あと100日で
その話を最初に聞いた時、アキオは信じられなかった。
「100日?あと100日で帰れるの?」
そうね、と母、タエコは優し気にほほえんだ。
狭い部屋、プレハブのような薄い壁、隣の建物が迫る1階の窓。
エアコンこそあるが、隣の部屋の室外機も狭い空間に並び、
住環境は良いとは言えない。
だが、賃料は安い部屋だった。
この部屋に移り住んで1か月が過ぎていた。
アキオは小学4年生だが、新学期から学校には行っていない。
その前に、住みなれた田舎を離れたからだ。
新しい学校はすでにリモート授業に切り替わっていて、
急な転校生のアキオには、ネット環境が整えられなかった。
仕方なく、ドリルなどで自習をしている。
「夏休み前には家に帰れるんだね!
またみんなと遊べるんだ!うわーい!」
ぴょんぴょんと全身ではしゃぐアキオを見ながら、
タエコは優し気に、ちょっと困ったように微笑んだ。
夫が感染したとわかった時。
近所の人がどんな態度だったか。
長年付き合いのあった親戚が、毎日買い物に行く商店のおかみが、
息子の同級生の親が、学校の先生が。
まさか石を投げてくるとは。
挨拶すら無視するとは。
出て行けと言わんばかりの張り紙をするとは。
疫病が収まれば地域の住人の態度も落ち着くだろう。
だが、だからと言って、石を投げられた記憶を消すことはできない。
あと100日。
https://note.com/shiiramaki/n/nef0ae57917ea
#あと100日で新型コロナウイルスは終わります
に参加してみました。
おっと、明るい未来の話を募集でしたね。。まぁいいか。