・ヘイルとタン・ウェイも実に作品にマッチした、絶妙な掛け合いを見せてくれます。同じ監督の映画に同じ俳優が起用され続けることは珍しくありませんが、チャヌク映画ではその都度作品のテーマに合った別の俳優をキャスティングしているので、それが毎回お楽しみでもありますね。
早くも次回作に期待が膨らみますが、まずは本作を再鑑賞して「するめ」的に楽しみたいと思います。ご興味があればぜひ!
2023年2月27日鑑賞
atイオンシネマ多摩センター
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