ソリッド・ステイト・ロジックと聞いて思うことを少し

今日も一日、自宅外での仕事をしており、掘り下げられるネタは見つけておりませんので、ここでは日記同様、川の流れのように頭に浮かぶことを記述するのみでございます。とはいえ、タイトルを先に考え、それについて思いを巡らせることから始めています。昨日のエントリにて、Hyper Luminalという名のコンプレッサーペダルに搭載されるBUSモードが示唆するSSLのバスコンプに関連して、何か書いていければと思います。

ニーブさんはニーブの創始者ですが、SSLの創始者がどなたなのか、私は存じておりません。もしかして、というところでジョージ・マッセンバーグという名前が頭をよぎりましたが、軽く調べたところ全然違っていました。ジョージのこともいずれ書きたいと思いますが、一旦この名を忘れることにします(ちなみにパラメトリック・イコライザーの基本回路を作った人らしいです。私はどちらかと言えば機材も作るミキサー/プロデューサーというイメージでした。彼の手がけた音楽をどなたも沢山聴かれていることと思います)。

さてSSLですが、印象に残るのはオートメーションの卓(ミキシング・コンソール、略してミキサー)で、そのムービング・フェーダーに、実機を目にして度肝を抜かれました。SSLはもうすでに見知っていたものの、それよりはいくらか後の時代、録音媒体がデジタルに変わりながらも、たしかまだソニー製の幅広オープンリールテープに記録されていた頃かと思います。プロツールスよりも昔のことですね。磁気テープを走らせていたとは、今から見れば原始時代です。

ミキシングは、チャンネル個別の入出力から外部エフェクト、今で言うアウトボードにアサインされ、それら機材のセッティングの按配とともに、メイン卓でのフェーダーの動作はエンジニアの指先の感覚に委ねられ、かつ時系列のフィジカルな変化まで人力で発生させる必要がありました。まさに職人芸、鋭敏な聴力だけでなく手許の繊細な器用さも要求され、こうして作られる「ミックス」は、厳密に言えば一回性のものであり、時を置いてやり直して同じ結果は得られません。

コンピューターベースの製作環境が行き渡った今の世において、ミキシングのオートメーションは、ペンツールで動作線を書き込むことでいくらでも複雑な操作を創出できますが、SSLは、物理的に卓の操作をメモリー可能で、ある瞬間でのバランス設定を記憶するに止まらず、時系列の変化までも再現させることを可能としました。

私が「見て」感激したのは、エンジニアが操作したフェーダーの動きが、スイッチ一つで再現され、音量が変化するだけでなく、フェーダーが動いたからです。ムービング・フェーダーもDTMではデジタル・ミキサーやフィジカル・コントローラに搭載されて、商品としてはすでに常識になったとは思いますが、まだ見たことのない方なら、それすらも凄いと感じるはずです。

というような、ミキシング・コンソールの世界的なリーディングカンパニーとして君臨したSSLもまた英国の企業であることに驚きを隠せません。それはさておき。

音楽製作、もちろん映像製作もですが、の現場に要求される様々な夢の機能を実装する高い技術を擁するSSLの、またひとつの名物がバスコンプであったわけですが、私自身、明示的にそれを耳にして理解しているということは、恥ずかしながらありません。バスコンプが、エンジニアには常識的なツールであっても、卓は見ても触れていない私ごときに、音楽的な使い勝手などわかるはずもありません。名前だけが一人歩きした「伝説」になっていました。

Hyper Luminalの登場で思い出された「バスコンプ」を検索したところ、SSLのSixというコンシューマー向けミキサー卓と出会うことになります。優れたマイクプリ、EQ、そしてバスコンプを搭載しており、ユーザーからの評価もとても高く、たくさんの動画で音質の素晴らしさを確認することができます。それで何をしたいかは内緒ですが、私の欲しいものリストの、結構上の方に位置しています(まぁ買わないですけどね…)。

その後、Warm Audio社(おそらく米国です)が、その名も"Bus-Comp"という製品を2020NAMMで発表しているのを知ります。なんとタイムリー。

これは1Uのラック機材ですがステレオ入出力で、コンプレッサー定番のパラメータノブが並び、VUメーターでリダクションを監視できるクラシックな外観をしています。サイドチェインなども備えていますが、まぁダッカーにするくらいの使い方ですかね。私にはあまり関係ありません。で、その横に「トランス・エンゲージ」のスイッチボタンがあるのです!

標準搭載されたシネ・マグ製のトランスに出力信号を通すことができます。シネ・マグのトランスは、むろん仕様は違うでしょうが、Jule AmpsのMoniqueというベース用プリアンプに搭載されていて使ったことがあります。あのプリアンプもめちゃくちゃ音良かったです。事情があって手放しましたが、本当に最高です。といった記憶も鮮明ですからWarm Audioのコンプも出音に期待せずにはいられませんね。「トランス入りを買っておけ」が今年の標語でしたし。

Warm Audio Bus-compは8万円を超えるくらいの価格です。SSL sixは本家本元ではありますが18万円くらい。明確に必要ではなければちょっと買えない。マイクプリとして考えれば安いとも言えますが、デスクトップでの専有面積は決して小さくなく、少々やっかいな存在になりそう。コンプ機能だけならWarm Audioで十分役立つのではないか、などなど妄想は膨らむばかりです。

でもHyper Luminal、ちゃんと使いましょうね。全てはそれからです。





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