ベース再生装置におけるパワーアンプについて少し の2
パワーアンプ装置のD級はデジタルだからDというわけではなさそうです。ましてやA級やB級があるからと言って、優劣に対するラベルでもありません。
パワーアンプと称される機材の役割は、スピーカー(ドライバー)を駆動させることです。
スピーカーにはコイルとマグネットが配置され、電流の変動で磁力を発生させ、接触する例えばコーン紙(お皿のような部分ですね)をばたつかせます。それが大気中の気圧を変動させ、空気の粗密がヒトの耳の中に生えている毛を揺らします。そこでまた電気信号が発生し、神経を通じて脳内の担当部署に連絡が行って、音がした、と認知されます。
ベースの弦をポンとはじいた瞬間に、遅滞なく音を聴いている感覚でおりますが、その意識することのできない極めて短い時間の中で、何度この「運動」ー「電気」ー「運動」ー「電気」の変換を繰り返すんでしょうね。私は速度という概念を意識するとき、こうしたミクロな世界における、超ハイスピードな連携動作へと、つい思いを馳せてしまいます。
パワーアンプに入力される信号は、一般的な業界用語で言うところのラインレベルでなければなりません。パワーアンプは、物理動作に直結するような力仕事を行いますので、それをそのまま形にするだけでいいよね、という仕上がったデータを受け取る必要があります。
概念的な説明をするならば、プリアンプではマイク、ピックアップ等が生成する微小な信号を、整形しつつ拡大(増幅)し、パワーアンプに手渡します。パワーアンプはそれをスピーカーに働きかけ、音を発生させます。
パワーアンプには、その最大仕事量が明示されています。所定の抵抗値(使っているスピーカーの抵抗値)に対してどこまでの電流を流せるか、その理論的な最大値を電力の単位=W(ワット)で示します。
W数が大きいほど、大きな音を出せるという風にイメージできます。一応、その値以下(ボリューム以下)なら忠実な音が出る、という目安になります。パワーアンプに入力する信号を上げていくと、音量が上がっていくのですが、その最大値を超えると更に音量が上がるとはならずに、音質が損なわれていきます。
元の信号波形が正しくトレースされなくなるのです。その状況を一般的には歪む(ひずむ)と呼んでいます。歪み(ゆがみではありません!)は、あらゆる動作ポイントで発生する可能性があります。スピーカーユニットに対して耐入力を超える電圧をかけると、動作が過多となってコーン紙がビリ着いてきますが、こうした物理現象にも歪みという言葉を用います。私はやり過ぎて燃やしました(くどい)。
さてクラスDが、運用的に理想のデバイスであることは間違いないのですが、なぜかそれによって出てくる音は癖を感じさせずにいられません。
表現が難しいですが、ツンとした、張った感じの、耳障りな、というようにある意味、刺激が強いです。しょっぱいというか。あるいは、逆撫でという言葉がありますが、耳の奥のか細い毛を逆撫でされているかのようです。逆相なのでしょうか(そんなことはない)。
2016年に購入したマイカーの純正カーオーディの音に我慢できず、最新鋭のDSP内蔵アンプシステムを導入しました。純正品には低音を嫌でも強調するイコライジングのプリシェイプが行われており、測定機能によって得られた逆特性のカーブを与えて音質をフラットに戻す仕事をDSP(デジタル・シグナル・プロセッサー)が行います。また、車内のスピーカー配置に起因する、耳へ到達する時間差や、障害物によるマスキングなどの要素を、個別に微調整することもできました。
スピーカーユニットも視聴を繰り返して、純正よりも小口径の柔らかく癖のない音質のものを選び、付け替えました。ドアにマウントされるものは、ドア内部の共振をがっちり止めて、物理的な歪みの発生を抑えました。しかしここまでやっても、結局のところ聴き疲れしない音は作れませんでした。
私の結論は、安易かもしれませんが、D-classアンプの音質を許容できなかった、というものです。
お金をかけた車でしたが、昨年の夏に走行6万キロを超えたため買い換えました。緊急事態宣言が解除されてからも、本来の仕事量の半分以下しか予定がなかったので、納得いくまで試乗ができました。この時の話は、いずれここでも語りたいと思っています。
試乗するとき、カーオーディオもチェックしました。フロントスピーカーのみにし、イコラーザーカーブをセンターへ戻し、いつも聴いているFM番組を鳴らして、DJの声が不自然でないか、営業の方とおしゃべりしながら車体以上に厳しく評価したかもしれません。
実際に乗り換えた車は、マニュアルトランスミッションであることを優先した選択となりましたが、搭載の純正オーディにも十分満足しています。メインのスピーカーはツイーターの無い10cmフルレンジが膝の横くらいの低い位置に取り付けられ、左右のシート下に16cmだったかな、サブウーハーが備わります。非常に、というか極めて、賢い音響設計だと思います。さすがBMW(のミニですが)。
トレンドから言って、パワーアンプ部がD-classであることは確率的に相当高いと思いますが、嫌みを感じません。昨日のパワードS12の話と通じるところですが、たぶんツイーターが無いからだと思います。しかし本当に自然な良い音がします。サブウーハーは低音域の解像度を鈍らせる傾向があるので、音質設定でバス(低域)をかなり下げることで対処しています。Wベースのピッチが聴き取れるかどうかがキモです。一般の方が好むようなローの音量だとフレーズが見えません。
車載オーディオの話題も喋り明かしたいほど尽きないのですが、これ以上はやめておきましょう。D-classアンプの、今普及しているものには、ある種共通の音質傾向があって、それはどの分野で使われていても、同様に感じ取れるという部分を読み取っていただければ幸いです。
明日はベースアンプに話を戻すつもりでいますが、パワーアンプ部の動作原理によって、昨今の超軽量(手のひらの上で持てたり、ベースのギグバッグに入っちゃうような奴)D-classアンプ、D級では無いけれどスイッチング電源を採用している奴、リニア電源を採用するトランジスタアンプ、真空管アンプという4分類で、その傾向を探っていきたいと思います。あくまで、今この瞬間、そう思っているだけですが。(カーオーディオに流れたのも想定外だった…)。なにとぞよろしくおねがいもうしあげます
おわり
そうそう、D級アンプに私の聴覚が拒否反応を示しているのと同じ現象を、どこかで味わっている気がしていたのですが、ふと思い出しました。LED電球です。フィラメントの電球の光に慣れた目に、LEDの光は痛いです。まだ体が馴染んでいないだけですので、最初からそういうものだと思って育つ世代には共感されないと思いますが、このふたつの感覚はとても似ています。