【開催報告】11/30(月)「スナックひとみvol.006」映像ディレクター・松平直之さん
さて。2020年11月30日の「スナックひとみ」のゲストは、映像ディレクターの松平直之さんでした。
広告とミュージックビデオで培ったアングルの的確さと
ノリの良さを活かし、ドキュメンタリーへと舵を切る。
流れゆく旬な消費を表現するだけではなく、
息の長い学びや発見につなげる「場をつくる映像」と、
地域の風土や人の魅力を引き出し、その記憶や感情を共有する
「民芸品のような映像」を目指している。
土地と繋がり、人々の暮らしと街の魅力を美しい映像として閉じ込め、観る人に息遣いを感じさせる魔法のような技を使う松平さん。ご本人はいたって落ち着いたトーンの語り口の方でした。そんな松平さんの魅力が感じられる素敵な夜になりました。ポルトガルの小さな漁村の美しい映像も上映されました。
1. 広告・ミュージックビデオからドキュメンタリーの世界へ
映像の仕事を始めて20年ほど。最初の15年は広告など「旬」なものを扱う仕事を経験してきた松平さん。その後、あるきっかけから地域プロモーション動画を撮ることとなり、仕事で動画を作成したことがきっかけで人口7千人の漁港の町である神奈川県真鶴町との縁ができ、2年半ほど前にご家族と一緒に移住したそうです。今は、小さな地域での暮らし方や地域ならではのものを映像の中で表現していく仕事で日本各地に行きPR映像や観光映像を撮っています。
以前は広告の世界でファッション関係の仕事をしてきたものの、徐々にサイクルのゆっくりした「残っていく」映像を作りたいと思い始めた松平さん。「消費のためではなく、何かを伝えたり学んだりする映像を作りたいと思った」そしてドキュメンタリーの世界へとシフトしていきました。
ドキュメンタリーは、広く多様な分野でいろんな地域の人の暮らしを撮っていくもの。作成した映像は、YouTubeにアップして自治体のオフィシャルチャンネルに載せるだけでなく、拡散されていくように工夫をしているとのこと。「映画などでない限り、半分以上の人はスマホで見ている。スマホだと画面も小さく細かい情報が伝わりません。なので、それを前提に画像を作ります」
2. 映像の魅力にとりつかれた大学時代
最初にビデオカメラを手にしたのは大学三年のときのゼミの研修だったという松平さん。「ゼミの恩師が元青年海外協力隊(現JICA海外協力隊)で、その繋がりでフィールドに連れていってもらい日本ではない暮らし方を教えてくれました」
たまたま映像班としてカメラを使って撮影・編集して発表したときに、映像がとても面白いと感じたそう。「自分が見たものを記録として切り取る。ひとに伝えるためには編集する。編集する段階で撮っている時には気づかない冷静になった頭で見ると新しい気づきがある。組み合わせてひとつの作品をつくったときに、映像だと結晶化した自分たちの考えたことというのはどんな時にも同じテンション・同じ状態で集まってくれた大勢に見せられるということがすごいと思った」松平さん、もともとはドキュメントを撮る魅力にとりつかれたことが始まりだったようです。
ドキュメンタリーにはいい面も悪い面もあります。物事をありのままに撮ろうとするために映像作品としては地味だったり単調だったり。「当時は、若くて、もっと引きのあるものを入れなくてはいけないと思っていました。映像のことを自分の中に引き出しとして入れなくてはとミュージックビデオをやり始めました」
「当時、画期的な小型のカメラが出た時期。VX1000という中古カメラを12万円(12回ローン)で買いました。ずっと持っていて、何を撮るわけでもなく周りの友達を撮っていた」
3. 相手の信頼を得てドキュメンタリーを撮る
ドキュメンタリーを撮るときにどうやって人の相手の信頼を得るのでしょうか。「カメラは暴力的な機械でもある。映像はどうしても残ってしまう。でもなくなってしまったものを蘇らせることができる。本来は優しいものだが、ずかずかと入っていくこともできてしまう」まずは、はじめての人と同じようにいきなりカメラを持っても心開いてくれません。自分の話をして、いつかみんなを撮りたいと伝え少しずつ関係を築いていくのだそうです。
「例えば、NHKの世界ふれあい町歩き。世界中の国の路地裏やマーケットなど日常の道をカメラが人間目線で歩いていく。なぜか不思議と街の人は怪訝な顔をしない。とても自然にカメラを見ていることに驚きました」その後、あるコラムでクルーは一週間前に現地に入り毎日同じ時間に同じ道を歩くらしいことを知った松平さん。そうして十分馴染んでからカメラを入れて、さらにカメラも何度も馴染ませてから撮影するのだそう。そのことにはっとさせられ、それ以来これを大切にしているとのことでした。
