プロサッカークラブのアカデミー選手育成(サッカー選手を育てるという意味での)の目的は本当に「トップチームへの選手輩出」なのか?
近年、育成への重要性が叫ばれるようになり、リーグからも「ホームグロウン制度」「アカデミー評価制度」などの整備が進んでいる。
そして、ほとんどのクラブも「育成型クラブ」などを掲げ「20◯◯年までにトップチームの半数をアカデミー出身者に」などを謳うクラブもある。
※もちろん、育成の目的がサッカー選手を育てることだけではないということは承知の上で、今回は「プロ選手の輩出」に限っての議論とする。
私はここに疑問がある。
ほんとうにアカデミーの目的は「トップチームへの輩出」で「トップチームの半数をアカデミー出身」にすることが「育成型クラブ」の証なのであろうか?
「あと1人で半数を占める」状況でスタメンのアカデミー出身選手に海外クラブからオファーが来た時に「あと1人で目的達成だから行かせない」というのか?
そんな決断は選手のためにはならないと思うが…
「あと1人で達成だけど、そんなのどうでもいいから行ってきな」というのか?
その目的のために頑張ってきた人達はその仕事に誇りを持てないと思うが…
バルサへの憧れ
では育成型として多くの人の頭にパッと浮かぶチームはどのチームか?
たぶん、"あの時のバルサ"でしょうね。
スタメンのほとんどの選手がラ・マシア出身。素晴らしいフットボールを披露して、そして強い。
あのバルサの出現を機に「ポゼッション」「一貫指導」「育成型」が一気に表に出てきた気がします。
そして日本サッカー界が最も成長していた時期がちょうどその頃だったのでは!?と思っています。
そんなこんなで、やはりあのバルサの影が濃いのではないでしょうか?
が、しかし冷静に考えなくてはいけないと思っています。
あのバルサは目指せるのか?
あのバルサを目指していいのか?
あのバルサを目指してはいけない
結論です。
そう目指してはいけません。
そもそも目指しても到達できません。
それは当のバルサが証明してくれています。
そう、今もあのバルサをバルサ自身が再現できていないのです。
「奇跡」であったことは間違い無いでしょう。
そうではないというのであれば、なぜバルサは再現できないのでしょうか?
だから「奇跡」を目指してはいけないのです。
バルサに限らずアカデミー出身者で大半を占めて結果を出すクラブを他に見たことが私の記憶にはありません。
前提が違いすぎる
日本サッカーとスペインサッカーはどんな立ち位置にいるでしょう?
Jリーグで優勝することとラリーガで優勝することの意味は同じですか?違いますか?
この2つの質問の答えはこの「育成」について重要な意味があると思っています。
日本サッカーは世界的にみて「挑戦する」立ち位置にあると思います。
一方、スペインサッカーは「挑戦を受ける」立ち位置にいると思います。
そしてJリーグの優勝は「通過点」であるのに対してラリーガでの優勝は「頂点に近い」のではないのでしょうか?
最近、育成年代の選手と話しているとこれは顕著です。Jリーグを通過点と見ている選手がほとんどです。
これは競技面で見ても明らかですね。
世界の頂点に立つことを考えた時、Jリーグで優勝しても仕方がないのです。
世界の頂点に立つためにJリーグを優勝する必要はありませんが、ラリーガなどの5大リーグで優勝を目指す必要はあると思います。
ここでバルサに戻りますが
バルサにおいて「スタメンのほとんどがアカデミー出身」であることと
Jクラブで「スタメンのほとんどがアカデミー出身」であることの意味は同じでしょうか?
私はJクラブでアカデミー出身者がスタメンのほとんどを占めたチームを見ても「成功したな」とは思いません。
なぜならば、それは「サッカー」における勝利からは程遠いからです。
そして思います。
「Jリーグレベルの選手なのかな…」と。
一方で当時のバルサを見た時には「このクラブは成功した」と思いましたし「サッカー界のチャンピオンだな」とも思ったし「世界レベルの選手を育成したな」とも思いました。
つまり、「選手」にとっても「クラブ」にとっても本当の意味での成功は「世界」に近づくことになっているのではないでしょうか?
ということは「クラブのスタメンの半数をアカデミー出身者」とすることを育成の「目的」とすることに何の意味があるのでしょうか?
それよりもどんどん海外に出して、むしろ「クラブから20歳までに移籍して海外で活躍する」ことの方が魅力があるのではないでしょうか?
そうなってくると半数を占めることは難しいですよね。
育成は投資である
育成とは投資です。
投資は先々の回収のためにするものです。
じゃあどうやって回収するの?
リーグ優勝ですか?
スポンサーですか?
ファンですか?
