
引っ越し祝いに3Dプリンター(Original Prusa MINI+)を入手した / #生活治具 の話
3Dプリンターを買ってもらった
僕が引っ越しをするたびに大きなものを送りつけてくることを趣味とする人たちがいる。
その筆頭は今働いている会社の代表取締役なのだが、前回の引っ越しに際してはお金を出し合って8万円する身の丈1mほどのエジプトの神様の像(ホルス神)を送りつけてきたのでそれをしゃべる目覚まし時計に改造したという過去がある。そんなことはどうでもいい。俺は早く3Dプリンターの話をしたいんだ。
そんな彼らが最近僕が引っ越ししたのを嗅ぎつけ、今回は僕が前々から欲しがっていた3Dプリンターを買ってくれる、という願ってもみない運びとなった。大いなる力には大いなる責任が伴うというが、彼らも他人に大いなるものを送りつける際の責任について理解してくれたということだろう。感謝してもし尽くせない。
(というか3Dプリントの会社で5年働いてるのに家に3Dプリンターがなかったのもどうなんだという話だが)

赤ん坊の誕生とほぼ同時に3Dプリンターがやってきたのであんまりそれどころじゃなかったんだけど、合間合間でなんとか設置を終えて落ち着いたところで、橋本麦さんがPrusa i3 MK3S+を買った記事を読んで俺もなんか書かねばと思ってやったことを書いてみる。
Original Prusa MINI+ 半組み立て済みモデル
機種の選定はこちらでさせてもらった。Original Prusa MINI+の半組み立て済みモデルにした。

Prusaの3Dプリンターにはバラバラのパーツと分厚い組み立て説明書が送られてくるキットバージョンと、おおよそ組み立てられたパーツが送られてきてあとは各パーツを接合するだけという半組み立て済みバージョンがある。
前者の方は50ドルほど安くて、プリンターの仕組みを組み立てながら学ぶことができるというメリットがあるが、今回は後者の半組み立て済みバージョンを選んだ。
仕組みを理解しながら作る体験ができるというのは魅力的ではあったが、工作が得意な友人の鉄塔さんが数日がかりで組み立てたという話を聞いて、今の僕の経験のなさと可処分時間だと組み立て終わる前に部屋の隅に放置されて永久にそのままになる可能性が高いと判断したからだ。それだけは本当に避けたい。よしんば完成させられたとして、Prusa Researchのエキスパートたちが組み立てるのと素人の僕が組み立てるのでは抗えない精度の差が出ることだろう。僕がやりたいのは3Dプリンターで作ることであって3Dプリンターを作ることではない。そう割り切って半組み立て済みモデルにした。

これが本当に嬉しい
結果的に、半組み立て済みモデルでも完成させるまで3時間ぐらいかかったのでこっちにして本当に良かった。半組み立て済みモデルでもマニュアルは41ステップにわたって非常に丁寧に書かれていいて、非常に丁寧に書かないとおそらく失敗するぐらいには複雑な作業を求められるし、長ーいボルトでパーツ同士くっつけるのとか、蓋開けてワイヤー繋ぐところとか、心臓外科手術かと思うくらい大変だった。

最近のFDMはかなり進化している、という話はよく聞いていた。
数年前から会社にあったデスクトップ型のFDMを使ってバーチャルろくろの器を作ったりはしていたのだが、あまりのトラブルの多さに安定して正しく3Dプリントすること自体がチャレンジングな課題となっていた。(その時の機種選びもまずかったのかもしれないが…)
噂には聞いていたが数年前からは考えられないほど安定性と造形精度が高く、最初のキャリブレーション前後を除いては特にトラブルらしいトラブルも起こっていない。今ならファーストレイヤーが印刷される前にその場を離れても問題ないレベルになっている。(おすすめしません)
スライサーは純正のPrusaSlicer。昔はSimplify3D使ってたけど無料のこれで十分。Prusaのプリンター用のプリセットとかもあるし、普通に多機能で使いやすいです。
フィラメントは高いけどPrusament使ってる。安いフィラメントで泣かされながら調整するのは飽きたので今のところ文句言わずに金払ってます。バカスカ使う用事ができたら鉄塔さんや麦さんが使ってるOvertureにしてみようかと思っている。
Prusaは本体だけじゃなくてスライサーからフィラメントまで純正品で周辺を固めてくることで、出来るだけ3Dプリントにまつわるトラブルに見舞われないようにするという姿勢が頼もしい。

置くとこ(エンクロージャー)を作る
Prusa MINIは小さいので机の端に置くこともできるが、造形中ずっと目と鼻の先で作動音が鳴ってるのもしんどいし(昔のプリンターに比べるとかなり静音化されてるとはいえ)、ホコリや気温変化は造形品質を下げるし、フィラメントやツールでそれなりにごちゃごちゃするので、専用の3Dプリンター置き場があった方がいい。なにより、あると要塞っぽくてテンションが上がる。

