わたしは風
わたしは風
無力だ
ひとの背を押すこともあるが
自分では自転車ひとつこいでいけない
ペダルがカラカラ回るだけ
わたしは風
無力だ
剥がれそうなトタン屋根を叩くことはあっても
人様の家に吹き込もうとすると
慌てて戸を閉められる
厄介者
わたしは風
無力だ
季節を進める役割を仰せつかわったのに
誰のコートも脱がすこともできず
力なく枝につく葉を散らすだけ
わたしは風
無力だ
雲を遠くに飛ばしても
空は一向に片付かない
ただ風吹き荒れる晩に
ポタージュをやさしく飲む
母子の姿を見ることすらできない
そのポタージュの香りを
かぐことはできても
閉ざされたカーテン
閉ざされた窓
閉ざされた季節
わたしは風