高校軽音楽部サポート、『PA講座』やりました

昨年11月に依頼を受けており、その準備を進めてきましたワンデイのPA講座を実施しました。翌日に他校を交えて行う「合同ライブ」を予定しており、午前中に部員がステージを設営し、午後から3時間程度で講義と実習を行います。実習の部分は翌日の一番目に出演する同校のバンドを舞台に乗せて、サウンドチェックまで行いセットアップを終わらせることを目標とします。この高校では、軽音楽部はバンド編成でオリジナル曲を創作したり演奏の練習をするに止まらず、イベント企画と運営、つまり当日のスタッフを部員自身で行う指導方針に特徴が有り、音響の扱いについてはプロの指導が不可欠とのご認識から今回の運びとなりました。

同校での軽音部がこうした活動を開始したのは23年度からで、年度末までに6回を数えることになります。私は前回を見学させていただき、第5回の本日のために昨日の講座を請け負っています。昨年のライブでは、その活動歴の浅さにしては、むしろよくやっておられた好印象が残りましたが、様々な問題点も散見いたしました。音響担当、舞台担当の生徒さん達の動きが組織的でなく、例えて言えば、全員がボールに集まるようなサッカーをやっている様相でした。ですから、大きな枠組みでコンサートに関わる職務を分類し、運営の全体像において音響担当者の役割を明らかにするところから始めます。ちなみに照明については外部協力を得られているようで、門外漢でもある私が触れることはありません。

組織、そして時間軸での職務などを理解していただき、いよいよ操作を含む専門性に言及しようとするとき、そもそも大前提となる「音」に関する事情を知る必要があり、会場の音響、また音響機器のサービスエリアといった視点を、ホワイトボードをご用意いただき、図示しながら伝えていきます。

私は若い頃にレストランの厨房で実務経験があり、コンサートとレストランに共通するイメージを持っています。レストランは料理を作るだけでなくサーブする仕事が同等に重要でありますが、最も大切なのは食中毒を発生させないことです。コンサートにおいても、安全が最重要で、それは設営に落ち度があってはならないだけでなく、電気を扱う上で避けて通れない知識があると認識して頂きます。

もうひとつ、レストランに準えたいのは、提供物である料理の味と客席で聴く音に近しい性質を感じるからです。味付けとミックスは似ています。まず、正解というものがありません。担当者の経験と感覚によって最善を尽くすことによって水準を保つしかないように考えます。同じ味を再現するには、レシピに定められたとおりに調理しても実現せず、その時の素材、気温・湿度などの環境変化に応じた「匙加減」を施す必要があります。音も、簡単な事例で言えば、リハーサルでのベストなミックスは、客入れ後にはベストではない、ということが挙げられます。常に、その時点での最善を保持し続けるための微調整が求められます。これらはオペレータ役の心構えとして知っておいて欲しいところです。

さて、学校備品のミキサーが、入出力以外はDSPで処理されるブラックボックスをパソコン、タブレット、スマートフォンでリモート操作する先端機種とあって、生徒さんはゲーム感覚で操作に精通していますが、そこに備わるあらゆるパラメーターを弄ってしまう傾向にあって、それが出音を劣化させる原因のひとつと感じました。チャンネルごとにEQ、コンプをインサートする音作りが、全体として「こもった」質感から脱することができなくなっていました。ミキサーの構造を知っていただくために、民生機ですがアナログミキサーを持ち込み、操作概念を実機を見せて説明します。

このようにハードウェア取り扱いの基礎を再確認し、タイムテーブルとしては実習へ移ります。まず組み上げたシステムのメインスピーカーから、彼等の聞き慣れた既成曲を流してもらいます。私には馴染みがありませんでしたが、音質的には低域の解像度が悪い、中域が固く声が耳に痛い、ハイエンドが出ておらずこもっている、といったアンバランスさを感じました。最終段に位置するマスターEQは、すでに設定済みで、ルームアコースティックは取られているようですが、私の持ち込んだ音源でフラットから作り直してみました。リファレンストラックは3曲、あらゆる環境で聴いてきて、どのように響けば素直な再生であるかを把握しているつもりです。本来、人声で小屋のピークを探す過程も必須ですが、時間の関係で割愛し、トラック再生のみとしました。満足できたので、最初にかけた生徒さんの用意する楽曲を流すと、驚きの声が上がるほど聴きやすい音へ変化していました。

以後、外部から招聘した専門学校生のドラマー(つまりプロ志向)に入っていただきサウンドチェック開始です。ドラムセットのセッティングにも問題がありましたが解決済み、マイクはキック、スネア、オーバーヘッドLRの4本です。良い拾い方ができましたのでバンドへ交替していただきます。ベースはライン(アンプ背後から)、ギターアンプは2台用意しているので各々をテストし、アンプのセッティング(置き方)を変更したりマイキングをやり直したりしました。キーボードは1バンドのみが使用とのことでチェックせず、楽器類の次にボーカルマイクをチェックしていきます。その後バンドで楽曲を演奏してもらいミックスのバランスを、各々のEQを加えながら作っていきます。生音と外音が重なってひとつの音像を作るためのミキシングについてレクチャーしました。

というようなプロセスを経て、4時間近くを消費したPA講座を閉じました。すると数センチ、角度にして数度を調節して決めたドラム用のマイクスタンドを最短長へ縮めていきます。これにはびっくりしましたが、不在時の地震などに備え、伸ばしたまま放置はできないルールと聞き、納得しました。安全最優先です。生徒さん達は撮影したりして再現できると自信でしたが、はたしてどうでしょうか。しかし、逆に状態をキープしたとしても、本番当日に客席が埋まった状態でそれがベストだったかどうかはわかりません。全ての要素は、再調整の余地有りと覚悟して臨まなくてはなりません。

ですから今朝、私は「仕事」を離れ「遊びに来た」体で来校の許可を得、最初のバンドから拝見しました。ドラムのオーバーヘッドマイクは、前日のセッティングとは一見して異なっていましたが、音の方はつつがなくバランス良く出ていましたので黙認しました。昨日、私が帰った後にミーティングでも行ったためか、運営組織に改変があり、目を見張るほど舞台の転換などスムースに行われているのを目撃しました。講座が、その一部でも功を奏した実感を得られ、感慨があります。

昨日は、他校からわざわざ講習を受けに来てくれた方々が、連日となりますが出演のために来られています。合同ライブは4校からの選抜で行われ、いずれも素晴らしく昨今の軽音部の盛り上がりを感じさせます。そして昨年12月に見学して1ヵ月後とは思えぬほどの出音の向上と、出演者達のやりやすいとの感想を口々に聞くことができました。ライブのトリにプロになったOBのバンドをゲストとしてお招きするのが常のようです。本日出演の方々が、バンド入り後のサウンドチェック(一旦スタッフ以外はクローズします)を行いながら「やりやすい」と漏らし、それが聞こえた生徒さんからオーという歓声が上がりました。ライブ後に尋ねてみると、そこらのライブハウスより全然やりやすかったと仰ったので、スタッフの生徒さん達に言ってあげてくださいと申し上げました。私自身、そこらのライブハウスより良い出音になっていたと、正直に思います。

さて、このように二日間を過ごしてきましたが、今後も軽音楽部サポートのお仕事を続けて参ります。本日のnoteは、概略を記録として書いたものになりますが、いずれ具体的な講座の内容も記事にしていこうかと計画しています。またご依頼があればお手伝いに伺いますので、ご興味のある学校関係者の方々はメッセージをお寄せくださいましたら活動の概要をお話しさせていただきます。


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