"Captain Fingers" bass transcript
リー・リトナーの1977年同名タイトルのアルバム冒頭の曲です。ベースはアルフォンソ・ジョンソンがフレットレスで参加していますが、より有名なのは、言わずもがな日本企画で制作されたダイレクトカッティングの"Lee Ritenour & His Gentle Thoughts"B面トップに収録されているアンソニー・ジャクソンが弾いているヴァージョンです。このアルバムには世界的ヒットを記録した初期盤の他に、レアですが"take2"というのがあって、公式に2ヴァージョンがリリースされています。私はLPレコードでしか持っておらず、そちらは今聴けません。1 度だけ発売されたことのあるCDはとても高価に取引されています。というわけで広く流通している方の"take1"、名演です。
さて、先の週末にアンソニーが弾くベースパートを採譜しました。楽曲をご存じの方は、とてつもない難曲であることをご存じでしょうが、中盤と終盤に2度現れる超絶のユニゾンを攻略したいとかねがね思っており、この歳でいよいよ着手したわけです。先日"Chanson"を採りましたが、このアルバムは全曲決着を付けないと死ねないと思っています。時間が空いたときにしかやれませんが…。
一応参考までに楽曲のリンクを
一聴してわかるとおり、アンソニーはピックを使用しフランジャーを掛けています。私がベースを始めてから初めて買ったエフェクターもマクソンのフランジャーでした。ピックで弾くことは少なかったけれど、この音が最新と思って、真似をしていた高校一年生でした。それはおいといて。
プレイがただでさえ凄いのは、これが一発勝負の(スタジオ)ライブ録音で、LPレコードの片面分を一気に演奏し、盤をプレスするためのマスター(ラッカー盤て言ったかな)へ直接書き込む(溝を削る)という、テープレコーダーを使わない驚愕の手法で究極の音質を目指したビクターJVCの企画でした。やばいです。
そしてこのユニゾン。このシチュエーションでは、私なら死んでも無理ですが、これ程の到達点を示されれば、それがどれだけ遠いのかも知っておかなければなりません。そんな観点から研究だけは続けていくことになります。
ユニゾンは140近いbpmで16分音符はおろか、6連符まで使って形成されています。聴いているだけでは掴めないので、ノートを採っていくのですが、どうも拍子が見えない。拍はキープされ、ビートを刻めば辻褄が合うものの、4拍子で切っていくとフレーズの開始点がずれていってしまいます。
それでは演奏感覚が的外れになってしまいます。起点・終点・まとまりといった構造を見いだそうと、何度かグループ化をトライし、私なりの見解を発見しました。
まず、ユニゾン部分へ突入するきっかけを作るタタッという16分音符2個のアクセント(キメとよく言われるもの)。ここを起点と考えるとうまく行かなくなります。それで、前の小節を5拍あると仮定し、ウタタタとユニゾンが開始されるところからを小節の1拍目とします。するとこの旋律も5拍に収まり、次の和音3連発のキメ、プラスもう1回のタタッというキメまで含めて、そこもやはり5拍に収まります。次はユニゾンが短いので3拍、次にまた5拍。この5・5・3・5拍の4小節を2回繰り返しています。上述の最初のタタッをパートの先頭と捉えると、このようなまとまりを作れません。
その後も旋律の切れ目、リズムで入れるアクセント、といった塊(パーツ)を柔軟に拍数を変えて小節線を切っていくことで、後半にもリピートがあることを示せます。頭から4拍子などで強引に収めていき、最後のつじつま合わせに2拍子の小節を入れる、などとしていると、ベタに弾いて音は合いますが意味をつかみ取ることができません。私の目的としているところは、パーツの配置を理解することでしたので、やってみてシンプルに整理できたのは収穫でした。
彼等がどのような楽譜を用意して演奏を行ったのか知る由もありませんし、この曲にトライする多くのカバーバンドが作ったスコアも見たことがありませんので、この解釈が間違っていない確信はありませんが、行った作業には満足しています。
トランスクリプションは1曲まるまる完成していますが、ユニゾン部分のみここで公開いたします。Finaleで作成した印刷用のデータをJpegで書き出してphotoshopで切り分けました。お見せする楽譜は曲の途中からで、画像冒頭はユニゾンへ突入する4小節前です。これに続きギターソロがあり、テーマに戻ってから、再度ユニゾンを行いますが、それはぴったりこの通りでしたので、ダルセーニョを利用し、最後の打ち伸ばしがFinとなります(まだごにょごにょ演奏していますが、そこは調査対象としていません)。
調号はテーマ(Aメロ)の旋律に依拠してフラット2個、Bbに設定しています。鳴っているコードの殆どにsus4が入っています。この時代のフュージョンミュージックの特徴であり、スタンダードだったサウンドの要です。