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スニーカー解体新書 #1 「ナイキ エア フォース 1 ロー」

身近な存在ながら、その構造があまり知られていないスニーカーを解体・分解してみるスニーカー解体新書。
記念すべき第一回は、ナイキの「エアフォース1ロー」です。

言わずとも知れたナイキの定番ですが、オリジナルは1982年の誕生です。今回の現物は勿論オリジナルではないですが、2002年の製造の復刻版ですので18年も経っているものになります。
一回も履いてないので、ほぼ綺麗な状態で保たれておりますが、内部はどうなっているのか?
外からでは分からないものの、内部で加水分解とエア漏れが発生しているのではという事前予測です。

ちなみに、こちら市販製品ではなく、サンプル品です。(後述のタグで判別できます)貴重なサンプル品なんですが、右のみの片足しかないので今回の解体に選出されました。
どこをどう探しても片足しか見つからないというスニーカーが我が家には何足もあります、、、

タグです。ここで2002年5月17日に作られたサンプル品であることが分かります。実際の市販品は2003年に発売されたものでしょう。
また、このタグ見ると製造は台湾であることが分かります。ナイキの製造は、90年代の終わりに中国及びベトナム、インドネシア等に移っていたイメージがあったのですが、この時期でもまだ台湾製のものがあったことは意外です。
ただ、これはサンプルなのでサンプル品のみを作る専門工場によるものかもしれませんが、詳細は分かりません。

今もそうなのか分かりませんが、インソールに貼られたスペックシールがサンプル品の特徴です。余談ですが、このサンプルスペックシールには、簡単にすぐ剥がせるものと粘着性が強すぎてなかなか綺麗に剥がれないものがあったりしますが、今回は簡単に剥がれるものでした。

サンプルスペックシールを剥がすと、インソールに「LE」ロゴが現れました。「Limited Edition」の略ですが、このロゴが入っていても、日本では普通にインラインで売られるものの場合もあったので微妙なロゴです。今もこのロゴを使っているのか分かりませんが、懐かしいです。

では早速解体作業です。
エアフォース1のアッパーとソールは接着剤とともに縫い込みで結合しています。この接着剤ですが、製造されたばかりのものは剥がすのに往生しますが、時間がだいぶ経ったものは比較的簡単に剥がれます。(10年以上経っているものは、大概手の力だけで剥離できます)
ただ、接着剤を補強するための縫い込みはかなり頑丈です。元々がハードなバスケプレーに対応するための耐久性を発揮させるための仕様ですので、簡単にはほつれない構造になっています。
この縫い込みのピッチをコツコツと解いていきます。

縫い込みをほどいた状態がこんな感じです。一箇所のピッチを切っただけで全ての縫い込みが芋づる式に解けないような仕様となっています。耐久性を考慮すると、この辺の仕様はさすがです。

縫い込みを全てほどき、アッパーとソールを完全に分離した状態がこちらです。
もうお分かりの通り、ソール内部のミッドソールが加水分解しています、、、外からでは分かりませんが、これがポリウレタンを使用したスニーカーの宿命です。

加水分解したミッドソール内部です。
加水分解は、ポリウレタンが空気中の水分に触れて化学反応を起こすことにより起こります。これを避ける手段は現代の科学技術では不可能と言われており、遅かれ早かれ起こります。
ただ、良く勘違いされるように、すべてのスニーカーが絶対に加水分解が起こるという訳ではなく、加水分解が起こるのはポリウレタン素材を使っているものだけです。EVAなどのその他素材が使用されているものでは加水分解が起こらないものもあります。(硬化などの経年劣化はもちろんありますが)
加水分解の存在は良く知られるようになりましたが、全てのスニーカーに起こる現象ではないことも知っておくべきです。

ここからはポリウレタンがボロボロ崩れるので屋外で作業です。ミッドソールの中からエアバッグ(フルレングス・エア)が出てきました。
意外と知られていないのが「カップソール」構造で、これはクッション材であるミッドソールをゴム素材のアウトソールが包み込むという構造なのですが、カップソール構造の場合、加水分解を起こすポリウレタンはミッドソールなので外からは見えず、気付かないことが多いです。(ちなみにカップソールと、結構知られているカップインソールは全く違うものを表す言葉です)

フルレングス・エアバッグとそのかかと部分の下から出てきたシートのようなパーツです。
エアバッグをミッドソールから取り外した時、張りがあったので、「エアバッグが生きている!」と一瞬興奮しましたが、詳しく確認するとやはりエア漏れしていました、、、
ポリウレタンの加水分解同様に、プラスチックパーツの劣化もスニーカーにとって避けられない宿命ですが、これも遅かれ早かれ必ず起こる現象です。内部で起こった場合は気付きにくいですが、外見上何も問題ないのに歩く度に異音がする時はミッドソール内部のエアバッグが劣化損傷している可能性が大です。

フルレングス・エアのかかと部分の下から出てきたシートのようなパーツです。おそらく安定性を出させるためのパーツだと思いますが、こちら、意外にもダンボールのような紙素材でできています。複数層構造になっていますが、その層ごと指で簡単に裂くことが出来ます。
表面にはラミネートのような加工がしてありますが、このパーツを配置した場合とそうでない場合には、どのような機能的な違いが出るのか気になるところです。

ミッドソールを綺麗に取り除いたアウトソールです。
かかと部分には最も加重が掛かる(特にバスケの場合、かかとを回転軸としたターンの動きもある)ため、補強としてかかと部へ柱及び小部屋のような空間を作るという構造上の工夫が施されていることが分かります。
目に見えない部分でも、いや、目に見えない部分だからこそ手を抜かないというのがナイキの真骨頂かなと思います。エアフォース1はデザイン的にシンプルで長く愛されてきたモデルですが、デザインだけでなく、こういった機能的な努力も長く愛される秘訣なのではと思います。

アウトソールにシートを載せた状態。

その上にさらにエアを載せた状態。実際には、このエアとシートがポリウレタン製のミッドソールに包み込まれます。
「エア」に関して、エアマックスのような外からエアが見える、いわゆるビジブルエアモデルでないとエアが入っていないと勘違いする人がたまにいますが、見えていなくてもエアが内蔵されているものは数多く存在します。
というか、エアの初搭載モデルは78年のエア テイルウインドですが、そのエアの始まり自体が外からは見えない内蔵構造からスタートします。(エアが外から初めて見えるようになったのは87年の初代エア マックスの登場からです)

アウトソールからミッドソールを剥がしている段階で出てきた「5月17日」の文字。タグの製造年月日と一致しています。

最終的な分解パーツです。
左から、インソール、アッパー、アウトソール、エアバッグ、エアバッグ下のシートです。
スニーカーって複雑な作りっぽいですが、構造は至ってシンプルです。ただ、単純ながらも、目に見えない部分に各ブランドの思想が凝縮されやすい傾向があり注目に値すると考えています。

あと、ポリウレタンを使っているスニーカーは、遅かれ早かれ必ず加水分解を起こします。であれば、ガンガン履いた方がいいですし、その方がスニーカーも本望のはずです。
ただ、片足しかないものは如何ともし難いのですが、、、

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