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バレンタインのお返しがパンツのSさん
親密な関係ではない人からパンツを貰うという経験、あるでしょうか?ボトムスを示すパンツではなく、下着の方のパンツです。
しかもその人が、あなたのイメージを膨らませて購入するパンツです。
その一見薄気味悪い行為は、現代ならハラスメントになり得るでしょう。
ところが、その行いが不気味にならず、面白がられ、むしろ楽しみにされるという人がいました。
かつての私の上司、Sさんです。
私はその頃、バレンタインが面倒臭くなり始めていました。当時はバレンタインに上司や同僚にチョコを渡すことが当たり前とされていた風潮が、社会全体にあったように思います。
社内では、業務上関わっている男性にはチョコを用意することが、暗黙のルールになっていました。
内心どうでもいいと思っていた上、ホワイトデーに気を使わせてしまうことも引っかかっていましたが、バレンタインは何もしません!と宣言できるほどの勇気はなく、激しく混んだデパートの催事売場に足を運びグッタリと疲れる、ということを毎年繰り返していました。
それでも、1か月後のホワイトデーには、ひと月前のグッタリを一瞬だけ忘れるお返しがありました。上司Sさんから貰うパンツです。
Sさんのパンツは毎年恒例でした。Sさんは、それぞれの人のイメージでパンツを選んでいるということも皆知っています。
私がSさんから貰うパンツは、華奢なレースがあしらわれている真っ白なものや、白い花の飾りが付いているものが主でした。Sさんは私を何か勘違いし続けていたのでしょう。いつも笑ってしまいました。同僚もそれを笑っていました。
毎年、派手なアニマル柄のパンツを貰い続けている先輩女性は「あー、今年も来たね。生理が終わったかな?って時に履くやつ」と笑っていました。汚れてしまってもいい、という意味です。
女性陣は皆、どんなパンツを貰ったかを報告しあい、楽しんでいました。
親密な関係ではない女性に下着を贈るという行為、それがアウトにならなかった理由は、Sさんの出自と人柄にあったのだと思います。
Sさんは都心の超一等地にいくつもの不動産を所有する家のうまれで、本当は働かなくても全く問題なく生きていけるが、世間体が気になるのでとりあえず会社員になった、という人です。
「金持ち喧嘩せず」という言葉は本当であることを私はSさんを通して理解しました。Sさんが怒鳴っているところを見たことは一度もありません。
業務では、誰かのミスを拾い、修正し、後でミスした本人だけにこっそり告げるような人でした。
Sさんには、常にゆとりがありました。
サラブレッドは、どんな場面でもサラブレッドでした。
出自は、努力でどうにかなるものではありません。Sさんの出自に勝てる人は社長以外誰もいなかったと思います。
何から何までサラブレッドなSさんと同じ土俵に立とうとする人も、一人もいませんでした。
「ホワイトデーにパンツ」は、社内ではSさんだけに与えられた権利でした。
世の中は
パンツを贈り物にすることを許される人と、許されない人、に分かれています。
許されるか許されないかは、生まれた瞬間に大方決まってしまいます。
わたしは確実に、許されない側に属しています。
誤って男性にパンツを贈ることがないように、気をつけなければいけません。