正社員という特権階級~「不条理な会社人生から自由になる方法」を読んだ
橘玲さんの「不条理な会社人生から自由になる方法 働き方2.0 vs 4.0」を読んで考えたことを、脳内関西人の林(仮名)、富田(仮名)の会話形式でお届けします。
林 うすうす気づいてはいたけど、気づかんようにしてきたことってあるやん?それを目の前に突きつけられるのはキツいな。
富田 いきなりやな。何かあったんか?
林 「不条理な会社人生から自由になる方法」っていう本を読んでんけど、その感想や。「あと10年もすれば、サラリーマンは確実に絶滅することになる」ねんて。
富田 ビジネス書にありがちな煽りちゃうん?
林 それがやな、読んだら「確かに」と思わされんねん。SDGsとかいう以前に、日本の会社の雇用システムそのものがサステナブルちゃうねん。
富田 日本の会社の雇用システムいうたら、終身雇用と年功序列か?でも、どっちも崩壊したって言われてへん?
林 年功序列は会社によるやろけど、終身雇用は健在や。日本の労働関係の法律では、会社が従業員を解雇するんは、懲戒解雇とか倒産寸前とか、よっぽどの場合やない限り違法とされてる。会社としては、一旦雇ったら、どんだけ使えん奴でも、経営が苦しくなっても解雇でけへんっていうのはかなりの足枷やで。
富田 せやけど、従業員としてはいきなり解雇されても困るやん。社会全体としては簡単には解雇されへん方が安定してええんちゃうん?
林 一見ええように思うけど、日本の会社もグローバルで戦ってる訳やん?足枷をはめられながら、臨機応変に人員調整できる海外勢と互角に戦うのはしんどいで。それで船ごと沈んだら元も子もない。それに、会社が調子がええときでも、一旦雇ったら定年まで面倒見なあかん思ったら、採用に慎重になってまうっていう悪循環や。
富田 ほんならお前は解雇自由化に賛成なんか?明日から会社来んでええ、言われたらどうすんねん?
林 俺個人の話してんのちゃうねん。会社が足枷はめられながら生き残っていくために、平成の30年間で、非正規で雇われてる人が2割から4割に倍増やで。要するに、非正規は、雇用の調整弁として使われてる。景気ええ時に雇われて、悪なったら雇い止めや。
富田 確かに俺の会社でも派遣の人が増えた印象はあるけど、倍増か。
林 それでな、正社員と非正規雇用の間には、明らかな身分差別があるって、正社員にとっては耳の痛いことをこの本は言うてる。それだけやない。親会社と子会社とか、海外子会社での日本人出向者と現地採用者とか、何層もの身分差別の上に成り立ってるのが日本的雇用システムやって。せやのに、いわゆるリベラル派も、会社の中の身分差別に目をつぶってることに憤ってはる。労働組合が守ってるんも、労働者全体の権利やなくて、正社員の既得権益やって。
富田 「聞いてもうたー」って感じやな。派遣の人とかが雇い止めになるのは、元々そういう契約やねんからしょうがないと思ってたけど。
林 「同一労働同一賃金」の原則が適用されて、非正規っていうだけで正社員との間に不合理な待遇差があるんは、違法になってくる。しばらく時間はかかるやろけど、ジョブ型雇用も広まりつつあるし、会社の中での「身分差別」は無くしていかなアカンという流れは止められへんやろな。
富田 「身分差別」という意識はなかったけど、そういうラベリングがされたら急に流れができるかもな。#MeeTooみたいに。
林 どっかで火ついたら一気やろな。その時に起こるんは、今の非正規の人の待遇を正社員に合わせるんやなくて、正社員の待遇が非正規に近づいていくっていうことになるやろな。定年退職後に再雇用された運送会社の運転手が、同じ仕事してんのに給料2割減らされて「同一労働同一賃金」を求めて訴訟してんけど、裁判所は「2割程度の減給は許容範囲内」って言うてんて。
富田 その判断には違和感ないけど。
林 でもな、裏を返せば、定年直前の正社員は、適正な給与を上回る超過報酬を受け取ってて、その「特権」は定年で期限切れ、ということになるらしい。
富田 身も蓋も無いな。せやけど、入社後3年くらいは給料貰いながら勉強して、20代後半から50代前半くらいは給料以上に働く。ほんで、50代後半は実際の働き以上に貰って終始でトントン、っていうのが一般的なパターンちゃうん?
