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電車でアンプ持ち込み
6月中旬土曜の夜、港区のライブバーに出演しました。まぁ昨日なんですが…。こちらには確か4回、過去に出演機会があって、いずれも会場備品のベースアンプを使用しました。グランドピアノを配したステージにはピアノトリオとボーカルといった編成には充分ですが、我々は5人でしたのでステージが狭く感じられます。
ステージ全幅の半分近くを占め、奥行はいっぱいとなるピアノが置かれる位置から正面の壁との隙間に、8インチスピーカー2発を縦に搭載するスリムなコンボアンプが横向きにセットされ、上手のドラムセットとの間で人ひとり立てる半畳ほどのスペースがベーシストの持ち場となります。右側はピアノの蓋に手を乗せられ、左側はライドシンバルを叩けるような距離。自分の体の右横で、こちらを向いたアンプから音が出ているといった塩梅は、ドラマーにも効率よく音が届くという意味ではモニターとして「有り」な配置。しかしアンプそのものの能力がベースギターの再生には不十分で、弾き手にとっては「我慢」が強いられます。
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仕事にはベースアンプを持ち込むことが常ですが、この店の出演条件が厳しく、クルマで現場入りできません。荷下ろしのために、店の前に横付けは何とか可能かもしれませんが、その後の保管に関しては、都内有数の高額な駐車料金水準が、恐らくギャラを根こそぎ奪うでしょう。演奏を生業としている以上、赤字になるくらいなら引き受けない方が良い。
そこで電車移動でもアンプを持ち込むことを真剣に検討しました。使用機材については過去記事をご覧ください。
VL108も8インチスピーカーで、備品はダブルですが、これはシングル。けれどもちゃんとした低音が再生できることは実証済み。重量は12kgプラスくらい。以下のサイトでは他社の同様モデルとの比較が記述されています。
主のトム・ボウルスによれば「エピファニの超高域は出ないし、10インチに較べれば低域も十分とは言えないかもしれない。しかし中域がしっかりと滑らかに出ており、小型で有るメリットを考えれば驚異的なサウンドが得られる」と褒めています(意訳あり)。これを気に入っているからこその電車移動が考慮に入ってきます。今でも唯一無二の存在であり、サブとして複数台持っておきたいくらい。
先日のnoteに記した使用例ではDemeterの400Wと組み合わせており、それもあって満足が得られますが、今回は荷物を減らすためにWarwickのLWA500ヘッドを選択します。昨今はより小さなアンプも存在しますが、1.3kgなら目をつぶれる。8Ωで250W。私はこれのマスターボリュームをフルアップにしてゲインノブで聴取音量を加減します。ぎゃんぎゃんバカでかい音で弾きまくるギタリストが居ないならば必要十分な能力。トーンノブを全てセンターにして音質はスーパーフラットで全く癖がない。ビルトインのコンプレッサーも優秀ですが今回はバイパス固定。
エフェクターボードは常時使用しているところから若干変更しています。ソロが多いので出口にリバーブを加えているのと、パッシブのベースに対してオンボードプリアンプをアウトボード化したユニットを入り口に繫いでいます。またバッファーからボリュームペダルに行く間に、通常Taurus Tux mk2を入れておりますが、不調のためRMI dual band compressorに替えました。
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VCAタイプはdbx系で好みです。ベース用として入力をハイ・ローに分割して、微細なコントロールはできないものの、2台のコンプユニットそれぞれに与えられるチューニングで圧縮量を可変するため、演奏のダイナミクスを失わない設定が可能です。タウラスはむっちりしたトーンに化けさせるエフェクト性に価値があり、こちらは逆に、極めて高品位な色付け無さが特徴。ソロをとる時のアッパーレンジのノートを落ち着かせ、血色の良いトーンへ補正するには効果的でした。かっこいいスラップトーンだって作れる。
エフェクターボードは専用ソフトケース内にまとめていて、ギターケーブルは楽器のギグバッグへ入れるので含まれませんが、アンプヘッドをそのポケットへ入れてしまいます。付随するパワーケーブルやスピーカーケーブル、電源タップもしまい込めるため、このバッグがかなりの重量となりました。
この日のためにサウンドハウスでMagna Cart MCXを購入。スピーカーキャビネットとエフェクターケースを、それぞれビニール袋に包んで積み上げ、ゴムバンドで固定します。このカートを購入した時点で、想定される駐車場代を上回っているので、すでに赤字ですが、新しい試みへの投資です。家から最寄り駅まで自家用車で行き、駅前の駐車場代と電車賃で2000円近く出ていくため経費は7千円弱と本末転倒は否めない。
https://www.soundhouse.co.jp/products/detail/item/261934/
MCXの底板(プレート)は、カートを立てたときにそのまま接地します。アルミが直接アスファルトへ擦れるため傷になりますし、今回、キャビネットがそれを上回るフットプリントを持つため、キャビの角が地面に触れて包んでいたビニールは破けてしまいました。固定用ゴムバンドもまたプレートの下面を通さざるを得ず、これも地面に直接触れます。耐久性にも衛生的にも良いことはありません。カートを使用しないときに、車輪が横へ倒れて場所を取らないことが唯一の美点かと思います。荷物の保護を工夫すれば今後も使い道はありそうです。
さて、総重量20kg越えは階段がきついです。下車する地下鉄駅では上りエスカレーターはあっても下りは階段のみという設計で、何度となく、ベースを背負いながらキャビ類を両腕で抱え、運搬させられました。夜は雨になり、傘を差せないことは覚悟していましたので体とベースが濡れ、午後11時過ぎに、近所のファミレスへ向かっても開いておらず夕食難民となりました。
ライブバーでのベースの出音は満足できるもので、持ち込みの苦労は報われました。ピアノの近くに置いた私物のレコーダーには、理想的なバランスでエアー録音が残せており、ステージの中音は完璧でした。
一方、備品アンプの背後に刺さっていたラインアウトのケーブルを、こちら側に差し替えることをせずに様子を見ていましたが、小屋のPAオペレーターは、リハーサル(サウンドチェック)を通して、私が持ち込みのアンプを使用していることに気付かずじまい。ということは、ベースはPAで拾わないということ。アンプは客席に向いていませんが、それでやれていたということは、中音での好バランスが、そのまま外音にも反映されていたと信じたいです。弾いていて気持ちよかったのでそれで良しですが、お客さまにはどう聞こえていたのだろう。
店へ入ってくるロングヘアの素敵な女性の後ろ姿が、本番前の楽屋の扉から見えました。お一人で席に着かれたその方は、ファーストセットが終わったとき、姿がなくなっていました。演奏がまずかったかと不安になりましたが、メンバーがスタッフに尋ねたところ、店を間違えた、とのこと。ライブ開始直後に店を出られたそうです。お友達と待ち合わせか何かで来た店で、いきなり激しいジャズが流れたらビビりますよね。
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後に見えるのがお店の備品
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