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諸外国の「ものづくり」の状況とトレンド②

スマートマニュファクチャリングサミット事務局です。
前回の「諸外国の「ものづくり」の状況とトレンド①」にて、「インダストリー4.0」を取り巻く各国の動きをお伝えさせて頂きました。

今回は、続編として各国で進む「インダストリー4.0」への対応が加速する「5つの理由」をお伝えさせて頂きます。

■インダストリー4.0が加速する5つの理由

製造現場の効率化や新たな技術の導入は、常に企業の主要な関心事であったにもかかわらず、なぜ、いま「インダストリー4.0」のような製造業における大転換が求められているのかを理解するためには、

- チャイナリスクの増大、対中投資は減少
- コロナで促進されたサプライチェーンの分断
- ウクライナ紛争で進んだ資源価格高騰と円安
- IoT、DX、AIなどの技術的要因
- グローバル規模で進むカーボンニュートラル(脱炭素)の動き

以上5つの外部経済による理由を把握しておく必要があります。
下記では、各々の詳細について説明させて頂きます。

1)チャイナリスクの増大、対中投資は減少、習近平体制で3つのリスクが顕在化

1992年、鄧小平の南巡講話をきっかけに、中国が外国企業を誘致する動きが強まりました。

- 人口14億人超の中国の巨大市場の需要獲得
- 人件費・材料費などの安さ
 
これらの理由を背景に、外資による工場の建設が活発化し、2010年の初頭まで諸外国による対中投資が増加傾向にありました。

しかし、諸外国による対中投資は、2013年以降、減少に転じます。
中国国家外貨管理局によると、2023年4~6月期には、統計調査を開始した1998年の水準を初めて下回る金額にまで減少しました。
これには、下記に挙げる3つの顕在化したリスクがあると考えられています。

①:軍事安全保障上のリスク

「中華民族の偉大な復興」をスローガンに掲げる習近平氏は、建国から100年にあたる2049年に、世界最大の大国となることを目標としており、軍事面でも着実に強化を進めています。

特に中国による積極的な海洋進出は、南シナ海や台湾海峡などで、軍事的な緊張を高めてます。米国を中心に欧州諸国も、この懸念を共有しています。

②:ハイテク製品を中心とした経済安全保障問題

中国政府は「中国製造2025」という国家方針の下、次世代情報通信技術、ハイテク工作機械やロボットの技術、航空・宇宙分野の技術などを重点領域として強化を進めています。この過程で、欧米の特許技術の侵害や、ハイテク製造部門を中国に依存することに対するリスクなどが次々と明らかとなってきました。
 
これに対して、米国議会を中心にサプライチェーンの見直しが進んでおり、欧州や日本も基本的に同調姿勢を見せており、2023年5月のG7広島サミットの首脳宣言でも確認されました。

③:人権問題や環境問題の顕在化

中国が安価な生産コストを実現している背景には、中国国内の経済格差だけでなく、ウイグル人権問題などで露見した少数民族の強制労働や環境基準を無視した生産体制などの問題が指摘されています。

民主主義体制下で人権や環境意識の高い欧州や米国は、議会を中心に中国製品の輸入に規制をかける動きが高まってきてもいます。
 
以上3点に加え、習近平体制では、「共同富裕」(貧富の格差を是正して、すべての人が豊かになること)というスローガンの下、社会主義的な経済体制への後退を進めていることも、外国資本が中国からの撤退に拍車をかける要因となっています。

2)コロナで促進されたサプライチェーンの分断

足元の中国の政策に相まって、2019年末に発生した新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、改めて中国を重要なサプライチェーンのネットワークに組み込んでおくことのリスクを顕在化させました。

これまで日本の大手製造業は、
- 労働集約型産業を中心に新興国に生産拠点を開設
- 安価な労働力を用いた生産
上記により利益を確保してきました。

しかし、コロナウイルス危機によって、航空や船舶の荷動きが制限されたことによりサプライチェーンは寸断され、半導体、パソコン、携帯電話、建築資材など、多岐に渡る製品が不足する事態に陥ったことは記憶に新しいと思います。

さらに「ダイナミックゼロコロナ」政策を掲げた中国政府が、強力なロックダウンを繰り返したことで、長期にわたって中国の生産拠点の工場稼働率が下がる事態を招きました。

日本政策金融公庫が2021年8月に実施した「中小企業景況調査」によると、約7割の企業が今後の調達先に不安があると回答をしており、海外サプライチェーンを見直す動きは始まると共に、安価な労働調達コストだけでサプライチェーンを構築することは困難となり、安定的な調達を求めて調達先のリスク分散や生産拠点の国内回帰を模索する動きが始まっています。

3)ウクライナ紛争で進んだ資源価格高騰と円安

世界経済が、コロナ禍からの回復に向けて調整が進む中で起きたのが、2022年2月から始まったロシアによるウクライナ侵攻です。

2021年に各国が実施した金融緩和により需要が回復する中、サプライチェーンの混乱による供給側の制約から、各国の消費者物価が上昇しました。ここに拍車をかけたのが、ウクライナ侵攻であり、ロシアやウクライナが生産に占めるシェアの高い小麦などの穀物価格や原油・天然ガスなどの資源エネルギー価格の高騰です。

2022年7月にWTI原油先物市況は、1バレル100ドルを突破。
その後、低下したものの、2023年8月時点で、1バレル80ドルと、依然として高水準となっています。

