『創世記』② ――世界樹の上で――
第二章 世界樹の実
そのかみ、在って在る神の流した涙は、深く静かな水晶の海となった。
どこまでも広く、果ての在って果てのない、どこまでも深くてどこまでも浅い水晶の海だった。
ある時、水晶の海の只中に一つの芽が生えた。
在って在る神はそれを在るべきこととなし、時の神はそれを見守り、秩序の神はそれを育つべくなした。無の神の眠れる間、その芽はゆっくりと成長し、いと高きところにまで梢の届く巨大な樹となった。
世界を覆う世界の樹は、いと高きところの枝、高きところの枝、低きところの枝、いと低きところの枝の四つの枝があり、それぞれの枝に十の実がなった。
まず時満ちて、いと高き枝の実が熟し、十の実は二つに割れて、二十のものがそこに生じた。その内十のものは白く、十のものは黒いが、いと気高く優れたものであった。至高の神々はこれらをよしとされ、そのいうことに耳を傾けた。
かくして二十のものは、命なき世界の十の事象を司り、見守ることとなった。そして在って在る神はここに総てを二柱の至高の神と二十のものに任せ、虚無の神と同じく深い眠りに就いた。
二十のものは、後に神と呼ばれることになるが、まだこの時は神ではなかった。何故なら、この二十のものを神と呼ぶ者がなかったからである。
次に時于いて、高きところの枝の実が熟した。
いと高き枝より生じた二十のものは、十の実を幹に近いところから順に名前を付けた。
それは幹に近いところから順に“ドラゴン”、“アールヴ”、“ホムス”、“ドヴェルガン”、“コリガン”、“ゾムス”、“シー”、“テルシ-”、“オブスクルシー”、“デモシー”と名づけられた。
やがてそれぞれ十の実は二つに割れて、二十のものがそこに生じた。その内十のものは熱く、十のものは冷めていた。十の熱いものは男と呼ばれ、十の冷めたものは女と呼ばれた。そして高き枝より生じた二十のものは順に枝から離れ、枝の上を歩きはじめた。
二十のものは、これらをまとめて“人”と呼んだ。
次に時于いて、低きところの枝の実が熟した。いと高き枝より生じた二十のものは、十の実を幹に近いところから順に名前を付けた。
それは幹に近いところから順に“小さな虫”、“虫”、“魚”、“蛙”、“蛇”、“蜥蜴”、“鳥”、“獣”、“優しい獣”、“恐ろしい獣”と名づけられた。
やがてそれぞれ十の実は二つに割れて、二十のものがそこに生じた。その内の十のものは熱く、十のものは冷めていた。十の熱いものは牡と呼ばれ、十の冷めたものは牝と呼ばれた。
そして低き枝より生じた二十のものは順に枝から離れ、枝の上を歩きはじめた。
いと高き枝より生じた二十のものは、これらをまとめて“動物”と呼んだ。
最後に時于いて、いと低きところの枝の実が熟した。いと高き枝より生じた二十のものは、十の実を幹に近いところから順に名前を付けようとした。
だが二十のものは、動くこともなく、区別のできない十の実に、名前を付けることができなかった。
やがて二十のものが話し合っているうちに、いと低きところの枝に熟した十の実は、枝から離れて落ちた。しかし、いと低き枝の下には枝はなかった。十の実は世界樹の根元に落ち、そこに十の芽が生じた。
二十のものは、ここで初めて十の芽を“草と木”と名づけ、これらをまとめて“植物”と呼んだ。
……ここまでが、『創世記』第二章です。
この世界の始まりを成す、涙の海から屹立する巨樹。そして四つの階層も、カバラの伝統である”生命の樹”、それに四つの界を踏まえて構築しました。世界樹というと北欧神話のイグドラシルが有名です。主神であり魔術の神でもあったオーディンは、イグドラシルに自分を吊るして犠牲に捧げ、その幹に刻んであったルーン文字を発見したとか。
ある人は言いました。「全ての男女は星である」。御陵はふと思うのです。「全てのひとは樹である」と。
ところで、この『創世記』第二章で、自然神と人類、それに動物と植物が世界樹の枝に実ります。人類は早く生まれた順に書かれてありますが、前半五種は明確なよくある人種ですが、後半五種は結構曖昧で……。特に”ゾムス”などはいわゆる”獣人”をごちゃごちゃに押し込めてありまして。この中には出番がほとんどないのですが、”狼頭人(キュノクス)”、”爬虫人(ディノサウリアン)、”人魚(マーマン)”などが含まれている……。
この十の人種ですが、記載順には意味があります。というのも、それぞれの人種は、その前後の人種とは交配可能とされておりまして。例えばドラゴンであればアールヴと、ホムスであればアールヴとドヴェルガンとなら、子供ができる、と。
実際に異種族同士が結婚して、子供が生まれた事例は白銀時代では珍しくなく。ただし、その夫婦生活が上手くいくかどうかは、その人種の”霊肉度”という値が重要なポイントになります。この”霊肉度”については、また改めて記録しようと思います。
次回は第三章となります。引き続き、御陵の怪しい世界にお付き合い頂けましたら幸甚です。
よろしくお願い致します。