もちろん、一概には言えませんがこれらのものでは回収するのは難しいと思います。
育てた選手が自クラブで
「活躍して優勝、スポンサー獲得、ファンを獲得」したところで回収は難しいと思います。
現行制度で回収するとしたら「海外移籍」が唯一の道だと思います。
国内移籍は移籍金がまだまだ低いです。
そして、移籍に伴う補償金などが発生しません。
冨安選手が海外で移籍を繰り返すたびにアビスパ福岡は直接関係がなくてもお金が入ってきます。
日本だとほぼほぼ入りません。
つまりビジネス的観点からみると
「自クラブでアカデミー出身選手が活躍する」ことにはほぼほぼ意味がありません。
あるとしたら高卒から数年間の年俸が安く済む!ということでしょうが、価値のある選手の年俸は高くなります。
低いということは価値も低いということでしょう。価値が低い選手を輩出することは育成にとってどうなのでしょう?
この「育成とは投資である」という考え方からもアカデミーの目的は「トップチームへの輩出」で「トップチームの半数をアカデミー出身」にすることが「育成型クラブ」の証。ということには疑問が湧きます。
時代
少し重なる部分もあるが時代の変化もあります。いつの間にやら子供達の憧れの選手は「中村俊輔」から「ケビンデブライネ」になっている時代です。
今からプロを目指すアカデミー生に「キミたちアカデミー生はこのクラブの顔になってくれ。そして半数以上をアカデミー生で占めて結果を出すのだ!」と言ったところで
ん??
と思う選手がほとんどだと思います。
今の選手は「国内でどうこう」ではなく「海外でどうこう」を考えています。
よくよく聞いてみてください。
入団会見で「海外で活躍したい」という選手がほとんどではないでしょうか?
今や選手の目指す場所は「世界」になっているのです。
現実
では「トップチームの半数をアカデミー出身者」にすることを現実的に考えてみましょう。
平均を調べたことがないのでわかりませんが、トップチームに昇格する選手はだいたい年に1〜2人でしょう。
まずスタメンの半分をアカデミー出身者にするとなると最低5年はかかります。
まあそんな上手くいくわけはなく7〜8年かかるかもしれません。
その時1番年長の選手は24〜27歳となります。
トップチームの半数を…となると12〜14人くらいがアカデミー出身者としてこれも7年〜18年くらいでしょうか?
そうなると年長の人は26〜37歳。
サッカー選手の平均引退年齢は26歳くらい?
これって現実的ですかね?
誰もその途中移籍しないってことですか?
具体的なプロセスを計画できますか?
たぶんほぼ不可能だと思います。
理想はいくらでも言えますが。
またここで私たちの立ち位置に戻りますが
Jリーグは世界最高峰リーグではありません。
価値のある選手は海外に行きます。
アカデミーは価値のある選手を輩出するのではないですか?
Jに残ること=価値がないとはいいません。
ただ、最高の価値を生み出すのは世界の最高峰に近づいた選手ではないでしょうか?
じゃあトップチームに行くことに意味はないの?
じゃあトップチームの半数を占めることに意味はないのか?
そんなことはないと思います。
ファンは愛着を持つだろうし、クラブのアイデンティティーを紡いでいく存在としてとても大切だと思います。
ただし、それは「目的」ではなく
あくまでも「通過点」ではないでしょうか?
目指すべきところはそこではないが
そこは最終目的地に向けてのチェックポイントであり、そしてそんなキャリアを歩む選手がいてもいいよね。というくらいのものではないでしょうか?
たぶん、世界に選手をバンバン出してるクラブは経済的に潤って施設などが充実し、強化費が増えていい選手がきたり、より投資に回せたり…でいつの間にかどんどんトップに輩出するサイクルを回せてた!となるのではないですかね?
結論
サッカークラブの育成が掲げるべきゴールは「トップチームの半数を…」など安易に設定するべきではないと思います。
それはほんとに現実に即してますか?
それによって投資は回収できますか?
選手たちの目線と合ってますか?
我々の立ち位置に合ってますか?
私は安易に設定されるトップチームの在籍割合のような目標は意味がないと思っています。
地方のクラブで「うちはお金がないからアカデミー出身の優秀な選手は引き抜かれてしまう」と嘆いているクラブが「ならば育成型クラブとしてトップチームの半数をアカデミー出身者にする!」を見たことがありますが、それを嘆いているにも関わらず、それを掲げることがおかしいのです。
だったらあなた方がすることは
「育成で良い選手を育てて、トップチームで成長させて売る→利益を再投資して徐々にクラブの規模を拡大していく。育てて売るサイクルを回し続けて将来的に確固たる地位を築く。」ことではないか?
お金がないならお金を生み出して
投資してまた稼ぐんです。
全くまとまりのない文章で申し訳ないですが
私が言いたいことは
「夢物語と目標は分けて考えましょう。本気で考えましょう。投資は回収までがセットです。」の3本です。
私たちが考えているよりも世界は先に進んでいる。