林 20代後半から50代前半まで、サービス残業も厭わず、会社に言われるまま単身赴任に応じるかっていうたら、終身雇用してもらって最後に退職金満額もらうためや。せやから、終身雇用は「労働者を奴隷化する制度」でもあるって書かれてる。
富田 いわゆる社畜やな。
林 従業員エンゲージメントって知ってる?
富田 知ってるよ。やる気とか働き甲斐とか、そんな感じのアレやろ?うちの会社でも急に調査し始めて、人事部の同期は大変そうやわ。社員のエンゲージメント向上策を立案せぇって言われて、そのせいで、そいつ自身のエンゲージメントはダダ下がりやっていう笑えん話やった。
林 あるあるやな。会社は、人事部に「社員のエンゲージメント上げろ」って言うただけで上がるもんやとでも思ってんのかな。エンゲージメントが低いっていうのは、仕事にネガティブで会社を憎んでるっていうことらしい。
富田 「憎む」は大袈裟な気もするけど、イヤイヤ働いてる人は多いよな。仕事の中身もさることながら、職場の人間関係とかもあって。
林 人間関係はストレスの最大要因やもんな。日本の雇用システムでは、正社員の地位にしがみつくために、イヤなことがあっても我慢するしかない。その結果、会社がタコツボ化して、日本人のエンゲージメントはどこの調査でも最低レベルや。
富田 人事部の同期が頑張ってどうにかなるもんではなさそうやな。
林 人生の幸福度を上げるためには「イやな奴との仕事を断れる」「人間関係を自分で選べる」ことが大事やねんて。
富田 人間関係を選ぶって、それができたら苦労せんけど、どうしたらええとか言うてんの?
林 結論としては、会社のブランドに依存せずに、自分自身の評判を高めていくことやって。そうしたらフリーエージェントとして生きていけるって。
富田 言うは易しやなぁ。自分自身の評判を高めるって、具体的にどうやんねん。
林 自分の知識や経験をギブしまくることやって。SNSのおかげで、個人を直接評価ができるようになってきた。せやから、仕事頼む人は、企業に頼んでハズレのスタッフに当たるより、評判がいい確実な個人に直接仕事を依頼する流れになってくるって予想されてる。
富田 今ひとつピンとけえへんな。オレは営業やけど、会社の商品が無かったらそもそも売るもんもないし。
林 それでも、お前なりのコツみたいなもんは蓄積されてるはずや。後輩に仕事教える時に言うてるようなことをメタ認知して、スキルとかノウハウに整理していったら、社外にもギブできんのとちゃう?
富田 まぁ確かに、営業は「商品」を売るんやなくて「自分自身」を売るもんやとかいうもんな。サラリーマンでありながら個人として名の知れた人もおるけど、そういう人が増えてくるんかな。
林 そういう流れやと思うで。そうなると、個人として発信することが不可欠になってくると思う。会社からフリーになるのは不安やけど、どちみち定年後はフリーになるしかない。定年という概念もなくなるかもしらんけど。とにかく、会社に居る間もフリーエージェントとして仕事してるっていう意識で、個人としての信用を高めていくことが大事やって。
富田 大変そうやけど、どうせやったら楽しんで時代の流れに乗っていきたいな。
林 せや。あとがきも、「ハックされるな、ハックせよ」で締められてる。
〈おしまい〉