3Dプリント界隈にはIKEAの机を使って3Dプリンター用のエンクロージャーを作るという文化があるらしく、Prusaのコミュニティにもデータと制作ガイドが上がっていた。(MINIの場合はPrusa i3のために作られたPSUホルダーなどは必要ない。)
僕の場合は子供が生まれてその世話の隙間時間にパーツ造形したり、途中で足りない道具が発覚して買いに行ったりダラダラやってたのでなんやかんやで2、3週間ぐらいかかった。一気に揃えてガッとやれば1日で組み立てられると思う(パーツ造形時間を除く)
必要なものは制作ガイドの記事にも書いてあるがIKEAのサイドテーブルLACKが2台のほか、3Dプリントで作る取り付けパーツの他にもネジやら透明のアクリルパネルやら色々が必要となる。IKEAは全世界共通なのでいいとして、いろんなものをネットで買い集める必要がある。日本在住の僕が買った特筆すべきものは以下。
ネジ: ホームセンターで購入。
M6の50mmとかの、ちょっとデカめのホームセンターじゃないと売ってないやつが必要。近所になければモノタロウでいいと思う。なんか組み立ててたらネジが足りなかったので書いてあるより少し多めに買った方がいいかもサイド・フロントの透明板: モノタロウでPET板を購入
この記事を参考に購入。モノタロウは縦横の寸法を指定して注文できるので助かる。僕の取りつけ方が悪いのかもしれないが、造形データの寸法に余裕があまりなくてキツキツなのだが、アクリルじゃなくてPET板にしたおかげで若干柔軟性があって助かった煙式の火災報知器: モノタロウでけむピーNEOを購入
万が一の火災に備えてエンクロージャーの天井に火災報知器を取り付けるのが推奨されている。名前がかわいい。電池式なので電源がいらないし、ネジ一本で取りつけられる。だがネジで取り付けるのすらめんどくさくてマジックテープで貼り付けた簡易消火器: モノタロウで消棒minyを購入
これも万が一の火災に備えて。発火してもできるだけ水ぶっかけたりせずに済んだ方がいいので、初期消火用に一応近くに置いておくといいかなと。温度計: モノタロウでアウトドア温度計を購入
ガラス窓の外側に貼り付けて部屋の中から外の気温を見るための温度計だが、庫内内側に貼り付けて外から温度を見るのに使っている。普通に温度計を中に置けばいいんだけど、中のスペースをできるだけ確保しておきたいのと、こういうのが貼ってある方がかっこいい気がしたので。防振マット: AmazonでWAKI ハイパー防振ゴムマットを購入
安定した机の上で動かしてた時はうるさくなかった気がするんだけど、エンクロージャーの中で動かすと板と共振するのか音が激しくなって夜に迷惑になる気がしたので慌てて購入。プリンターの4つの脚の下に敷くと音が穏やかになった。照明: AmazonでLepro LED テープライトを購入
後述するRaspberry Piでの監視のためには夜間に庫内を明るくする必要がある。ガイド記事にはプリンターから電源を供給するような上級編も書いてあったが、めんどくさいので普通にUSB給電のやつを買って貼り付けてコンセントに繋いだ。リモコン操作で夜にぼんやり光ってかっこいいため一気にテンションが上がるほか、カラフルに光らせてバカの3Dプリンターにすることができる。
ゲーミング3Dプリンター化に成功した pic.twitter.com/NAQZdbeUQo
— あずま (@sngazm) February 9, 2022

その他、ガイド記事にも書いてあるけど穴を開けるためのドリルやらドライバーやらボンドやらが必要になる。
Raspberry Piでリモート造形
デフォルトだとスライサーで書き出したgcodeをプリンターに送るための手段はその都度USBメモリスティックに書き込んで本体のUSB端子に差し込む方法だけで、何度も調整して試行錯誤しながら造形するにあたってこの手間がもうめちゃめちゃめんどくさい。
それをなんとかするためのOctoPrintというプリンターのWebインターフェイス兼コントローラーみたいなソフトウェアがあって、Raspberry PiをOctoPrint専用機に変えるOctoPiというディストリビューションが配布されている。これはほぼ必須と言っていいほど便利なので入れる。本当にありがとうございます。
今回はどのご家庭にも1台は転がっているRaspberry Pi 3 Model Bを使用した。(2でも確かギリ動くけどwifi機能がついてなくて、wifiドングル買ってきたり最初有線でセットアップしたりしないといけなくて面倒だった気がする)

監視はかっこいい
そしてさらに、1500円ぐらいのラズパイのカメラモジュールを買って接続するとWeb画面から監視できるようになる。別に家で動かしてるんだから歩いて見に行けばいいだろうという向きもあるが、カメラ越しにいつでも見れるということ自体が大事なのだ。監視はかっこいいからな。