「人とのことには時間が比例します。かけた時間だけ増えていく。その人達と一緒に作っていく気持ち。僕が作ったではなく僕らで作ったという気持ちになれることが楽しい」
4. 導かれるようにポルトガルの小さな漁村へ
松平さんの代表的な作品のひとつは本当に魅力的なポルトガルの漁村の映像です。
「当初、都会に憧れて東京に住み消費を刺激するCMなどを作っていた自分があるきっかけで生き方を変えようかなと思い港町に移り住んだ。そこで色々考えたことを表現するためにポルトガルに行ってこの作品を作りました」
日常は見方を変えるとドラマチックなものです。この映像は「町の人格と人の振る舞いに光を当てる」をテーマにしているとのこと。ここ数年増えている地域プロモーションの仕事で、風土によって街や人の性質に違いがあるなと気づいたという松平さん。
「町や人の性質の違いに気づきました。神秘的な場所は芸術家肌な人がいて、保守的な場所には現状を打破したい若者が頑張っていたり、水に恵まれた平野部には先進的な農家がいたり。神戸市西区などはそうですが、開墾するため池のある場所は皆で一気に団結するためのお祭りが残っています。伝承文化が残る場所では、幼い子どもの記憶は豊かだったりする」こういうものこそが豊かだなと感じたとのこと。
自分が子どもの頃、様々なものが分断されていたことを振り返る松平さん。「「仕事と家庭」「サラリーマンの夫と専業主婦の妻」「地方と都会」など経済・効率至上主義を貫くために国を挙げて様々なものを分断し続けてきた。典型的な小学生だった僕の絵日記はほとんど一人きりの自分が描かれています」大人になってこの日記を見て、「貧しい」と感じたそうです。
引っ越す度に関係が希薄になっていった子ども時代。特にそれを特別と思わずに暮らしていた。だが、地方の魅力的な暮らしをみることで、都会を離れても豊かに快適に暮らせるのではないかと思ったそうです。「観光地をモデルと旅する仕事が増えたが、地元の人に根ざしていなかった。本当にとりたいものが別にあると思った」そのような経緯もあって東京から真鶴に暮らしを移しどういう暮らしができるかという実験を開始したそうです。
5. 「風土に影響された人の営みが、その町の振る舞いを作り町の人格を形作る」
「風土に影響された人の営みがその町の振る舞いを作り、町の人格を形作る。ということを感じるようになりました」
「風土と人の関係をすくい撮った映像」を作りたい。そんな時に真鶴に住んでいる知人から誘いがあってポルトガルへ。
「ART & TUR International Tourism Film Festivalという映画祭で、各国から集った映像チームを一週間滞在させて映像を作らせる企画でした」これが願ってもいない、仕事ではないけれどクライアントワークではなく一から作品として残せる絶好の機会と感じた松平さん。
短期でも2ヶ月くらいかかる動画撮影を一週間以内で作るというイベント。3ヶ月前くらいからポルトガルのことを勉強したそうです。撮るべき町は「リスボン県」にあるトレス・ヴェドラス市という人口8万人の町でした。
大都市は人格が見えません。確実に自分の能力が出せる。なるべく小さく、歩いて回れる一次生産者が元気な場所を探すため、自分の町のような漁港をGoogle Earthで海岸線を見たそうです。「他のチームは中心地でとっていたが、自分だけ撮りたい場所を探させてもらいました」
「20年ぶりにリスボンで和食レストラン経営している友人に連絡をとって、海岸線を探してもらいました。そして、かなり小さなところだったがいい雰囲気の港が。改めて海岸線を見ていくとたしかに漁船が見えた。コンクリートで固めてない岸壁なので、腕がよくないと使いこなせない。つまり腕利き漁師がいる証拠だと思った。町の様子も生き生きして素敵だと思った」そして、「ここで暮らすように撮影してみたい」といざ撮影の旅へ。
トレス・ヴェドラス市アセンタ村は人口700人。真鶴の10分の1です。「風土に育まれた人の振る舞いが、その町の人格を作る。その人格と自分自身が対峙することが旅の醍醐味」それこそがPRというものでありこの村のコンテンツになるのだろうなと感じているとのこと。「そういう映像をこれからも作っていきたい」
(松平直之:ASSENTA制作ノートより)
