三ノ宮 山笠ラーメンの思い出
24時間オープンのこの店は、わたしが20歳位の頃バイト帰りによく通っていた。当時、国際会館にあるカジュアルフレンチ&イタリアンの店でバイトに明け暮れていた。夜のバイトが終わるのは大体、10時頃。親の店にいって一緒に帰ろうとおもうと、1時間半くらい時間があく。お腹もすく。まかないには飽きた。ということで、よくここに食べに行っていた。ここの店に来る人は、様々だ。山笠に近づいていくと、いろんな人間がきていることがわかる。のれんの中に入るまでは、みんなの下半身しかみえないわけだけれど。先のとんがった靴をはいて、だるそうに立っているのは、ホストかな、とおもったり。スカートをはいてるひとがいれば、珍しいな、女性か、とおもったり。風俗帰りのサラリーマンや、仕事前、仕事帰りの人たち、学生と様々な人間が無言でラーメンを食べる。1杯500円だし、24時間だし、駅も近い。晩御飯にしてもいいし、飲んだあとに来てもいい。とにかく手軽だった。ここの店で働く人は、大体中国人で、日本語はカタコト。中国人留学生などが、主にバイトとして、はたらいているらしい。のれんをくぐると、大きな鍋が、ぐらぐらと湧いている。そのよこにおでんがあったり、おにぎりもあったりと、ラーメンしかないのかと思いきやそうでもない。私がいつも頼んでいたのは、500円のとんこつラーメン。麺を茹でるでっかい鍋の隣には、いつも大量のチャーシューがにこまれていて、しかも、なぜか、そのチャーシューは黒い紐のようなものでくくられていた。私はそれをみながら、もしかして、タコ糸ではなくて、プラスチックみたいなのでできている紐なのではないかな、と思っていた。それにつっこむひとは、もちろんひとりもいない。「とんこつラーメンひとつ」と頼むと、カタコトで「ラーメンイッチョー」と可愛い中国人の女の子が繰り返す。可愛いけど、わりと無愛想だったりもする。もうひとついけそうだなと思ったときは、「替え玉ひとつください」といいながら、100円を差し出す。すると、目の前で即座に麺が茹でられていく。これは、私の麺だな、と思いながら見つめる。「おまちどうさまー」と替え玉を持ってくる、女の子の手には、小さな鍋の蓋。鍋の蓋の裏にのせてもってくるのだ。最初は、面食らったものの、立ち食いだし、こういうのもなんか気が抜けていいかもな、とおもった。20歳の頃、ちょうど「正しい食べ物」に飽きてきたころだったのかもしれない。バイトをして、食べてはダメだと言われるような場所で食べる。「小さな自由」だった。