また、インフレ指数の先行指標として、注目されているエネルギーや、穀物、金属などの商品市況で構成されているCRB指数も、上昇基調にあり、インフレ警戒感が払拭されていない状況となっています。

さらに、米国がインフレ対策として進める金利引き上げが日米の金利差を大きく広げており、2022年3月から大幅な円安が進行。2022年末に1ドル150円近くまで進んだ円安はいったん落ち着いたものの、今後も円安基調が続いていく可能性が高い状況があります。

このような状況のなか、日本の製造業が輸出を行う上で円安が有利に働くことから、海外サプライチェーンを見直し、国内回帰に向けた取組みも始まりつつあります。

4)IoT、DX、AIなどの技術的要因

ここまでは、製造業の生産体制を見直しを促してきた政治経済的要因を説明してきましたが、一方で「インダストリー4.0」を後押ししている技術的背景にも注目する必要があります。

従来の製造業は、トヨタのカンバン方式に象徴されるように、ジャストインタイムで、ものづくりをすることで、コストを低減させ、完成品を消費者へ届けることで、利益を上げてきました。また、必要最低限の在庫しか持たない日本発の「カンバン方式」もその一つで、諸外国の企業で評価されると共に採用されてきました。

しかし、製造工程で何らかの問題が発生した際に、他の工程への影響が発生し、最悪の場合、工場全体で稼働が止まるというリスクを秘めると共に、販売機会を失う可能性があります。また、適正在庫を維持するために、常に人の目でチェックする必要があり、現場の作業員の負担が大きいという問題があります。

このような課題に対して、IoT(インターネットオブシングス)の進化は、製造現場で使われる各種機器やセンサーをネットワークに接続し、取得したデータをクラウド上で分析しながら、製造工程の監視や故障リスクの予見を可能にしています。

また、製品開発や設計といった開発工程や、サプライチェーン管理、人材管理、在庫管理といったバリューチェーン全体の見直しにも活かすことも可能にしました。

製造業のサプライチェーン見直し、労働人口不足など、製造業が抱える課題に対して、こうした技術は間違いなく変革を後押しする要因になりつつあります。

5)グローバル規模で進むカーボンニュートラル(脱炭素)の動き

脱炭素に向けた取り組みは、1997年の「第3回国連気候変動枠組条約会議(COP3)」で採択された京都議定書から始まっています。COP3では、先進国のみが参加する温暖化ガスの削減目標でしたが、2015年のCOP21で合意された「パリ協定」では、国連気候変動枠組条約に加盟する国・地域は先進国だけにとどまらず、新興国へも広がりを見せ196カ国が参加するようになりました。

パリ協定では、世界の平均気温上昇を「2℃以下に抑えること」が目標とされ、「可能であれば1.5℃以下に抑える努力目標」が設定されました。これに対して、まず欧州が2050年までに温室効果ガス排出ネットゼロ、すなわち脱炭素社会の実現を目指すことを表明し、続いて日本と米国も表明しています。

それと共に、脱炭素社会を目指す上で、産業界の大幅な協力が欠かせない状況になっています。これまで、温室効果ガス排出削減の取組みは「成長の足かせ」になりかねないと見られていましたが、近年では、企業の競争力強化の契機としようという試みが始まっています。

これが「グリーントランスフォーメーション(GX)」です。

GXを進めるための戦略として、2020年10月に通称「グリーン成長戦略」が策定され、その中では14種類の産業に対する具体的な実行計画が示されました。

中でも期待されるイノベーションとして「水素」や「アンモニア」を活用した「ゼロエミッション燃料」や回収したCO2を炭素化合物に変えて資源として再利用する「カーボンリサイクル」などが代表として挙げられます。

また、製造業においては自社の事業だけでなくサプライチェーン全体で排出量を削減していく取り組みにも注目が集まっています。

この代表的な例が、CFP(カーボンフットプリント)です。
CFPでは、原材料調達からリサイクルに至るまでの製品ライフサイクル全体での温室効果ガス排出量を可視化する取組みで、これにより製品の差別化が進み、環境の負荷が低い製品は高い競争力を持つことができるようになります。

これがまさに、サプライチェーンの最適化によって、製品の付加価値を高めていこうという「インダストリー4.0」を活用した取り組みなのです。
(山縣敬子・山縣信一)

今回の投稿で、「インダストリー4.0」への対応が加速する「5つの理由」として、政治経済的要因、技術的要因、そして社会的要因が起因していることをご理解頂けたかと思います。

一方、世界的な流れとして「インダストリー5.0」への動きも加速しています。「インダストリー5.0」は、先に挙げた「5つの理由」でも示されたAI、IoTの活用に加え、

人間中心で環境の変化への対応力のある持続可能な産業への変革

が最大の特徴になります。

その上で、日本の製造業における「インダストリー4.0」の担う役割は、「インダストリー5.0」に向けて、海外と日本の技術的、思考的なギャップを埋めることになります。

このような状況の中、次回は、「インダストリー4.0」への対応が、今後の競争力を占う上でいかに重要かをご説明させて頂きます。

「諸外国の「ものづくり」の状況とトレンド③」に続く

<<Smart Manufacturing Summit by Global Industrie>>

開催期間:2024年3月13日(水)〜15日(金)
開催場所:Aichi Sky Expo(愛知県国際展示場)
主催:GL events Venues
URL:https://sms-gi.com/

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