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すぬの一般気象学:大気の熱力学まとめ(2)

気象学を専門としない人間が適当にメモする適当記事第二弾イェーイ
今回は熱力学の第一法則と大気の圧力・温位について。
前回の記事はこちら

静水圧平衡

普段我々が明示的に感じることがないが、地上の気圧は、地上から空まで伸びるとてもとても高い空気の柱によって押しつぶされることによる圧力によるものである。気体の密度さえわかれば、Δp = -ρgΔz という式を用いて気圧の変化が簡単に表される(この式はどの学問でも頻出。もう覚えてしまう)。
- 静水圧平衡の式にpα = RdTを代入すると標準大気の気圧の高度減率を求めることができる。つまり高度計はほぼ気圧計
- 各地の観測所は標高がまちまちなため、その地点での気圧は標高を0mに引き戻した値に換算した上で発表する。これを海面更正という。

高層天気図:地面よりも空高く、つまり「上空の空気」を知るために、はるか空の上で観測した風速や温度を記録した天気図のこと。実は3000m天気図や5000m天気図と言わずに、「300hPa天気図」などと、圧力を基準とした値で高層天気図を名づける。気象庁の各地方気象台が、一定時間ごとに全世界で一斉に行われる気象観測にあわせ、レーウィンゾンデ(独語:RewinSonde)とよばれる観測マシンを気球に乗せて、温度などを計測する。このマシン、役目を終えると燃えないゴミになって空から落ちてくるのだが、海岸にゴミとして落ちていてみつかることもあるらしい。内部の機械の電源を入れて電波を発することは法律で禁じられているので、良い子のみんなはむやみに基板に電源入れて無線とばすとかしないでね。

以下、気圧と大体の高度の対応をかいておく。300hPa天気図とかが"高層"の天気図とよく言われるらしい。
- 850hPa 1-2km
- 700hPa 3km
- 500hPa 5-6km
- 300hPa 9-10km
- 200hPa 12km
- 100hPa 15km

毎日レーウィンゾンデががんばって空高く舞い上がって観測した高層天気図については気象庁のホムペから無料でいつでも拝める。実際に、今日の300hPa高層天気図を貼って拝んでみる(=だいたい飛行機が飛ぶ高度)

等圧図なので、等圧線の代わりに等"高"線が引いてある。実際の天気図の高気圧・低気圧の等圧線とこの等高線の形は実は大体一致しているみたい。高度が低ければもちろんそこは低気圧、逆もしかり、といった感じである。

んで、ここで妙なことに気づく。今日の高層天気図の緯度30°から35°にかけて、横に大きくなびく等高線がひかれてある。これは地上の等圧線にあたるので、ふつう、風はこの等高線の高いところから低いところに向かって吹くはずである(つまり矢羽根は等高線に直交する)。しかしこの矢羽の方向を見ても、いや、どうみてもこれ、等高線に沿って西にキレーに吹いている。これはどうもおかしいが、実はきちんとした理由がある。こいつについては後々学ぶことになるのである・・・

熱力学第一法則

気体にエネルギーを加えると、その気体がそのまま膨張による仕事に変わるというだけではなく、「あたたまる」という形でエネルギー貯め込むこともできる。これを記述したのが、熱力学第一法則である。

- dQ = dU + pdV : 加えた熱量(dQ)は、内部エネルギー(dU)と圧力による仕事(pdV)の和である(熱力学第一基礎式)

内部エネルギーは、統計熱力学などの観点からごにょごにょすると、実は温度だけの関数(温度だけによって決まる)であることがわかっている。実験の結果、dV=0(定容変化)とすると、dQ = dU = CvdTが成り立っている。内部エネルギはつまり温度に比例し、この比例定数を定容比熱とよぶ。

- 気体の状態方程式の式を用いて、dQ= CpdT - Vdp (熱力学第二基礎式)も導ける。
- Cp - Cv = R という関係式も導ける。なんと定圧比熱と定容比熱の差がそのまま気体定数になってしまうみたい。しゅごい。
- 第二基礎式に静水圧平衡の式を代入すると、dQ = CpdT + gΔzが導かれる。気体が断熱的に(dQ=0)上昇・下降するとみれば、dT/dz = - g/Cp を導ける。これは、高さ(dz)に応じてどれだけ温度(dT)が変化するかを示す値で、なんと便利なことにgとCpという2つの定数のみによって定まる。これを乾燥断熱減率という(大文字のギリシア文字Γ(ガンマ)で表す)。乾燥断熱減率は、おいおいやってくる「大気の安定・不安定」に関わってくるめちゃくちゃ重要な概念である。

温位

同じ空気塊でも、高度が違えば温度も圧力も違ってくる。富士山頂の温度は当然ながら地表の平均温度よりも低いはずだが、そこの空気を断熱的に持って降りたら(=象印とかの魔法瓶に詰めて下山したら)、その空気は地表の平均温度並みに上がるか、むしろそれより暖かいかもしれない(つめたいかもしれない)。このように、とある高度・温度にある状態の空気塊を、1013hPaの地点に断熱的に持っていったとしたときにあたる温度のことを温位という。温度ポテンシャルとも言う(「それだけの温度になるポテンシャルがある」という意味で)。つまり、どんな空気の温度も、同じ空気であって、かつ熱のやり取りがなければ、それが高度に依らず必ず一定となる「ように」作られた値である。(この温位に関して理解できなければ、オフィシャルお天気お兄さんになるのは結構難しいとされている。)

あとこの温位という概念、個人的には工業熱力学のエントロピーという概念に近いと感じた。(厳密に同じというわけではないが、断熱変化の際に変わらない値という意味では似ている)

南北鉛直断面と温位の関係:緯度0-90°までの南北鉛直断面における温位分布の図を以下に記す(引用元:一般気象学(小倉義光)、データ元)。当然ながら高緯度地帯よりも低緯度地帯(赤道に近い方)のほうが地表付近の温位は高いが、実は高度が上がるにつれて、その地点の空気の温位は高くなる(注意:地表の空気塊の温位が変わるわけではない)。100[hPa]付近の空気を魔法瓶に詰めてそのまま地表に持っていけば、じつはあっちっち(500[K]=230[℃]ぐらい)。

しかし成層圏のあたり、つまり200hPaの高度では等温位線が緯度にかかわらずほぼ等しく、かつ、よく密集している。これは成層圏がめちゃめちゃ安定な空気をしていることを意味しているのじゃー。これは静力学的安定性の分野で大事になってくるのでよく覚えておく。
さらにさらに、緯度が45ぐらいの地点で、等温位線がジェットコースターのように傾いている。これも、どうやら大気の運動が関係しているらしく、実はこのあたりはジェット気流が大きい 箇所とされている。これについてもおいおい学ぶことになると思う。

気象学では、こういう一見不規則なグラフやら温度分布などの図を見せつけられることがあるが、驚くことに割とちゃんと科学的に理由をつけることができるらしい。本質的なことを理解していれば、こんな図も難しく考えずに済むということみたい。

次の記事からようやく、水を含んだ空気の動きと振る舞いについて学ぶことになる。どうして雲ってできるんだろうね。

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