日曜9時
TBSの日曜夜9時には『日曜劇場』と呼ばれるドラマ枠が連綿と続いており、Wikipediaで変遷を辿ると、知っている一番古いタイトルは『時間ですよ』(単発ドラマ)だったけれど、もちろん再放送でしか見ていないので視聴した最古の記憶ではありません。子供の頃に一家一台のテレビは父親が独占していたから、20代半ばに家を出てから買ったのが最初で、その頃から見るようになりました。つまり社会人になってから。
以後、意外にも日曜劇場のタイトルは90年代に入っても知らないものばかり。2000年代からはタイトルを知っているが、見たことはない、が続きます。で、やっと見たことのあるプログラムにぶつかったのは2009年10月期の『JIN-仁-』でした。中谷美紀さんのファンだったから。ただ2年後の「完結編」の方は見ていませんでした。この頃は忙しかったからね。
たいして本数がないので見たものを列挙すると『新参者』 ( 2010年4月)、『空飛ぶ広報室』(2013年4月、ただし数年後にサブスクで視聴)、『半沢直樹』(2013年7月、続編は見ていません)、『ごめんね青春!』(2014年10月、リアルタイムで見たクドカンの名作で後にサブスクでも視聴)、『グランメゾン東京』(2019年10月、最近の映画の方は見ておらず)、『ラストマン-全盲の捜査官-』(2023年4月)、『VIVANT』(2023年7月)と昨年までで8本。ということでWikiによれば、連ドラ枠となって以来の127作品中、6%しか「知らない」ということになります。
でありながら印象として、この時間帯のTBSドラマは凄い(かも?)という印象が出来上がっているのは、個人的にはVIVANTによるものかと思います。第1話から衝撃を受け、さっそく周りの人に喧伝したほどですから。ぜんぜん伏線回収されずに謎なまま終息するという余韻も、むしろやれる限りのことをやった感を残しており、決して緻密ではないけれど、イケイケなのが私はいいと思います。
それと作風は対極でありつつ、相当やってくれそうな予感に満ちた、今期の『御上先生』が面白い。本作を最後まで見たらシリーズの視聴達成率も7%に上がります。なんの意味もない数字だけど…。
好きな俳優達が学園ドラマで集結し、私自身が昨今高校生と交流することから興味を抱いて視聴を開始しましたが、冒頭から資格試験会場での暴力シーンで、枠を超える長尺にもかかわらず、ひとときも飽きずに見ることができました。徹底した会話劇でありながら、物語が視聴者をどこへ連れて行くのか全く予想できない展開に引き込まれます。
人間が、何歳であれ、それぞれに抱える暗部と葛藤しながら命を維持している営みを各立場から顕わにする構成は圧巻に思いました。というか、やはりそれを行える筋立てが秀逸です。続きが待ち遠しい。というのもVIVAN以来。
物語の舞台は学校の枠を超えているので、人の内面描写はミクロ的な扱いとなり、主要人物にのみフォーカスして進むものかと最初は思いました。元官僚の先生、副担にされた教諭、学校新聞の記者、その幼なじみ、理事長といったところ。
それでも見所はクラス内で行われる一種のディベート。この風景は作られたものであるにせよ、私にとっての高校とはこうしたイメージなので、まずエンタメ的にとても楽しむことができます。たとえそれが悪感情にまみれた暗い交換であっても。言葉が鮮烈で意思疎通が成立している「世界」というものが私は好きで、ある種村上春樹作品の登場人物達の会話にも通じるかと感じました。リアルな社会での痛痒は、相手によっては日本語が通じない、という事象であり、近年本当に、むちゃくちゃに言葉の意味が書き換えられ、本来的な用法では全く意図が伝わらないなどということが、それこそ頻繁に起きています。むろんSNSの普及によるものでもあります。誤読、曲解、突発的に吐くアンチコメントに見られる言語的な不適切性。
頭のいい学校と設定したことにより言語の交換が不備なく行われる前提で事象に対面していく群像劇が正立していて、その分「事件」の複雑さや深みを充実させることができています。
感動、という側面では第3話だったか、帰国子女の女生徒が衆目の中で煩悶を吐露するところで不覚にも涙するという場面がありました。学校を巡っては何か大きな事が起きている中、先にミクロ的と言いましたが、個人の抱える個別の問題を共有していく流れが、今後期待できそうです。人は、それぞれが救われんとして生きていますので、僅かでもその兆しが提示されることで見ている私たちも荷が軽くなるのです。
その生徒を演じる俳優を調べると、DAZNのサッカー情報番組に出ていた方でした。どこかで見ていた、と言えば、ジャーナリストを目指す問題生徒を見守る幼なじみ役の女生徒も朝ドラで印象を残していた方でした。キャストの集め方は大成功じゃないでしょうか。
劇伴も心地良いので調べれば、大御所鷺巣詩郎さんと知り流石だと思いました。総合的に、このドラマが現在進行中ではベストではないかと思いますがいかがでしょう。