「上映会当日、漁村から市の中心部にお世話になった人が駆けつけてくれた様子を見て、小学校のときのひとりぼっちの絵日記との大きな違いに感慨深いものがありました」
「日常こそ美しい」という大切なキーワードをくれた松平さん。この映画祭でお帰国後も、いくつかの賞を受賞したそうです。
6. 「私の村は世界の鏡」
アセンタの映像の冒頭に出てくる「私の村は世界の鏡」という印象的な言葉について、その背景を教えていただきました。「世界中に同じような暮らしがいっぱいある。その人たちと本当は繋がっている。このことが一番小さな生活に密着した映像から伝わる」
この台詞を言ったひとは村への「愛着」と「誇り」を持っているひと。小さい町だから、田舎だからと萎縮して「コンプレックス」を持ってしまう人が日本には多いのではと重要な指摘をしてくださいました。「そういうことが彼は一切ない。自分の小さい町を美しいと思い仲間たちと住んでいる。ひがみのない心の状態」そのような感情を映像の中に引き出すところが松平さんの腕の見せ所なのかもしれません。
ところで「町の人格」とはどういうことでしょうか。
「会社の「人格」と同じように「町らしい」こと。例えば「真鶴町」なら「真鶴さん」という人格。一人一人違うけれど「振る舞い」として現れてくる。そして自分もひとりの「真鶴さん」になり、東京にいた頃と違うと感じています。暮らし方に現れてくるんです」
そんな松平さんに、今後やりたいことは何ですかと訊いてみました。
「地域を回っているとよく民芸品がありますが、今、民芸品は作り手が少ない。もともとは住んでいる人が身近な素材を使って作り日常的に使っていたもの。洗練され、その土地にしかない植物や土などでつくっているから民芸です。真鶴だけでなく、これから出会う町・地域のひとたちと土地のものだけで作りが得られる「民芸的な映像」を作っていきたいなと思っている」
何度観ても味わいのある松平さんの作られる映像たち。これからの民芸品のような人々の営みを凝縮した映像がとても楽しみになりました。
「スナックひとみ~世界とつながるひととき」
スナックひとみは開発コンサルタントが
異業種の方をゲストにお迎えするオンラインスナックです
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「スナックひとみ」次回のゲストはこの方です。
どなたでもお気軽にお越しください♪
■日時
11月30日(月)20:00~21:30ごろ
■会場
Zoomにて実施
(前半のゲストのトーク部分はFacebookページで同時ライブ配信も行います)
■ゲスト
松平直之さん(映像ディレクター)
===ゲストご紹介===
2004年DENBAK-FANO DESIGN設立。
広告とミュージックビデオで培ったアングルの的確さと
ノリの良さを活かし、ドキュメンタリーへと舵を切る。
流れゆく旬な消費を表現するだけではなく、
息の長い学びや発見につなげる「場をつくる映像」と、
地域の風土や人の魅力を引き出し、その記憶や感情を共有する
「民芸品のような映像」を目指している。
単独でその場に馴染み込み、
人・地域の魅力を当事者自身が物語る演出が得意。
2016年、真鶴町のPR映像制作をきっかけに真鶴町に移住。
ウェブサイト:
https://www.naoyukimatsudaira.com/
「真鶴半島イトナミ美術館」
https://youtu.be/6oIALvWlO_g
===スナックひとみとは===
仕事に勉強に、慌ただしく過ごしがちな現代
ゆっくり誰かのお話を聴くことがどれだけあるでしょうか
世界の文化のこと、知らない国のこと、
社会に貢献する活動のこと、
日本で、海外で起きていること
持続可能な開発目標(SDGs)に貢献することって何だろう
国際協力のお仕事に従事する開発コンサルタントであり、
色んな顔を持つママが、
きらりと光る活動をしている様々なお仕事の方をお招きし、
オンラインスナックでゆるりとトークします
新しい未来を描く
ほっと一息リラックスした時間
世界とつながる、世界が広がる
スナックひとみへいらっしゃい
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スナックひとみのnoteアカウントはこちらです:
https://note.com/snackhitomi
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企画・運営
ECFA サステナビリティ推進チーム