どうやって貼り付けるか?それはここまで読んだ君ならわかるはずだ

こんな感じで、割と簡単な初期設定を済ませるだけで自宅ネットワーク経由でどこにいても造形を開始できるようになる。

さらに、スライスした後にOctoPrintの画面を開いてgcodeファイルをドラッグ&ドロップするのさえもめんどくさい!ということで、この辺を参考にOctoPrintのAPIキーをPrusaSlicerに登録すると、スライスしたデータを直接OctoPrintに送り込んでワンボタンで造形開始することができる。人類の怠惰には驚くばかりだ。ありがとうございます。
作ったもの、ちょっと生活治具の話
「3Dプリンターを作りたいんじゃなくて3Dプリンターで作りたいんだ」とさっき言っていたはずだが今のところ3Dプリンターの装備の話しかしてない。ジョセフの兄貴が泣いてしまう。このようについ楽しくなってうっかりすると永遠に3Dプリンター自体のためのやり込みをやってしまうのが3Dプリンターの恐ろしいところだ。僕のようにそこまでやり込み気質でない人間ですらそうなのだから、わざわざ家に3Dプリンターを買おうと思うような人は気をつけた方がいいだろう。多分それだけでも楽しいけど。
my new gear...
— あずま (@sngazm) February 2, 2022
(ドライヤーホルダーを買ったけどうまく掛けられるところが無かったので作ったドライヤーホルダーホルダー) pic.twitter.com/pDWdLSMJH4
my new gear...
— あずま (@sngazm) February 5, 2022
(コーヒーミルとその取っ手をレンジ台横に格納するためのホルダー) pic.twitter.com/xbp3roFizZ
こういう大したことのないものをポロポロ作るのに使っている。生活の中で自分が困ったこと(困っていたことに気づいていなかったこと)を見つけて、どうにかする形を考えて、Fusion360でモデリングして、造形して、試して、モデルを修正して、造形して、試して(繰り返す)、一旦完成として、生活の中で使用してニヤニヤする。3Dプリンターをよく使う人なら誰もがやっているこのちょっとした制作に #生活治具 という名前をつけたところ、じわじわとハッシュタグを使って自分の作った生活治具を投稿してくれる人が増えていて嬉しい。
生活治具には金型による大量生産品のデザインと違ったベクトルの美しさがある。大量生産品が出来るだけ広いユースケースのニーズ、あらゆる設置箇所に適合することを目指してデザインされることに対して、生活治具は「この家のこの場所にしか収まらない」という特化ポイントが狭いところにエモさがある。自分が当事者の、一点ものの問題に対する一点ものの解決だから、ただの汎用性のないプラスチック片にもかかわらずラグジュアリーさを感じる。
あと単純に作ってて楽しい。
汎用性や他のユースケースや他人の使いやすさを無視して完全に自分の用途のためだけの生活治具を作って満足できる3Dプリント、趣味としてもかなり良い気がする
— あずま (@sngazm) February 2, 2022
これはさっきも書いたように3Dプリンターをよく使う人なら多かれ少なかれやっていることなので、体系化されていない無数の積み重ねと作例が既にあるはずなんだけど、ちょうどいいネーミング がなくてまとまってないように感じたので、生活治具という名前をつけさせてもらった。なんなら別に3Dプリンターじゃないとできないことでもないので、針金や厚紙で作るものでも「自分の生活は自分で工夫してよくする」「現状の微妙な不便さに自分を押し込まずによりマシな形を考える」「自分の状況のためだけの形や構造を作って愛する」といったマインドセットが合えば生活治具ということになる。パンクと一緒で生活治具もスタイルではなくアティチュードなのだ。
犬のえさをあげたかどうか忘れないための、朝食前、朝食済、昼食済、夕食済を表す2bitフラグ #生活治具 pic.twitter.com/u0tHBgscAL
— あずま (@sngazm) March 14, 2022
なのでこれも生活治具ということにする。
ほか、生活治具の話は鉄塔さんとやってるポッドキャストImage Castでも話してますのでこの辺で。
Image Cast #71, #79
そのほか買ったもの
あとはもうおまけですがあると便利ツールたち。基本的なものはちまちま後出しで買うのもめんどいのでさっさと揃えておきたい。
プリンターの隅っこに転がった破片を拾ったりするのに。
IPA。定着力が落ちたかなと思ったらビルドプレートを拭いてあげると復活する場合が多い
サポート材のバリ取りとかに。
作りたい場所の長さを測るのに。しばらく巻尺で頑張っていたが絶対さっさと買っといた方がよかった。
はい。マジックテープです。
賃貸の壁に貼るものを作るときとかにあると便利。
#生活治具 pic.twitter.com/HFQfyQfNHF
— あずま (@sngazm) February 18, 2022
こういうのとかに使う。
いいなと思ったら応援しよう!
