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第1回京都やおよろず文学賞最優秀賞受賞記念エッセイ
箔塔落がこのたび第1回京都やおよろず文学賞最優秀賞を受賞いたしました! 応援してくださったみなさま、ほんとうにありがとうございます。以下、箔塔からの受賞記念エッセイとなります。ぜひお目通しください!
昨日の朝、私は京都の三十三間堂にいた。三十三間堂を舞台にした800文字の小説で、第1回京都やおよろず文学賞の最優秀賞を頂戴し、仏様にお礼を言うかたがた、もう1度あのどこまでも切れ目もなくつづいていくような圧倒的観音立像さまたちに拝謁する必要を覚えたからである。
受賞の連絡をいただいた日については、数字に弱い私は割とすぐに忘れてしまうだろうが、それとはべつにおそらく忘れないであろうこともあり、たとえば、受賞の連絡をいただいた日、私はかなり真剣に小説執筆という楽しい楽しい「娯楽」を諦めようかと考えていた。自分的にはかなりよく書けたつもりの小説が、一次選考通過を達成できなかったから、というありがちな理由であり、人生の残りの可処分時間を考えたとき、他の楽しみもあるのではないか、と考えるのもまたありがちなことではある。とはいえ、「ありがち」という言葉は、ひとたび小説の外に放り出された瞬間、「妥当」というきわめて穏当な言い換えを帯びるものなのかもしれないが。そんな中いただいた受賞の連絡は、だから大変光栄に思うのと同時に、ちょっと信じられないものがあった。捨てる神、そして拾う神。そういう意味では、ずっと公募に落ちつづけてきた私を拾い上げてくださったのが、京都という神様の大変多いであろう土地だったことには、ご縁のようなものを感じてもよいのかもしれない。
三十三間堂の観音立像さまはみなそのお顔が違っている――今回いただいた賞の着想はそんな有名な逸話に基づくものだった。が、いざ久しぶりに三十三間堂の本堂にお邪魔し、風神雷神立像のうしろに並ばれている観音立像さまを目の当たりにした私は、少々冷や汗をかいた。というのも、「みなそのお顔が違っている」というほどそのお顔が、当初違って見えなかったからである。これはいろいろとよろしくないのでは、と危惧したのも、けれどもそれほど長い間ではなく、床を踏みしめ踏みしめし少しずつ歩を進めていくと、だんだんとその微妙なお顔の違いに目を向けられるようになってきた。私が今回テーマとして選ばせていただいたのは「京都と愛」で、修学旅行に来た高校生が、恋しているひとに似た観音立像を探す、というのがその主要な内容となっている。「恋をするって人を分け隔てるということじゃない」と言ったのは、『愛すべき娘たち』(よしながふみ 著/白泉社)の登場人物のひとりであるが、私が書いた高校生もまた、恋をしているがゆえに、すなわち好きな人が特別であるがゆえに、観音立像さまのなかには好きなひとの面影のあるものを、かえって見つけられなかったのかもしれない――と、ふと思う。なんだかそれは、小説を書くという営みで私がやろうとしていることにも、もしかしたら通ずるのかもしれない、とこの文章を書きながら、ふと思った。まあ、私の場合、たいがいの道は小説に通じてしまうのであるが。
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賞を運営してくださった、神社仏閣をもっと身近に実行委員会のみなさま、拙作を選んでくださった、選考委員の円居挽先生、三宅香帆先生、大滝瓶太先生、ほんとうにありがとうございました。今後とも精進してまいりますので、何卒よろしくお願い申し上げます。
箔塔落