軽音楽部のコーチングを考えてみる その7

前回はだいぶとっちらかった内容になりました。私自身がジャズやポピュラー音楽を深く知りたい時、対象となる楽曲は自分の耳で音を探して採譜します。分析の仕方は目的によりけりですから一律に語れませんが、ターゲットとする楽器音にフォーカスして短い範囲を繰り返し聴き、どんな旋律/和音を弾いているか判断して書き記す行為を丹念に広げていくのは同じです。

楽曲を理解しようとするとき、このプロセスなくして、作者/奏者の意図を汲み取ることは難しいと思います。聴くだけで飲み込めたらどんなに楽だろうと、このきつい作業を投げ出したくなることは多々あります。けれど聴くだけの作業もまた重要で、音響としての表現を読み取るには、原音に忠実な再生装置に向き合う必要があります。音を取るのは音律を知るため、一対のステレオスピーカーに対峙して目前に楽器類を想像するのが音響を知るため、その2元が揃ってこその音楽であるとするなら、どちらが欠けても理解に達しません。

その意味で、部員の演奏する楽曲にアドバイスを送るのであれば、個人的にそうした準備を行った実例を紹介いたしました。前回の記事では、日頃の仕事である音楽教室での実態を思い出し、エピソードに加えたために伝わりにくい内容になったかも知れません。苦労話を吐露する心境になっていましたものね。また生徒という語も、音楽教室の生徒さんと、軽音楽部の高校生を混同されかねない登用でした。平行に走るレールの、あっちとこっちを往来するような調子だったのは申し訳ないです。

軽音楽部のコーチングにあっては、音楽を直接教えることは、どうなんでしょう、必要ないことかも知れませんね。訊かれたら答えますけど。

むしろモチベーションを上げ、水準を高めるように仕向けるべきです。それには、何をするにも楽しいと感じて貰うしかありません。

ギタリストの部員達は、もっぱらエフェクターに凝っている様子です。特に男子。こだわりのボードが組み上がっていて、その中には大変高価なものも見られます。動画サイトには情報が多く漂い、興味を持ったことは真似してみたいようで、設定意図を尋ねると理路整然と説明してくれる程には詳しい。

ただ楽曲内での実使用にあっては、行き届かない事例を四六時中観測します。場面ごとに踏み換えて忙しくやっているのに、音にさほどの変化が現れません。おそらく本人もジレンマを感じているのではと推察します。

彼等のボードにボリュームペダルが入っているのを寡聞にして見たことがありません。ソロとバッキング、などと曲中で音量差を付ける必要があると思うのですが、エフェクターの切り替えだけで実現しようとしているのでしょうか。音量の変化、というより表現(表情)とでも言うべきですが、第一にピッキングによる強弱、ギター本体のボリューム(あるいはボリュームペダル)といったツールで場面に応じた最適な音量(音色)を作るべきです。

物理的な鳴らし方がずっと一定で、ギターからのアウトプットも同じで、エフェクターのスイッチングだけで、リアルタイムに適切な音量を作れるわけがありません。それでいて、当然和音より単音の方が小音量なのに、設定の詰めが甘いせいで、シングルノートのソロが周りに埋もれてしまうといったことが起きてしまうのです。

エレキギターの演奏では、体に近い方から、まず奏法、次に本体ボリューム、そしてエフェクター、アンプの順で音量コントロールのパラメータがあります。演奏という行為は、聞こえてくる音にインスパイアされ、これから弾く音にフィードバックされるものですから、演奏の強度が連続的に変化するのが必然であると認識します。まだこのような世界観が周知されておらず、手許のコントロールがないがしろにされています。プレイとかフレーズとか(機材とか)も頑張って拘っているのだけれど、アンサンブルを築けないギタリストへ向けて、どうすれば打開できるか進言したくてうずうずしているのが正直なところです。

軽音楽部の典型的なバンド構成はボーカル・ギター・ベース・ドラムの4ピースからなりますので、ギターの仕事は質・量ともに大きくなります。楽曲のダイナミズムを演出する要といって過言ではありません。ギターの音作りを表現力を広げる方向で煮詰めていけば、バンドの魅力を即効で上乗せできるでしょう。ギタリストにとって、それが本当の意味でのテクニックとなります。

ベーシストにはベーシストの、ドラマーにはドラマーの、ボーカリストにはボーカリストの底上げポイントは既に見えていて、バンドメンバーの一人一人には異なること、その楽器の専門的な部分で示唆すべき内容があります。その指摘を受け取って、楽しく励んで貰えればいいなと願うのですが、うまくやれるでしょうか。ダメ出しじゃなくて、伸び代を明確にするよう努めないとですね。成功体験を味わって貰うことが大切かも知れません。

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