高校軽音楽部のためのPA講座 ご新規
本日はPA音作り講習ということで行って参りました。夏頃、見学の体で指導後のフォローに伺った合同ライブへ参加された他校の先生から、直接に依頼がありました。人脈が広がり、嬉しい限りです。
ご依頼は、先輩から受け継いだ様式を守るばかりで本質が何かを知る必要がある、といったご判断の下、音作りを教えてほしいとのことでした。漠然としております。が、部活動、軽音に限らず、ありがちな状況かも知れません。1日の長がある先輩も専門家ではありませんから、徐々に伝言ゲームさながらに情報が変質する恐れがあります。部活動が、そうして独自な文化を持つ側面は悪いことではないけれど、ささら文化のたこつぼ化とでも言いましょうか、知らんけど、主流から乖離する傾向も否めません。というような現象を、時折吹奏楽や大学ジャズ研出身者の中に見ることがあります。先輩の方が絶対、みたいな。
と気構えちゃったりしたのですが、詳細に機材リストを送ってくださり、その扱い方を予習したりと気合いが入るのはいつものことです。
やる気のある高校生は凄いなぁと、今日もまた感銘を受けて帰宅しました。本日は「U16」縛り。1年生バンドです。入部から半年。しかしコピー曲可となっていますが、オリジナル曲も多い。野心満々で、本当に前を向いている熱い人達でした。真剣
私自身は、これは日記だから書くけど、余裕を持って出たつもりが携帯電話を忘れ(電車に乗れない)、駅から家に戻り、時間が怪しいので車で駅へ戻り駐車場に置きっぱ(1200円ロス)にして、5分遅れで現場入りという体たらく。
サウンドチェックが始まっており、紹介を受けて早速指導を進めます。PA班が部内のマニュアルに沿って音作りをするのを見守りながら、助けたり指南したりするのが役割です。
メインのLRで音量差があることに気付き、調整を促すと「クラップ」と彼らが呼ぶパレード用の楽曲といったクリップを流して確認されていました。実際、パワーアンプのアッテネータに差があり、きっとそれは意図的だろうと思ったのですが、同じ目盛りに合わせて彼等の「クラップ」を鳴らしたところ、定位も正面に来ましたので解決しました。ちゃんと音を聴いて確かめるところが偉い。
メイン用のEQは、視聴覚室の音響特性が良く、微調整の範囲で事足りると思えました。これも彼等のやり方に任せたのですが、初めから楽曲を利用し、その再生に特化した音作りに見えましたので、途中から手を出させていただきました。私自身の声である程度調整しましたが、特に定在波の影響も感じることなく、私のリファレンストラックを数曲流した上で、若干気になる部分を増減、僅かに行い終了とします。もちろん生徒さんに納得してもらいました(ノンEQとの差も聴いてもらい)。
バンドを舞台に上げて楽器ごとのチューニングを開始します。キックからスネア、ハイハット、そしてマルチマイクがセットされていたのでタム類を順に見ます。フープに取り付けられたドラム用マイクキットですが、バスドラムに組まれる2対のタムにはキックの胴鳴りが被っていて冗長な余韻が付帯します。これは独立したスタンドで立つフロアタムも同様で、本質的な解決には多くの物理的な変更を加える必要がありそうです。チャンネルだけで処理するならゲートは必至みたいな。
一応チャンネルのEQでミッドローをカットして、そもそもタムはそれほど上げる必要もないので事なきを得ましたが、昼休み中に、卓のチャンネル割りを大幅に変更し、8トラック分使えるビルトインコンプレッサーをドラムマイクに割り当てます。それまでコンプは稼働されていなかったのです。
午後の開始時間を、それがために大きく遅らせる事態となってしまい冷や汗をかきましたが、なんとか復旧し、各チャンネルの、せっかく作ったEQやバランスを、演奏開始後からリアルタイムに調整し直しました。というのをPA班のオペレータ自身が、しっかりと曲中、曲間でやってくれて非常に頼もしかったです。
もうひとつトピックがあって、ここでボーカル用ダイナミックマイクはシュアのベータ58が主要に使われていたのですが、ヤマハのYDM505という新製品がメーカーからお借りでき、それに替えて午後から使い始めました。
演者が異なるので完全なAB比較ではありませんが、505は原則として、その人の声に忠実な印象を与えると共に、高耐入力性に優れ、高感度でもあるといった利点が認められました。ベータは志向性が鋭くハウリングに強いとされますが、スウィートスポットから外れると声を拾わなくなります。505はSM58同様カーディオイドなので横からもある程度拾いますが、本日中にハウリングは一度もありませんでした。
ある演者が、ビックリ仰天のシャウトを繰り返すアレンジのオリジナル曲を披露しましたが、全く想定外の過大入力でも音が割れません。また別の方から、歌いやすかったという感想をくれましたので、今後、広く使われると良いなと思いました。PAの側からも扱いやすいです。
視聴覚室の半分はフロアで、残りには階段状に座席があり、もしかするとそれはロールバックかも知れませんが、その中段にPA席が設けられて、ホールと同様に定点でオペレートします。
ステージ様に舞台らしき領域と幕もあるのですが、段差が無くてフロアと地続き。オーディエンスを仕切るためのポール式ベルトパーテーションが数基メインスピーカーの間に置かれ、ほぼスタンディングのライブとなります。ドラムもアンプも地面に置かれています。もしかすると、この大きな地盤が音響に悪影響を与えているかも知れません。
フロアで聴いていて不自然では無くても、PAオペレータのいる客席(ステージを見下ろす高さ)だと、曲によって低音が充満し、音楽を大きく損ねてしまっています。その要因は完全にベースアンプにあります。生音が大き過ぎる程でなくてさえ、この天井の高い大教室にローが滞留してしまうのです。
Ampegの810は重低音と遠達性が売りであり、意外にも奏者にはうるさすぎないセッティングが、離れた場所で轟音に聞こえたりするのです。床に直置き、その面は先述の通り広大、ということが中空に漂う暴力的な音圧を生むのだろうと推察します。これをPAがコントロールすることはできません。
何人かのベーシストには、ごめんね、ホールにローが回るから、少しだけ削らせて貰える?と断ってアンプのトーンを弄ったりします。エフェクターのアンプシミュレータ機能で迫力のローを増し増しにしてくる人もいます。アンプヘッドのGEQの100kHz付近にピークのカーブを作って弾く人もいます。以前にもここへ書きましたが、ベーシストの音作りに一言申し上げたい。単体でかっこいい、はバンドがかっこいい、に繋がらないのだと。
ギター用のマーシャルアンプも4発のキャビなので結構上げちゃう人が多かった。ステージの中音が良くないと、何も始まらない。私としては、リハーサルの時から、こうしたことを意識する作法を指導したいです。バンドクリニック、絶賛受付中。
ともあれ、今回のご訪問で印象に残るのは、まず視聴覚教室の音響が基本、良好であり、既にスタンダードは達成しているということ。備品機材は有効に機能しているので、あと少しの使いこなしと、この場に即した演者側の高い意識があれば、最高のライブ会場にできると思いました。
そんなわけで日記を終えますが、思えばこれが11月最初の記事となりました。少々忙しく過ごして参りまして、こうした軽音楽部支援活動も増える傾向に嬉しく思います。ご関心のある方は遠慮なくご連絡ください。