片隅に
庭隅に
ゴルフボール
枯れ芝の中
父がうちっぱなしにして
いたゴルフボール
父がいなくなって
それは親を亡くした
たまごのようだ
あたためる鳥もなく
ただ茶色く枯れた芝生の巣で
誰かにあたためられることを
願っている
雨の日も
風の日も
雪の日も
わたしは春が来た日
そのたまごを拾ってポケットに入れた
長年あたためる者がいなかったせいか
ひどく冷たい
手のひらで握りしめ
たまごのあった場所をふと見る
いのちのなかった彼のいた
場所ですらも
彼がいた痕跡があった
ちいさなちいさな
芝生に出来たくぼみ
彼がいなくなってずいぶん経つ
だが彼の痕跡があった
庭の片隅に